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"342000932_0": "「思い出せ。ジャネットだった自分を。\\n 紛い物ではない、ジャンヌとしての記憶を」",
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"342000932_1": "「まだそんなことを――ッ!」",
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"342000932_2": "「でなければ、私はお前の刃を受け入れられない。\\n お前は、あの火刑の時、一体何を思っていた……」",
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"342000932_3": "「そこまで知りたいなら、教えてあげますッ!\\n ――全てに絶望し、苦痛と苦悶の中で命を失ったのですッ!」",
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"342000932_4": "「……それは、本当にお前の記憶なのか?\\n 私の見た、あの日のお前はそうではなかった」",
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"342000932_5": "「絶望ではない。お前は穏やかな表情を浮かべ、ただ静かに、\\n 1度も苦悶の声など上げず、炎に呑まれていった……」",
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"342000932_6": "「……違うッ! 違うはずですッ!\\n わたしは、死の運命を、受け入れてなど……」",
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"342000932_7": "「私はお前が最後につぶやいた言葉がなんなのかを知りたい。\\n 何を思い、なんの言葉を残したのか……それを思い出してくれ」",
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"342000932_8": "「最後の……言葉……そんなものッ!\\n 恨み言に決まっていますッ! だってジルがそうだと――ッ!」",
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"342000932_9": "「あの処刑の日、ジルはその場にはいなかった」",
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"342000932_10": "「…………え?\\n だってジルは、わたしの従者――」",
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"342000932_11": "「お前には従者などいなかった。\\n 戦功を立てた後も、専属の従者などは持たなかった……」",
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"342000932_12": "「従者が……いない……? では、ジルは……?\\n ジルは、子供のわたしを救い、それから従者に――」",
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"342000932_13": "「……救われた時のことは覚えているのか。お前が12歳の時、\\n ドンレミ村が襲われ、村人たちが数多く死んだ日のことを」",
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"342000932_14": "「あの日、イングランド王国兵が夜盗を装い、\\n ドンレミ村に現れた。そして、村を焼いた……」",
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"342000932_15": "「……どうして、そのことを……。\\n それは村の者か、わたしを助けたジルしか――」",
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"342000932_16": "「奴らは家へ押し入り、幼いお前を斬りつけ、火を放った。\\n お前は、怪我で動くことができなかった……」",
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"342000932_17": "「その時、偶然近くにいた私は、お前の声を聞いた。\\n 助けて、という声を」",
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"342000932_18": "「…………」",
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"342000932_19": "「――自分ではなく、みんなを、大切な人たちを助けてと願う、\\n 小さな祈りを」",
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"342000932_20": "「――ッ!?」",
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"342000932_21": "「だから私はお前を助けた。死の淵にあるその瞬間でも、\\n 他人を思いやれる優しい心根の持ち主を、死なせたくなかった」",
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"342000932_22": "(わたしの――祈り……。\\n それは、誰も――。知っている者、は……)",
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"342000932_23": "「それが、本当のお前だ。誰よりも優しく、\\n 宝石のような美しい心を持った、私の知るジャネットだ……」",
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"342000932_24": "「……わたし、は……ジャネット……なの……?\\n ジャンヌじゃない……わからない……。あなたは……」",
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"342000932_25": "「ジャネットは、お前がまだあの村で暮らしていた頃の呼び名だ。\\n 剣を取りジャンヌ・ダルクと呼ばれるようになったが……」",
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"342000932_26": "「私だけはジャネットと呼び続けた」",
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"342000932_27": "「そんな……わからない……何も……、\\n 思い出せない……ッ!」",
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"342000932_28": "「……約束を、覚えているか?」",
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"342000932_29": "「約、束……?」",
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"342000932_30": "(大事な、約束……。\\n そうだ、わたしは、誰かと――)",
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"342000932_31": "「私は、覚えている。\\n だから、お前にも思い出して欲しい」",
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"342000932_32": "「……この手を、取ってくれないか。\\n 今度こそ、私はお前を救うと決めてきたんだ」",
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"342000932_33": "(この、手……そうだ。\\n 幼いわたしを、救ってくれた――)",
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"342000932_34": "「天、使さ――」",
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"342000932_35": "「――殺せッ!」",
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"342000932_36": "「――ッ!? あ……」",
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"342000932_37": "「……手を……取ってくれたな。\\n よかっ、た……」",
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"342000932_38": "「サンジェルマンさんッ! 剣が刺さって――ッ!?」",
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"342000932_39": "「わたし……が、刺し、た……?\\n 天使、様を……?」",
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"342000932_40": "「……ようやく、会えたな。ジャネット……。\\n 約束、思い出してくれ……たんだ、な……」",
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"342000932_41": "「あ……ああああああ――ッ!!」",
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"342000932_42": "「私の従者に……?」",
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"342000932_43": "「……私は人の世から外れた者だ。\\n もう、普通の暮らしをすることもできなくなるぞ」",
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"342000932_44": "「……そうだな。それも悪くないかもしれない」",
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"342000932_45": "「ああ、わかった。約束だ」",
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"342000932_46": "「ただ、私についてくるのならば、\\n お前にも色々と覚えて貰わなければならないな」",
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"342000932_47": "「――時間なら、いくらでもある。\\n だから、必ず生きて帰ってこい」",
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"342000932_48": "「天使様……天使様ああああああッ!!」",
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"342000932_49": "(そうだ、わたしはあの火刑の日――)",
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"342000932_50": "「それでは刑を執行するッ!\\n ――火を放てッ!」",
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"342000932_51": "(……わたしは多くの敵を殺してきました。\\n 戦いの最中とはいえ、その罪は償わねばなりません)",
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"342000932_52": "(だから、こうして終わりを迎えることは当然のことでしょう。\\n 最後に、天使様に心からの感謝とお詫びを――)",
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"342000932_53": "「天使様……あなたからお受けしたご恩を返せず、\\n 申し訳ございません……」",
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"342000932_54": "「あなたと交わした約束を果たせず、\\n 申し訳ございません……」",
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"342000932_55": "「ですが、あなたのおかげで、わたしは幸せのうちに、\\n こうして天へと向かうことができます……」",
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"342000932_56": "「天の世界にて、もし再びお会いすることができたなら、\\n 今度こそ、わたしを天使様のお傍に――」"
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