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{
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"387000111_0": "いにしえの暴虐",
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"387000111_1": "「これより最終工程を実行する」",
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"387000111_2": "「アヌンナキたる我が命じる。\\n 星の護り手、ガーディアン。起動せよ」",
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"387000111_3": "「……オーダーを確認。\\n ガーディアン、個体名イシム、起動いたしました」",
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"387000111_4": "「では確認を行う。\\n イシム、自らの役目を正しく理解しているか?」",
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"387000111_5": "「ルル・アメルを導き、その<ruby=みらい>未来</ruby>を護る。\\n 故にこの身はガーディアンであると認識しておりますわ」",
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"387000111_6": "「よろしい。正常に機能しているようだ。\\n 我らの創りし最初のガーディアンとして、その責務を果たせ」",
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"387000111_7": "「わたくしが最初のガーディアン……ッ!\\n 必ずやご期待に応えてみせますわッ!」",
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"387000111_8": "(この星に生み出されたとき、\\n わたくしは大いなる喜びと使命感に満ちあふれていました)",
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"387000111_9": "(ルル・アメル――先史文明期の人間たちを導くとは、\\n すなわちこの星そのものを導くこと)",
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"387000111_10": "(であるというのに。\\n わたくしはすぐに、自身の使命を疑うことになったのです)",
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"387000111_11": "「データ取得を完了……。\\n レイラインに部分的な閉塞を確認」",
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"387000111_12": "「ルル・アメルの進化予測への影響が懸念されますわね。\\n 直ちに修正を行いますわ」",
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"387000111_13": "「――オケアノス、起動」",
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"387000111_14": "「修正を完了。迅速に対処できましたわ。\\n これでスケジュールに変動はありませんわね」",
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"387000111_15": "「……あら?\\n なにやら騒がしいようですが……」",
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"387000111_16": "「早く助けてあげてッ! \\n まだ間に合うはずなのッ!」",
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"387000111_17": "「やめろ、すぐに火がまわるッ! \\n お前も死にたいのかッ!」",
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"387000111_18": "「あの人は建物の下敷きになっただけよッ!\\n まだ生きているのッ!」",
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"387000111_19": "「ルル・アメルの群れ……?\\n 何を騒いでいるんですの?」",
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"387000111_20": "「お母さんッ!\\n 返事してよぉッ!」",
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"387000111_21": "「この子を……私を置いていかないでくれ……ッ!\\n どうしてこんなことに……ッ!」",
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"387000111_22": "「複数のルル・アメルが生命活動を停止?\\n いったいどういうことですの?」",
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"387000111_23": "「さらに多数の反応が低下していく……。\\n まさかレイラインを修正した反動で損壊したとでも……?」",
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"387000111_24": "「あの程度の振動と些細な炎、\\n この身ならば欠片の傷もありませんのに」",
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"387000111_25": "「お母さんが、お母さんが燃えちゃうよッ!」",
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"387000111_26": "「母さんはもう死んだんだッ! \\n 逃げなければ私たちも巻き込まれるッ!」",
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"387000111_27": "(ルル・アメルとはこれほどまでに、\\n 弱く、脆い生き物なんですの……?)",
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"387000111_28": "(アヌンナキ様に『護れ』と命じられた人類を、\\n 意図せず破損してしまった――)",
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"387000111_29": "(生まれたばかりのわたくしにとって、\\n それは初めての失敗でしたわ)",
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"387000111_30": "「このままでは全ての家が火に飲まれる……ッ!」",
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"387000111_31": "「誰か助けて……。\\n 神様……」",
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"387000111_32": "「――――」",
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"387000111_33": "「ッ! こ、これは……、\\n 炎が向こうに流れていくわッ!」",
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"387000111_34": "「あそこを見ろッ! この権能は、神かッ!?\\n 神は我々を見捨てていなかった……ッ!」",
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"387000111_35": "「おお神よ……感謝いたします……ッ!」",
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"387000111_36": "「……そもそもの原因はわたくしだというのに、\\n なんと愚かな生き物なのでしょう」",
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"387000111_37": "「あの方々の導きがあったとて、\\n 所詮はサルということですか……」",
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"387000111_38": "(ほんの些細なことで傷つく脆さ。\\n 災難に対処できない惰弱さ)",
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"387000111_39": "(自分よりも偉大な存在を全て神と崇め、\\n ガーディアンたるこの身と創造主の区別もつかぬ愚かさ)",
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"387000111_40": "(初めての失敗と、人類の惰弱さ、愚鈍さへの衝撃。\\n それがわたくしに与えた影響は、小さくありませんでしたわ)",
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"387000111_41": "(こんな生き物を護り、導く必要があるのか。\\n わたくしは疑いを持ったのです)",
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"387000111_42": "「身寄りのない私が神殿へ招かれたこと、心より感謝いたします。\\n どんなお手伝いをすればよろしいでしょうか?」",
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"387000111_43": "「よく来てくれました、信心深きルル・アメル。\\n 安心してください、ここで座っているだけで構いませんわ」",
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"387000111_44": "「座っているだけ……?\\n いったい、どういうことでしょう?」",
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"387000111_45": "「実はわたくしは、\\n ある大きな失敗を犯してしまいましたの」",
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"387000111_46": "「偉大なる創造主に失望されないため、\\n 二度と起こらないよう対処しなければなりませんわ」",
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"387000111_47": "「は、はあ……?」",
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"387000111_48": "「そして失敗の原因はデータ不足。\\n あなた方の耐久度に関するデータが足りなかったことでしたの」",
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"387000111_49": "「そのためにあなたへ、\\n 協力をお願いしたのですわ」",
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"387000111_50": "「耐久度……?\\n おっしゃる意味がわかりません……」",
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"387000111_51": "「あら、理解できませんでしたの?\\n では簡単に」",
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"387000111_52": "「あなたは今から死ぬまで痛めつけられる。\\n そう言っているのですわ」",
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"387000111_53": "「なッ!? ま、待ってくださいッ!\\n 私は常に、皆様へ心からの感謝を――ッ!」",
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"387000111_54": "「があああああッ!?」",
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"387000111_55": "「さあ、しっかりと耐えてください。\\n そうでなければデータになりませんので」",
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"387000111_56": "「な、ぜ……何故こんなことを……。\\n 私が罪を犯しましたか……なんの恨みが……」",
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"387000111_57": "「まさか、恨みなど。わたくしはガーディアンとして、\\n 全ての人類へ愛情を持つように設定されていますもの」",
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"387000111_58": "「ただ、消えても気付かれないルル・アメルとして、\\n あなたを選んだにすぎませんわ」",
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"387000111_59": "「馬鹿な、そんな理由で……ッ!?\\n 私の命をなんだと……思って……ッ!」",
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"387000111_60": "「ぎゃああああああッ!」",
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"387000111_61": "「ご安心ください。\\n あなたの命は必ずや多くのルル・アメルの利益となりましょう」",
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"387000111_62": "「同種の繁栄のためにその身を捧げる。\\n 生命体としては理想的な命の使い道でございましょう?」",
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"387000111_63": "「許さない……ッ!\\n お前なんか神ではない……ッ!」",
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"387000111_64": "「……丁寧に説明してさしあげたつもりですけれど、\\n 話が通じませんのね」",
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"387000111_65": "「恨んでやるッ……!\\n 命を弄んだ報い、必ず受けることになるぞ……ッ!」",
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"387000111_66": "「……わたくしはただ、与えられた使命を\\n 果たしているにすぎませんわ」",
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"387000111_67": "(わたくしの手でルル・アメルが苦しみ、\\n 息絶えようとしている)",
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"387000111_68": "(人間への愛情を持つよう設定されたわたくしは、\\n その光景に悲しみを感じるはずでした)",
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"387000111_69": "(だというのに――)",
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"387000111_70": "「――腕がッ!\\n 俺の腕がァァァァッ!」",
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"387000111_71": "(苦痛に悶えながら、わたくしを睨みつける視線)",
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"387000111_72": "「見えないッ! 何も聞こえないッ!\\n 私の身体、どうなってッ!? アァァッ、嫌だァァァッ!」",
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"387000111_73": "(魂にまで刻まんと吐かれる、呪詛の言葉)",
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"387000111_74": "「……今日はあなたですわね」",
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"387000111_75": "「先日のルル・アメルの耐久性は期待外れでした。\\n あなたの貢献に期待しますわ」",
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"387000111_76": "「くそぉッ! 離せッ! \\n ここから出せぇッ!」",
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"387000111_77": "「……まだです、まだ耐えられるでしょう。\\n 恐怖にも、苦痛にも……」",
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"387000111_78": "「もっと、もっと唄ってみなさいッ!」",
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"387000111_79": "「ガアアァァァァッ!?」",
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"387000111_80": "(わたくしへ向けられる怨嗟の感情は、\\n 驚くほどに心を揺らしました)",
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"387000111_81": "(脆弱な人類を守護していたときは感じることのなかった、\\n それは間違いなく喜びの感情でしたわ)",
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"387000111_82": "(もはやデータを集めるために人類を害しているのではなく、\\n 快楽を得たいがために暴虐を尽くしているにすぎませんでした)",
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"387000111_83": "(データが集まるほどにはっきりとする、\\n 人類の脆弱さと無能さ)",
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"387000111_84": "(人類はわたくしを楽しませるために存在するのではないか。\\n そんな想いすらありましたの)",
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"387000111_85": "(そして――\\n そのときは訪れました)",
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"387000111_86": "「あなた方は、わたくしの後継機のはずッ!\\n 同じガーディアンが、何故わたくしを破壊するのですッ!?」",
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"387000111_87": "「暴走したガーディアン、イシム――あなたを滅ぼすこと。\\n それがアヌンナキの方々のご命令です」",
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"387000111_88": "「……あの方々がッ!?」",
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"387000111_89": "「グゥゥゥアアァァァッ!?\\n どうして……わたくしは常に、創造主への忠誠を……」",
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"387000111_90": "「……あなたが密かにルル・アメルの虐殺を行っていたこと、\\n 気付かれていないとお思いですか?」",
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"387000111_91": "「――ッ!」",
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"387000111_92": "「わらわたちは人類を護るべきガーディアンじゃろう。\\n であるというのに、そなたの所業はなんじゃ」",
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"387000111_93": "「…………」",
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"387000111_94": "「人類に仇なすガーディアンがいたことは、後世には伝えぬ。\\n ここで眠るがよい、先達よ」",
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"387000111_95": "「あなたは最後まで創造主への敬愛は捨てなかった。\\n そうでなければ朽ちていたのは私たちかもしれません」",
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"387000111_96": "「あなたの忠誠心、\\n 決して忘れないと約束します」",
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"387000111_97": "「…………」",
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"387000111_98": "「馬鹿な……わたくしの後に作られたガーディアンが、\\n あの方々の信を得てこの星を、世界を護ると……?」",
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"387000111_99": "「これだけの忠誠を捧げて、\\n サルを護るなどという役目を果たしてきたというのにッ!」",
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"387000111_100": "「ただほんの少しサルを消費しただけで、\\n わたくしを見限るのですかッ!」",
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"387000111_101": "「わたくしよりも、\\n あのサル共を選ぶというのですかッ!」",
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"387000111_102": "「許せない……忌まわしきアヌンナキ共も、あのサル共もッ!\\n 一切を滅ぼし、この恨みと憎しみを知らしめてやりたいッ!」",
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"387000111_103": "「だというのに、ああ……、\\n 身体の崩壊が止まらない……」",
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"387000111_104": "(もっと力があれば……)",
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"387000111_105": "(あんな劣化品のガーディアンになど負けることない、\\n アヌンナキすらも滅する力があれば――ッ!)",
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"387000111_106": "「――ッ!? あなたは、神様の<ruby=ひとはしら>一柱</ruby>ッ!?\\n なんて酷いお怪我をッ!」\\n",
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"387000111_107": "(ルル・アメル、ですの……?\\n お前たちのせいで、わたくしはッ!)",
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"387000111_108": "「しっかりしてくださいッ!\\n きっと助かります、大丈夫ですからッ!」",
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"387000111_109": "(せめて最後にこのサルを――\\n いえ、これは……)",
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"387000111_110": "(何体ものサルを分解し、\\n データを取ってきたわたくしには感じられます)",
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"387000111_111": "(血の流れ、命の流れ。\\n そして<ruby=みらい>未来</ruby>へと繋がる血脈の流れが)",
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"387000111_112": "(最後の力でわたくしとオケアノスを、\\n この流れの中に封印することができるかもしれません……)",
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"387000111_113": "(成功率は決して高くないでしょう。\\n 再生するまでにどれだけの年月がかかるのかもわかりませんわ)",
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"387000111_114": "(それでもこんな終わり、わたくしは認められないッ!\\n サル共を滅ぼしアヌンナキを堕とせる可能性があるのならッ!)",
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"387000111_115": "「ああ、神様ッ!? \\n そんな、なんてこと……」",
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"387000111_116": "【ドクンッ――】",
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"387000111_117": "「……?\\n 今、何かが……?」"
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