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{
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"359000111_0": "過去と未来と",
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"359000111_1": "「ロック解除――。\\n 記録の再生を開始します」",
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"359000111_2": "「ここに記録されている出来事は――」",
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"359000111_3": "「自分のことを他人に語ろうとしないテスラが、\\n ある時不意に私に話してくれた、彼の人生の物語」",
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"359000111_4": "「今から100年以上も前に起こったことだけど、\\n 現在にまで続いている、悲しい物語――」",
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"359000111_5": "「交流電流、無線通信、蛍光灯やネオン、レントゲンなどなど。\\n 当時、彼は既に数々の発明をしていたわ」",
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"359000111_6": "「それらは世の中にも受け入れられ、普及していった。\\n テスラ自身のことも、誰もが天才だと認めていたの」",
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"359000111_7": "「彼の頭の中にはまだまだアイデアが溢れていて、\\n それを実現しようと日々研究を続けていた」",
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"359000111_8": "「だけど、彼のアイデアは先を行き過ぎていて、彼は次第に\\n 世間から反発されるようになっていってしまった――」",
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"359000111_9": "「……どういうことですか。\\n 私への資金援助を取りやめるというのは……」",
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"359000111_10": "「これは決定事項だ」",
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"359000111_11": "「君は数々の実験を成功に導いてきたが、\\n その研究には悪い噂も多い」",
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"359000111_12": "「恐るべき破壊兵器を作っているという話も――」",
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"359000111_13": "「私が構想しているのは兵器などではありませんッ!」",
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"359000111_14": "「ワールドシステムは、\\n 無線による送電を可能とする仕組みです」",
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"359000111_15": "「これが形になれば、我々の生活は一変する……。\\n 人類を次のステージへと導くための――」",
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"359000111_16": "「言いにくいことだが、\\n それを望んでいない者もいるということだ」",
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"359000111_17": "「――ッ!?」",
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"359000111_18": "「本当に完成してしまったら、現在のシステムは瓦解する。\\n 電気事業で利益を得ていた企業や国家はよく思わないだろう」",
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"359000111_19": "「まさか、私の研究の邪魔をし、悪い噂を流しているのは……」",
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"359000111_20": "「……君はもっと政治に関心を持った方がいい」",
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"359000111_21": "「とにかく、私はその諍いに巻き込まれるのはごめんだ。\\n 君も、直接的な攻撃を受ける前に手を引いた方がいいぞ」",
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"359000111_22": "「……まあ、私が資金援助をやめたら\\n そうせざるを得ないだろうがな……」",
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"359000111_23": "「では、これで失礼する」",
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"359000111_24": "「…………」",
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"359000111_25": "「……テスラ様。\\n 大丈夫ですか……?」",
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"359000111_26": "「君は確か、屋敷で働いていた最後のメイドか……。しかし、\\n メイド1人分の賃金すら支払うことができなくなってしまった」",
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"359000111_27": "「突然ですまないが、君も解雇ということになる」",
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"359000111_28": "「ですが、テスラ様の生活は……」",
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"359000111_29": "「君が心配することではない。\\n もう行きなさい」",
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"359000111_30": "「はい……」",
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"359000111_31": "(私は、研究をやめるわけにはいかない。\\n ワールドシステムの完成は、私の夢なのだ……)",
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"359000111_32": "(たとえ、どれほど阻まれようとも……)",
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"359000111_33": "数か月後――",
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"359000111_34": "(……あれから、何人もの資産家の元を訪れ直談判したが、\\n 資金援助は得られなかった)",
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"359000111_35": "(それならば、彼らが資金援助したくなるよう、\\n 研究の有用性を証明するまで)",
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"359000111_36": "(そう思い、過去の特許や発明品からなんとか金を工面し、\\n 研究を進めていたのだが)",
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"359000111_37": "(もうその金も底をついた。\\n 私の研究もここまでか……)",
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"359000111_38": "(誰にも理解を得られず、\\n 独りきりのまま……)",
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"359000111_39": "(いや、それよりも、腹が減ったな――)",
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"359000111_40": "「…………」",
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"359000111_41": "「歌が……聴こえる……。\\n 心地よい歌声だ……」",
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"359000111_42": "「美味そうな匂いまでしてきた。\\n いよいよ、私は死んでしまったのか……」",
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"359000111_43": "「君は……」",
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"359000111_44": "「テスラ様ッ!\\n 目を覚まされたのですね」",
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"359000111_45": "「そんなにやつれて……。きっとまた、\\n 食事もとらずに研究をなさっていたんでしょう」",
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"359000111_46": "「どうやら私は、死んだわけではないのだな……」",
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"359000111_47": "「もちろんですッ!」",
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"359000111_48": "「お食事の用意はできています。\\n どうぞ、召し上がってください」",
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"359000111_49": "「――ッ!?」",
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"359000111_50": "「事情を聞くのは後だ。\\n ……いただくとしよう」",
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"359000111_51": "「はいッ!」",
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"359000111_52": "「おかげで人心地ついたが――」",
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"359000111_53": "「なぜここにメイドが?\\n 新たな投資家が現れたのか……」",
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"359000111_54": "「いいえ。\\n 残念ながら、そのような方はいらっしゃいませんでした」",
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"359000111_55": "「…………」",
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"359000111_56": "「私は、テスラ様のお役に立てればとッ!」",
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"359000111_57": "「質問の答えになっていない。\\n 賃金は出せないと言っているのだ」",
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"359000111_58": "「それなのになぜ、君はここにいる?」",
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"359000111_59": "「えっとですね……。\\n 私は、テスラ様のように頭がよくありません」",
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"359000111_60": "「……どうやら、そのようだな。\\n 求める答えが全く返ってこない」",
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"359000111_61": "「以前テスラ様にお仕えしていた時も、テスラ様が何か\\n 難しいことをされているなぁと思っていたのですが」",
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"359000111_62": "「コーリューとかチョクリューとか、\\n コイルとかモーターとか、ちんぷんかんぷんだったのです」",
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"359000111_63": "「あ、ああ……」",
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"359000111_64": "「そして少し前に、私はテスラ様にお暇を頂いて、\\n 生まれ故郷に戻りました。貧しい、へんぴな田舎町です」",
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"359000111_65": "「私が帰ると、父も母も大げさなくらい喜んでくれて。\\n 土産話に花が咲きまして……」",
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"359000111_66": "「待て。\\n ひょっとして質問に答える気がないのか?」",
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"359000111_67": "「し、失礼しましたッ! そうではないのです。\\n ええっとですね……」",
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"359000111_68": "「しばらく戻らぬ間に、私の故郷には電気が引かれ、\\n 様子が一変していました」",
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"359000111_69": "「話を聞けば、それはコーリューやコイルやモーターの\\n おかげだと言うじゃありませんかッ!」",
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"359000111_70": "「――ッ!」",
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"359000111_71": "「夜道が明るかったり、遠くで起こった出来事がわかるように\\n なっていたり。町の生活は、豊かに、便利になっていました」",
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"359000111_72": "「父も母も、とても喜んでいたんですよ」",
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"359000111_73": "「それで初めて、頭のよくない私でも、\\n テスラ様の研究の素晴らしさがわかったのです」",
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"359000111_74": "「そうか……」",
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"359000111_75": "「そんな時、新聞で、テスラ様の元から協力者が去り、\\n 研究が進められない状況にあるということも知りました」",
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"359000111_76": "「内容はわかりませんが、今度の研究には、テスラ様が今までで\\n 1番熱心に取り組まれていたことは存じています」",
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"359000111_77": "「きっとそれは、私の想像も及ばないような\\n 素晴らしい発明なのだろうと思います」",
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"359000111_78": "「テスラ様は、一見気難しくて、不愛想な方ですが――」",
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"359000111_79": "「…………」",
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"359000111_80": "「だけど、とても優しい方だと思うのですッ!」",
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"359000111_81": "「テスラ様がやらなければ、それは誕生しません。\\n だから、辛い研究でも頑張っている」",
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"359000111_82": "「それが、みんなを幸せにすると信じて……」",
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"359000111_83": "「私の頭脳を、世界に還元するか……」",
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"359000111_84": "「自分の行動原理をそのように分析したことはなかったが、\\n 確かに少しは、そういう側面もあるかもしれないな」",
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"359000111_85": "「ですから私も、たとえ見返りが無くても、\\n テスラ様にお仕えしたいと思ったのです」",
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"359000111_86": "「研究のお手伝いは当然できませんが、お食事の準備や\\n お掃除をして、お役に立てればと……」",
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"359000111_87": "「ああ、やっと最初のご質問に答えることができましたッ!」",
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"359000111_88": "「君の気持ちはわかったが……」",
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"359000111_89": "「だが、私の研究はここまでだ。\\n 投資家がいない以上、私にはもう何も残されていない」",
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"359000111_90": "「メイドが1人いたところで、それはどうしようも……」",
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"359000111_91": "「何より価値のあるもの、\\n テスラ様の頭脳があるじゃありませんかッ!」",
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"359000111_92": "「私も、わずかな額ですが、お金をかき集めてまいりました。\\n 当面の食費くらいにはなるはずです」",
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"359000111_93": "「美味しいごはんが食べられて、\\n お部屋が綺麗でさえあれば――」",
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"359000111_94": "「この状況をどうにかする方法は、\\n テスラ様ならきっと考えつくと思うのですッ!」",
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"359000111_95": "「ですから、私にまたテスラ様の下で\\n お食事の準備やお掃除をする許可をくださいッ!」",
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"359000111_96": "「…………」",
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"359000111_97": "「やっと1人、\\n 私に投資してくれる変わり者が見つかったようだ……」",
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"359000111_98": "「…………?」",
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"359000111_99": "「君の提案を受ける。\\n よろしく頼むと言っているのだ」",
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"359000111_100": "「――ッ!」",
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"359000111_101": "「今さらだが、君の名前を教えてくれないか?」",
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"359000111_102": "「アメリアと申します。\\n よろしくお願いしますッ!」",
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"359000111_103": "「そうして、テスラは研究を再開したわ」",
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"359000111_104": "「そこから数年の生活は、決して楽なものではなかったけれど、\\n テスラの傍にはいつもアメリアがいて、彼を支えていた」",
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"359000111_105": "「それまで他人に興味を持とうとしなかったテスラにも、\\n 少しずつ変化がもたらされていたみたい」",
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"359000111_106": "「そしてついに、その日がやってきた……」",
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"359000111_107": "「――♪」",
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"359000111_108": "「また唄っているのか」",
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"359000111_109": "「あ、すみませんッ!\\n 私ったらつい……」",
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"359000111_110": "「構わないと言っているだろう。\\n それより――」",
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"359000111_111": "「もしかして、テスラ様の研究に協力してくれる\\n 投資家の方が見つかったのですかッ!?」",
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"359000111_112": "「ああ」",
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"359000111_113": "「では、とうとう本格的にテスラ様の発明、わーるどしすてむ?\\n を、形にすることができるのですねッ!」",
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"359000111_114": "「そういうことだ」",
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"359000111_115": "「やったぁッ! さすがテスラ様ッ!」",
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"359000111_116": "「いや、それは君の――」",
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"359000111_117": "「私、お祝いのお花とお食事用の材料を買ってまいりますッ!\\n 楽しみに待っていてくださいね」",
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"359000111_118": "(相変わらず、落ち着きのない)",
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"359000111_119": "(だが、ここまで来ることができたのは\\n 間違いなく彼女のおかげだ)",
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"359000111_120": "(帰ってきたら、改めて礼を言わねば。\\n 彼女は謙遜するだろうが――)",
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"359000111_121": "「――彼女が帰ってくることはなかったわ。\\n 突然の事故に、運悪く巻き込まれてしまったの……」",
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"359000111_122": "「奇跡的に一命は取り留めたけれど、\\n 医者は、二度と目を覚ますことができないと診断した」",
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"359000111_123": "「彼女が眠る病室にテスラが駆けつけた時、\\n 彼が何を思って、何を言ったのかはわからない」",
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"359000111_124": "「だけど、彼は今までの研究をすべて投げ打って、\\n アメリアを取り戻すために生きるようになった」",
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"359000111_125": "「テスラはあらゆる手を尽くしたわ。だけど、その想いも\\n 虚しく、彼女の命の灯は日に日に弱まっていって――」",
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"359000111_126": "「ある日、とうとう亡くなってしまった……」",
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"359000111_127": "「ただ、テスラは諦めなかった」",
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"359000111_128": "「なぜなら、霊界とすら通信ができるのではと考え\\n 研究していたテスラは――」",
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"359000111_129": "「偶然にも、神と呼ばれる存在……カストディアンの残した\\n 情報端末へのアクセスを可能とする方法を、発見していたの」",
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"359000111_130": "「情報端末に記された、並行世界の存在、異端技術の情報……。\\n 彼の頭脳は、それらを理解することができた」",
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"359000111_131": "「神々の知識は、テスラの科学技術を飛躍的に引き上げたわ」",
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"359000111_132": "「自らの身体に機械を組み込み、寿命を延ばしたテスラは、\\n ワールドシステム計画をアップデートした」",
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"359000111_133": "「大切な人を蘇らせ、その人が死なない世界を作るために……」",
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"359000111_134": "「…………」",
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"359000111_135": "「これが、ニコラ・テスラの過去の物語。\\n 世界の終わりの、始まり――」"
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