49 lines
6.1 KiB
JSON
49 lines
6.1 KiB
JSON
{
|
||
"342000541_0": "(そしてジャネットは、ジャンヌ・ダルクとなった。\\n フランス王国の希望として、人々を導く英雄に――)",
|
||
"342000541_1": "「……天使様、お久しぶりです」",
|
||
"342000541_2": "「ああ……活躍は聞いている」",
|
||
"342000541_3": "「はい……。天使様のお言葉のおかげで、\\n なんとか勝つことができています」",
|
||
"342000541_4": "「私は、何もしていない」",
|
||
"342000541_5": "「いいえ。戦いの本質を、わたしは天使様の言葉で学びました。\\n 指揮官としての自分を高め、兵たちを鼓舞する……」",
|
||
"342000541_6": "「兵士1人1人が死力を尽くし、それを束ねる指揮官が\\n 正しく指揮を行えば、どのような戦いでも勝機を見出せます」",
|
||
"342000541_7": "「だから、今のわたしが、フランス王国があるのは、\\n 天使様のおかげです」",
|
||
"342000541_8": "「そうか……。\\n だがジャネット、本当にこれでよかったのか?」",
|
||
"342000541_9": "「敵を、人を殺すのが戦争だ。\\n 指揮官とは味方を生かすために、敵を殺す命令を下す者」",
|
||
"342000541_10": "「その<ruby=ごう>業</ruby>は、前線の兵士よりもよっぽど深い。\\n 命令1つで、多くの命が失われる……」",
|
||
"342000541_11": "「……はい、そうですね」",
|
||
"342000541_12": "「……辛くないのか?」",
|
||
"342000541_13": "「辛くないといったら、嘘になります。\\n けれど、それでもわたしは、大切なものを護りたいのです」",
|
||
"342000541_14": "「自分の故郷を、祖国を、人々を護るために剣を取りました。\\n これは、わたし自身が決めたことです」",
|
||
"342000541_15": "「だから、天使様が気に病むことではありません。\\n この辛さも、何もかもわたし自身の選択が原因なのです」",
|
||
"342000541_16": "「……それでも、あの時、私はお前に戦いの才があると\\n 答えてしまったことを悔やんでいる」",
|
||
"342000541_17": "「あの時嘘をついていれば、お前はジャンヌ・ダルクではなく、\\n ジャネットのままでいられたのではないかと……」",
|
||
"342000541_18": "「天使様はお優しいのですね。\\n わたしのような者のことを心配してくださって……」",
|
||
"342000541_19": "「お前には、戦場よりも故郷の村の景色が合っている。\\n のどかな風景の中で、楽しげに唄っている姿が――」",
|
||
"342000541_20": "「わたしも、そう思います。けれど、わたしが戦場を去れば、\\n この故郷にまで戦火が及んでしまいます」",
|
||
"342000541_21": "「大切なものを失い、後悔したくないのです。\\n 護れる力がありながらそれを捨てたら、きっと後悔します」",
|
||
"342000541_22": "「……戦場では、何が起こるかわからない。\\n 私は、お前と会えるこの時間を楽しみにしている……」",
|
||
"342000541_23": "「光栄です、天使様」",
|
||
"342000541_24": "「お前という友を失いたくはない。\\n だが、私自身が力を振るうことは禁じられている……」",
|
||
"342000541_25": "「こうして少しの間、この場所でお前の話を聞いて、\\n 月並みな助言をするくらいしか、してやれることがない……」",
|
||
"342000541_26": "「それで十分です。\\n こうして、わたしの話に付き合ってくださるだけで……」",
|
||
"342000541_27": "「……何か、私にできることは無いか?\\n それでも私は、お前に何かしてやりたいと思っている」",
|
||
"342000541_28": "「……いつか、ずっと先になるかもしれませんが、\\n 1つだけ、お願いを聞いてもらえますか?」",
|
||
"342000541_29": "「ああ、言って欲しい」",
|
||
"342000541_30": "「この長い戦いが終わったら、\\n わたしを天使様の従者にしていただけませんか?」",
|
||
"342000541_31": "「私の従者に……?」",
|
||
"342000541_32": "「はい。故郷を護りきったその後は、天使様へのご恩を\\n お返しするために、この身を、命を使いたいのです」",
|
||
"342000541_33": "「私は天使ではない……。\\n 私に仕えても、天界へ昇ることは叶わない」",
|
||
"342000541_34": "「わたしがご恩を返したいのは、あなたにです。\\n だから、本当はあなたが何者でも構いません」",
|
||
"342000541_35": "「……私は人の世から外れた者だ。\\n もう、普通の暮らしをすることもできなくなるぞ」",
|
||
"342000541_36": "「既に、わたしに普通の暮らしなどというものはありません。\\n 護ることさえできたなら、村へと戻れなくても構いません」",
|
||
"342000541_37": "「文字すら満足に書けない、卑賤の身ではありますが、\\n どうか天使様の従者として、お仕えさせてください……」",
|
||
"342000541_38": "「……そうだな。それも悪くないかもしれない」",
|
||
"342000541_39": "「本当ですかッ!? 約束しましたよ?」",
|
||
"342000541_40": "「ああ、わかった。約束だ」",
|
||
"342000541_41": "「ただ、私についてくるのならば、\\n お前にも色々と覚えて貰わなければならないな」",
|
||
"342000541_42": "「もしかして、天使様のお力のことも教えてくれるのですか?\\n 何度お聞きしても、ダメだとおっしゃっていたのに……」",
|
||
"342000541_43": "「……お前が人の世にいるうちは教えられないが、\\n 私と共に来るのならば、必要だろう」",
|
||
"342000541_44": "「戦いが終わるその時が来たら、全て教えよう。\\n まずは、文字の読み書きからになるだろうが――」",
|
||
"342000541_45": "「――時間なら、いくらでもある。\\n だから、必ず生きて帰ってこい」",
|
||
"342000541_46": "「わかりました。絶対ですからねッ!」"
|
||
} |