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"389000611_0": "『完全』に至る力",
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"389000611_1": "（…………暗い）",
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"389000611_2": "（……寒いのか、暑いのかも、わからない）",
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"389000611_3": "（ここは……どこだ……？\\n わたしは……何をしている……？）",
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"389000611_4": "（――ッ！\\n そうだ、わたしは……ッ！）",
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"389000611_5": "（月読は、暁は……\\n ニケは無事なのか？）",
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"389000611_6": "（身体が、動かない……よもや、わたしは負けたのか。\\n 誰も、何も護れずに？）",
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"389000611_7": "（今度こそ遅れは取らぬと、そう決意したのに……ッ！\\n わたしは、まだこれほどにも弱いのか……）",
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"389000611_8": "（…………）",
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"389000611_9": "（あの力……『メフィストフェレスの薬』だったか。\\n あの聖遺物には、時を戻す力があるといっていた）",
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"389000611_10": "（だとすれば、わたしの時間もまた、\\n 巻き戻されたということだろうか……？）",
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"389000611_11": "（ならば、今のわたしは何者だ……？\\n 赤子か？ 胎児か……？ それとも……）",
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"389000611_12": "「――」",
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"389000611_13": "（わたしを呼ぶ、声……？）",
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"389000611_14": "「――、――――」",
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"389000611_15": "（誰だ……わたしは、呼ばれているのか……？\\n 優しくて、あたたかい……この声は……）",
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"389000611_16": "（奏……ッ！？）",
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"389000611_17": "（そんなに優しい瞳でわたしを見ないで、奏。\\n 強くなると何度奏に誓っても、わたしはこんなにも無力なまま）",
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"389000611_18": "（数多の修羅場を潜り抜けて尚、\\n あのときから、何も変わっていない……）",
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"389000611_19": "（奏という片翼を失ったあのときから、\\n わたしの中の時間は、今もまだ……）",
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"389000611_20": "（どれだけの新たな絆を紡いでも、\\n 欠けた翼は、もう還らない。それなら、わたしは――）",
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"389000611_21": "「――」",
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"389000611_22": "（奏……？",
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"389000611_23": " 待って、行かないでッ）",
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"389000611_24": "（……違う。奏が行ってしまうわけじゃない、\\n わたしが、引っ張られているんだ――どこに？）",
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"389000611_25": "「――さん、翼さんッ！」",
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"389000611_26": "（ああ……そうか、この呼び声は……。\\n わたしが『今』帰るべき、奏のいない、不全の世界からの……）",
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"389000611_27": "（優しくて、残酷な――）",
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"389000611_28": "「翼さん……ッ！」",
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"389000611_29": "（ああ、わかってる。本当はわかっているんだ……\\n 奏がいない世界でも戦わなくちゃ――生きなくちゃ、って）",
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"389000611_30": "（何度心が泣き叫んでも、どれだけの喪失に<ruby=くずお>頽</ruby>れそうになっても。\\n それは、わたしを呼んでくれる誰かがいるからだけじゃない……）",
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"389000611_31": "「翼さん……ッ！\\n お願いデス、目を覚ましてくださいデスよ……ッ！」",
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"389000611_32": "（わたし自身が、<ruby=不完全な>奏がいなくなった</ruby>世界でも、そこに生ける人々を\\n 美しいと、護りたいと、何度だってそう思ったから……ッ！）",
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"389000611_33": "（ああ、そうだった。わたしはいつだって無力に等しい。",
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"389000611_34": " だが、それでも、この力こそがわたしを支えてくれていた……ッ）",
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"389000611_35": "（決して止まることなき時の流れの中で、\\n 紡ぎ、培い、重ねあわせてきたこの絆たちが……ッ！）",
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"389000611_36": "（あたたかな、光……。\\n この温もりと輝きは……）",
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"389000611_37": "（奏、あなたも、わたしの背を押してくれているの？",
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"389000611_38": " それとも……）",
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"389000611_39": "（いや、よそう。\\n 振り返らなくていい、今は……ッ！）",
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"389000611_40": "「くっ……ぅぅ……」",
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"389000611_41": "「翼さん……ッ！」",
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"389000611_42": "「２人とも……\\n 良かった、無事だったんだな」",
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"389000611_43": "「良かったはこっちの台詞デスッ！\\n 心臓がきゅきゅきゅーッとなったデスよ……」",
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"389000611_44": "「すまないな……わたしが気を失っている間、\\n ずっと呼びかけていてくれたのか？」",
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"389000611_45": "「デスデスッ！ 多少寝起きが悪くたって、\\n 絶対起きてくれるって信じてたデスからッ！」",
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"389000611_46": "「どんなに傷付いても……防人の剣は、\\n 決して折れないことをわたしたちは知ってますから」",
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"389000611_47": "「それに、わたしたちを護って、そのまま――なんて。\\n わたしたちだって、諦められるわけがないです」",
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"389000611_48": "「そうか……そうだな。\\n 重ね重ねすまない、ありがとう」",
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"389000611_49": "「だが、おかげで再認識することができた」",
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"389000611_50": "「再認識……？」",
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"389000611_51": "「デス……？」",
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"389000611_52": "「２人の強さと、あたたかさだ。\\n 暗闇の中に在るものも、その光に手を伸ばさずにいられない――」",
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"389000611_53": "「え……ッ？」",
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"389000611_54": "「それはむしろ、きっと……\\n アタシたちが最初に翼さんたちにもらったものデスよ……」",
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"389000611_55": "「翼さん、状況は良くないです。わたしたちが目覚めたときには、\\n ゲオルクはもう、ここにいませんでした」",
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"389000611_56": "「アタシたちだけで追っても、悔しいデスが力足らずデス」",
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"389000611_57": "「だから、翼さんがちゃっちゃと起きてくれることを信じて\\n 呼びまくることにしたデスよッ！」",
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"389000611_58": "「行きましょう。ニケも、乗組員の人たちも護るために――\\n 翼さんの力が必要ですッ！」",
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"389000611_59": "「その判断に、感謝しよう。\\n ……わたしなどより、よほど的確な判断をしてくれたと思う」",
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"389000611_60": "「そんな……」",
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"389000611_61": "「……卑下しているわけではない。\\n だが、わかるのだ。わたしの力だけでは、到底足らぬとな」",
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"389000611_62": "「故に――月読、暁。",
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"389000611_63": " この事態を収めるべく、２人の力を貸してくれッ！」",
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"389000611_64": "「いくらだってッ！\\n 翼さんが嫌だって言っても押し掛けナントカデスよッ！」",
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"389000611_65": "「フ……さあ、行こうッ。",
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"389000611_66": " ここはまだ、敵の只中だッ！」",
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"389000611_67": "「はい（デス）ッ！！」",
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"389000611_68": "（そうだ、わたしはもう迷わないと決めたはず。\\n 時は戻らない……いや、戻してはいけないのだッ！）",
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"389000611_69": "（たとえわたし自身が容易く変われなくとも、\\n 不全のわたしを支えてくれる、こんなにも心強い友がいる）",
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"389000611_70": "（片翼のままだとて、支えがあればいくらだって飛べる。\\n その可能性をわたしは持っているのだ）",
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"389000611_71": "（今までも、そしてこれからもッ！\\n そうだよね、奏……ッ！）"
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