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"328001011_0": "防人",
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"328001011_1": "「やっとサミットが終わったと思ったら、今度は後片付け。\\n 人使いが荒いったらないわね」",
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"328001011_2": "「まったくですよ。\\n いつになったら残業せずに帰れるのか……」",
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"328001011_3": "「なあに、もうひと踏ん張りしたら終わるさ。\\n そうしたら、ゆっくり休んでくれ」",
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"328001011_4": "「ずっとそう言われている気がするんですけどね……」",
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"328001011_5": "「それは言わない約束よ」",
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"328001011_6": "「ともあれ、各国要人に被害は無かったようで何よりです」",
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"328001011_7": "「ああ。それもこれも、君たちのおかげだ」",
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"328001011_8": "「実際、要人のすぐ傍にも傀儡人形が紛れていて、\\n オロチを倒した直後に倒れたそうですよ」",
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"328001011_9": "「本人確認をしたはずのSPにまで紛れていたって言いますから、\\n 本当に危機一髪でしたね」",
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"328001011_10": "「君たちがオロチを倒すのがもう少し遅ければ、\\n 最悪の事態が起こっていたかもしれんな」",
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"328001011_11": "「……」",
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"328001011_12": "「どうかしたか?」",
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"328001011_13": "「あ。いえ、なんでもありません」",
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"328001011_14": "「ともかく、君たちにはまたこの世界を救ってもらった。\\n いくら感謝しても足りない程だ」",
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"328001011_15": "「今回の件で草薙を悪用していた政府首脳も、\\n 肝を冷やしたでしょうよ」",
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"328001011_16": "「それはそうと、あのRN式の最後の状態だが――\\n ……俺の時と違ってあまり消耗しているようには見えんな?」",
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"328001011_17": "「それはそうでしょうよ。貴方の時とは状況が違うわ」",
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"328001011_18": "「あの時の消耗は、カルマノイズを打ち消すために精神を\\n 力へと変えて酷使した結果。その反動で消耗したのよ」",
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"328001011_19": "「今回のRN式天羽々斬も、あの時のRN式ガングニール同様、\\n Level2と言えるような変化は起こしたわ」",
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"328001011_20": "「けれど、あの時のように無理な運用をしたわけじゃない。\\n 正しく使用しただけなら、普通の消耗しかしないわよ」",
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"328001011_21": "「つまりは、俺の使い方が悪かったということなのか……?」",
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"328001011_22": "「わかっているじゃない。……でも、そうでもしなければ、\\n 私を助けるなんてできなかったでしょうけどね……」",
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"328001011_23": "「理由はどうあれ、動けなくなるような状態に\\n ならなくて助かりました」",
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"328001011_24": "「そうなってしまっては、こうして話もできませんでしたし」",
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"328001011_25": "「今回の件で、僕は翼さんから大切なことを教わりました」",
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"328001011_26": "「大切なこと……ですか?」",
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"328001011_27": "「なんのことだ?」",
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"328001011_28": "「先人から受け継いだ護国の心……魂を。\\n 僕ももう一度、それを取り戻したいと思っています」",
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"328001011_29": "「そんな、わたしなどより緒川さんの方が……」",
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"328001011_30": "「いえ、僕は一度それを捨て、逃げ出しました。\\n だから、またゼロから始めたいと考えています」",
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"328001011_31": "「翼さんを目標に……」",
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"328001011_32": "「ええッ!? わたしを……?」",
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"328001011_33": "「向こうの世界では僕が先生みたいですが、\\n こちらでは翼さんが僕の先生ですね」",
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"328001011_34": "「大げさです。やめてください」",
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"328001011_35": "「フフ、いいじゃない。\\n ファンが1人増えたと思えば?」",
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"328001011_36": "「そう言われても、何やらこそばゆくて……」",
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"328001011_37": "「慣れよ慣れ」",
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"328001011_38": "「も、もういいだろう。\\n それより、草薙の――いえ、里の人たちはどうなったんですか?」",
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"328001011_39": "「ある拠点に幽閉されていたのを発見し、\\n 無事、救出することができました」",
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"328001011_40": "「よかった。生きていたんですね」",
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"328001011_41": "「ええ。二課のみなさんが捜索を手伝ってくださったおかげです」",
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"328001011_42": "「しかしなんでまた、幽閉なんか?」",
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"328001011_43": "「オロチの命令に反対した者から次々と捕らえられ、\\n 傀儡忍者と取って代わられていたようですね」",
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"328001011_44": "「その挙げ句、周りは遂に傀儡ばかりになっちまったってか。\\n 馬鹿な奴だな……」",
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"328001011_45": "「傀儡の忍者を率いて世界を統べたところで、\\n 何が報われるというのかしらね……」",
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"328001011_46": "「本当にな……」",
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"328001011_47": "「はえー、そんなことが起きてたんだ……」",
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"328001011_48": "「お前、何も聞いてなかったのかよッ!?」",
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"328001011_49": "「だって一刻も早く、ギアを翼さんに届けるために、\\n とにかく場所だけ聞いて急いだから……」",
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"328001011_50": "「ま、まあ……そのおかげで天羽々斬も間に合ったんだし?」",
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"328001011_51": "「ですよねッ!」",
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"328001011_52": "「それにしたって、向こうであたしが説明したことくらい\\n 覚えとけッ!」",
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"328001011_53": "「あの……ところで、緒川さんはこの後\\n どうされるつもりなのですか?」",
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"328001011_54": "「この後、ですか……。\\n まずは、自分のやったことの始末をつけるところからですね」",
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"328001011_55": "「では、ありがとうございました。\\n RN式天羽々斬、確かにお返しします」",
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"328001011_56": "「……ああ」",
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"328001011_57": "「それと、自首させてください」",
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"328001011_58": "「緒川さんッ!?」",
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"328001011_59": "「いいんです。僕は嘘の身分で二課へと潜入、\\n そして開発中のRN式を強奪した犯罪者ですから」",
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"328001011_60": "「しかし、それには理由が――」",
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"328001011_61": "「理由があろうとなかろうと、法を犯せば犯罪者です。\\n そうですよね?」",
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"328001011_62": "「……そうだ。お前のやったことは罪であり、\\n 許されざることだ。それを有耶無耶にはできない」",
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"328001011_63": "「ええ、それが正しいことです」",
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"328001011_64": "「……連れて行け」",
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"328001011_65": "「では僕はこれで。\\n 翼さん、装者のみなさん、本当にありがとうございました」",
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"328001011_66": "「風鳴司令……緒川さんのことは――」",
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"328001011_67": "「それは、例え君たちの願いでも聞くことはできない。\\n 罪には罰を。その原則を歪めれば、法が意味を失ってしまう」",
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"328001011_68": "「でも、あの相手を倒せたのだって、緒川さんの協力が\\n あったからだし……」",
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"328001011_69": "「一般人が知ってはならない機密を知り、あまつさえそれを\\n 奪って逃げたのよ? 多少の功があっても、帳消しは無理ね」",
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"328001011_70": "「……」",
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"328001011_71": "「……でも、ずっと檻の中ってわけじゃないんだろ?」",
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"328001011_72": "「……どうだろうな。\\n 量刑については、これから判断することになる」",
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"328001011_73": "「法に則って、厳格にこれを運用する。\\n どういう結果が出るかは……俺が決められることじゃない」",
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"328001011_74": "「なんだか、やるせないわね……」",
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"328001011_75": "「あの、風鳴司令。\\n 1つだけ頼みがあるのですが――」",
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"328001011_76": "「減刑以外なら、聞こう」",
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"328001011_77": "「それなら――」",
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"328001011_78": "「よかったの?\\n あの子たち、多分誤解したままよ?」",
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"328001011_79": "「なんのことだ?」",
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"328001011_80": "「あの男の処遇について。罪は罪なのは確かだけど、\\n このまま監視下におくつもりなんでしょう?」",
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"328001011_81": "「……」",
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"328001011_82": "「元草薙の頭領の血筋だけあって、あの男は余計なことまで\\n 知りすぎている」",
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"328001011_83": "「素直に政府の上役に知らせて処遇を任せれば、極刑か再び\\n 新たな草薙の長として、闇に沈められるかのどちらか」",
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"328001011_84": "「あの男は、きっと闇に生きることは選ばない。\\n そうなれば、自ずと処分されるでしょうね」",
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"328001011_85": "「ああ、そうだろうな。\\n 光を見つけた以上、闇に生きるのは耐えられないだろう」",
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"328001011_86": "「だから監視下に置くつもりなんでしょう?\\n 処分されないよう、あなたが責任を持つという名目で」",
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"328001011_87": "「……なんのことを言っているのかわからんな」",
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"328001011_88": "「今ここで聞いているのは、私だけよ。\\n なのに、そうやってとぼける気?」",
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"328001011_89": "「……」",
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"328001011_90": "「まあ、いいわ。\\n 答えは聞かなくてもすぐにわかることだしね」",
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"328001011_91": "「翼さん? どうしてここに?」",
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"328001011_92": "「我々は向こうで待機しています。\\n 終わったら声をかけてください」",
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"328001011_93": "「はい、ありがとうございます」",
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"328001011_94": "「なるほど。僕がここに連れてこられたのは、\\n 翼さんの差し金でしたか」",
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"328001011_95": "「はい。風鳴司令に無理を聞いてもらいました。\\n 少しだけ、緒川さんと話をさせてほしいと」",
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"328001011_96": "「まずは、これをお返しします」",
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"328001011_97": "「天叢雲剣……」",
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"328001011_98": "「折ってしまい、申し訳ありません」",
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"328001011_99": "「いえ、元々、刀身自体には意味がなかった剣。\\n それに、僕では使いこなせませんでしたから」",
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"328001011_100": "「代々、緒川家に伝わる家宝ではありますが、\\n あなたに差し上げても僕はよいと思っています」",
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"328001011_101": "「いえ、そういうわけにはいきません」",
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"328001011_102": "「この聖遺物は、あくまでこの世界の物。\\n みだりに別の世界に持ち出す訳にはいかないのです」",
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"328001011_103": "「そうですか。わかりました」",
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"328001011_104": "「もし、必要になった時は言ってください」",
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"328001011_105": "「とは言っても、僕は囚われの身ですから、\\n 一旦は、二課にお預けすることになると思います」",
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"328001011_106": "「それで……お話というのは?\\n この天叢雲剣についてですか?」",
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"328001011_107": "「はい……、それともう1つ――」",
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"328001011_108": "「その……どうしても腑に落ちないのです」",
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"328001011_109": "「腑に落ちない?」",
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"328001011_110": "「オロチの最後についてです」",
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"328001011_111": "「あの日、なぜオロチは、わたしと戦うことに拘ったのか」",
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"328001011_112": "「なぜオロチは、作戦の遂行よりも私闘を優先したのか……」",
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"328001011_113": "「ギアの無いわたしが目の前に現れた時、\\n 傀儡忍者に任せて無視をすることもできたはず」",
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"328001011_114": "「わたしとの戦いにしても、決着をつけようと思うなら、\\n 簡単につけられたはずなのです」",
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"328001011_115": "「そして緒川さんが現れた後でも、いつでも傀儡忍者を動かして、\\n 目的である世界大火計画を遂行することもできたはず……」",
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"328001011_116": "「…………」",
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"328001011_117": "「何度もその機会はあったのに、\\n なぜそれでも、わたしたちとの戦いを優先したのか……」",
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"328001011_118": "「なぜ、暗殺のために要人のすぐ傍に伏せさせていた\\n 傀儡人形も動かさなかったのか……」",
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"328001011_119": "「そんなことを、ずっと考えていました」",
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"328001011_120": "「そう、ですね……」",
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"328001011_121": "「前にもお話しした通り、\\n 僕ら草薙は元々『国を護る』忍び集団でした」",
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"328001011_122": "「先々代、僕の父親が頭領だった時は実際に大きな事件を、\\n 犠牲を払いつつも、未然に防いだこともありました」",
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"328001011_123": "「その頃は、草薙の忍びの誰もが、護国の誇りを胸に、\\n 命を賭して戦っていました」",
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"328001011_124": "「先々代の父が亡くなり、僕の兄が頭領を継いたばかりの頃は――\\n つまり、僕が出奔する少し前のことですが」",
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"328001011_125": "「その頃、兄の部下として戦っていた頃のオロチも、\\n 誇りを胸に忍びの道を歩んでいた1人でした」",
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"328001011_126": "「オロチが……?」",
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"328001011_127": "「ええ、そうです」",
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"328001011_128": "「ですが、そんな彼らの誇りなどあざ笑うかのように、\\n 政府から下されたのは、護国と関係のない汚れ仕事ばかりでした」",
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"328001011_129": "「権力者個人の私欲のために草薙はひたすらに使い潰され、\\n やがて、その誇りと理念と存在意義を失ってしまった……」",
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"328001011_130": "「…………」",
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"328001011_131": "「僕と弟は、それが我慢できず、草薙を離れました」",
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"328001011_132": "「兄が頭領としてどれだけ苦しみながら草薙を護ろうとし、\\n どれだけの苦悩の下に汚れ仕事をこなしていたかも知ろうとせず」",
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"328001011_133": "「緒川さん……」",
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"328001011_134": "「本当ならば僕らも残り、兄を支え、\\n 少しでも草薙を正す道を選ぶべきだったのです……」",
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"328001011_135": "「ですが、あの時の僕は、そこまでの考えに至りませんでした」",
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"328001011_136": "「己の理想が穢れていくことに、耐えられなかった」",
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"328001011_137": "「草薙に残ったオロチもまた、変わりゆく草薙に絶望し、\\n やがて誇りを見失い、あのようになったのでしょう……」",
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"328001011_138": "「覚えていますか? オロチは翼さんの防人、\\n という言葉にこだわっていました」",
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"328001011_139": "「かつてオロチも、防人として、国を護ろうとしていた。\\n しかし、それを諦めてしまった」",
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"328001011_140": "「だから、その想いを持ち続けている翼さんが許せず、\\n その志を、理想を折ろうとした」",
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"328001011_141": "「それは、彼にとって世界を戦火に塗れさせるより、\\n 優先しなければならないことだったのだと思います」",
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"328001011_142": "「僕には、少しだけわかる気がします。\\n 同じく理想を諦めた身でしたから……」",
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"328001011_143": "「今にして思えば、彼はある意味草薙で誰よりも\\n 純粋な想いを持った男だった様に思います」",
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"328001011_144": "「きっと理想と現実との差に心を砕かれ、その反動が故に、\\n あの様な極端な考えを抱いてしまったのでしょう……」",
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"328001011_145": "「ですが、それでも、彼は草薙を愛していた」",
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"328001011_146": "「彼が……草薙を?」",
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"328001011_147": "「ええ……。そうでなければ、己の考えに反抗を示した忍びたちを\\n わざわざ生かしておく必要はなかったはず」",
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"328001011_148": "「そういえば……」",
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"328001011_149": "「ひとたび事を為せば、草薙の者たちも従うしかないと――\\n そう考えていたのでしょう」",
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"328001011_150": "「そして、政府の軛から外れ、表の世界での力を得れば、\\n 己の考えを曲げずに済むのだと……そう願った」",
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"328001011_151": "「そんな。草薙に誇りを抱き、愛していたからこそ、\\n 彼はあそこまで狂ったというのですか……?」",
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"328001011_152": "「恐らくは。今となっては僕の想像でしかありませんが」",
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"328001011_153": "「ですが、草薙に残っていたら、\\n 僕もオロチと同じようになっていたかもしれません……」",
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"328001011_154": "「緒川さんは、そんな方ではありませんッ!」",
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"328001011_155": "「いえ、僕はあなたのように強い人間ではありませんよ」",
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||
"328001011_156": "「言った通り、変わりゆく草薙に耐えられず逃げ出した人間です」",
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||
"328001011_157": "「わたしも、そこまで強い人間ではありません……。\\n 剣が折られ、心も何度も折れそうになりました」",
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||
"328001011_158": "「それでも、折れなかった。\\n それが、翼さんです」",
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||
"328001011_159": "「わたしだけの功績ではありません。わたしを見守り、\\n わたしに言葉をくれる仲間がいたから、耐えられたのです」",
|
||
"328001011_160": "「それを含めての心……そして力なんです。オロチも、僕も、\\n だからみんな、あなたには敵わなかったんです」",
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"328001011_161": "「そういうものなのでしょうか……」",
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"328001011_162": "「はい、間違いありません。なぜなら僕も、許されるなら\\n 誰よりも輝く翼さんの姿を、見ていたいと思いますから」",
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||
"328001011_163": "「きっと、そちらの世界の僕も同じです」",
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||
"328001011_164": "「わたしの世界の、緒川さんが?」",
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||
"328001011_165": "「はい」",
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"328001011_166": "「では、名残惜しいですが自分も罪を償わなければいけません」",
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"328001011_167": "「ここまでにしましょう」",
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"328001011_168": "「……わかりました。\\n いずれまた、お会いしましょう」",
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"328001011_169": "「はい。全ての償いを終えた後、\\n 願わくば再び、共に肩を並べて戦える日を」",
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"328001011_170": "「そして、さらに望めるならば。\\n いつか平和になった世界で、未来を語り合える日が来ることを」",
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"328001011_171": "「わたしも……そう願います」",
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"328001011_172": "「では、その時まで。しばしのお別れです」"
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