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{
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"201029111_0": "光のみちゆき",
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"201029111_1": "「未来、もうすぐ夏休みだよッ!」",
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"201029111_2": "「夏休みが始まったら翼さんたちも誘って、\\n みんなで海に行こうよッ!」",
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"201029111_3": "「楽しそうなのは何よりだけど……\\n 宿題を7月中に終わらせるんじゃなかったの?」",
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"201029111_4": "「そ、それはもちろんッ!",
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"201029111_5": " ……たぶん……出来れば……」",
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"201029111_6": "「もう。\\n 最終日に徹夜して終わらせるのはなしだからね?」",
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"201029111_7": "「ア、アハハ……\\n 大丈夫だってッ!」",
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"201029111_8": "「けど、海かぁ。\\n みんなで行けるなら、絶対楽しそうだし……」",
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"201029111_9": "「響の宿題が無事に終わったら、\\n 新しい水着を買っちゃおうかな」",
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"201029111_10": "「そんなぁ……\\n それは、わたしの宿題なんて関係なしに買いに行こうよッ!?」",
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"201029111_11": "「それはそうと、響。\\n さっき、先生から何か言われてなかった?」",
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"201029111_12": "「はッ! そうだったッ! みんなから集めた\\n プリントを職員室まで届けなきゃいけないんだったッ!」",
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"201029111_13": "「うぅ、\\n なんでわたしがこんな役目を……」",
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"201029111_14": "「響が遅刻してきたからでしょ?\\n ほら、わたしも手伝ってあげるから」",
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"201029111_15": "「ありがとう、未来」",
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"201029111_16": "「じゃあ、行こっか。",
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"201029111_17": " ……んしょ、これだけ量があるとちょっと大変だよね」",
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"201029111_18": "「未来、足元を見てないと危な――」",
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"201029111_19": "「――キャッ!?\\n あ、足がもつれて……ッ」",
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"201029111_20": "「――未来ッ!!」",
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"201029111_21": "「未来ッ!\\n 大丈夫ッ!?」",
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"201029111_22": "「…………」",
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"201029111_23": "「……う、……\\n く……」",
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"201029111_24": "「だ、大丈夫……ッ!?\\n すごい音がしたけど……」",
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"201029111_25": "「ク……ククク……",
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"201029111_26": " ハハハハッ!」",
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"201029111_27": "「久しく感じる愉悦である。\\n このような形で目覚めることになろうとは……」",
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"201029111_28": "「えッ!?\\n まさか、あ、あなたは……ッ!」",
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"201029111_29": "「――遺憾である」",
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"201029111_30": "「……何度も言っておるだろう?\\n 我こそはシェム・ハであると」",
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"201029111_31": "「なるほど……足を滑らせた未来くんが、\\n 頭をぶつけた拍子に、シェム・ハの人格が現れたと……」",
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"201029111_32": "「おそらく、未来さんの想い出の中に残された\\n シェム・ハ……さんの意識が――」",
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"201029111_33": "「未来さんの失神をきっかけに、\\n 表層に現れたものと考えられます」",
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"201029111_34": "「以前、未来さんからこのような状況に近い夢を見た、と\\n 報告は受けていましたが……」",
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"201029111_35": "「<ruby=ぐもう>愚蒙</ruby>である。\\n 眼前で起こっていることを否定するのか?」",
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"201029111_36": "「それは……そういえばわたしも、なんだかシェム・ハさんの夢を\\n 見たことがあるような気がするけど……ッ!」",
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"201029111_37": "「と、とにかく、\\n 元に戻る方法を探ってみますッ!」",
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"201029111_38": "「不要だ。\\n 時間が経てば小日向未来の意識が表層に戻ってくる」",
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"201029111_39": "「そうなんですか……ッ!?\\n 良かったッ!」",
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"201029111_40": "「それにしても、シェム・ハさん、少し印象が変わりましたね。\\n なんていうか……友好的? っていうか」",
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"201029111_41": "「シェム・ハさんも、わたしたちの選んだ<ruby=みらい>未来</ruby>を、\\n 少しは認めてくれてるってことですか?」",
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"201029111_42": "「もしそうなら――",
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"201029111_43": " ありがとうございますッ!」",
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"201029111_44": "「……。\\n 確かに、今の我のヒトに対する感情は複雑だ」",
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"201029111_45": "「かつてのような感情とは程遠く、\\n むしろ好意すら覚えるほどだ」",
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"201029111_46": "「――不愉快なものだな。\\n 能力の行使も出来ず、感情すら我本来のものではない」",
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"201029111_47": "「器である小日向未来の身体に宿っていることで、\\n 感情ごと、引っ張られているのだ」",
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"201029111_48": "「それでも、ありがとうございますッ!\\n シェム・ハさんがわたしたちに好意を向けてくれるなんて」",
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"201029111_49": "「――ッ!\\n 再三言うが、これは我の感情ではないッ!」",
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"201029111_50": "「ふむ……しかし、この様子なら、未来くんが戻ってくるまで、\\n 待っているだけでも問題なさそうだな」",
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"201029111_51": "「念のため、ここにはいてもらおうと思うが……。\\n まぁ、ゆっくりしていってくれ」",
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"201029111_52": "「遺憾である……。この小日向未来の感情のせいで、\\n 今の我はあまりにも……」",
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"201029111_53": "「なめられている……ッ!!」",
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"201029111_54": "「今の我には何も出来ないと踏んでいるのだな?」",
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"201029111_55": "「だって……\\n ヒトのことを認めてくれていて……」",
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"201029111_56": "「力も使えない状態、ですよね?\\n 証明のため、検査にも協力してくれましたし……」",
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"201029111_57": "「それに、時間が経てば未来くんに戻る……。\\n であれば、そう思われても致し方ない部分があるか……?」",
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"201029111_58": "「く……ッ!」",
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"201029111_59": "「だが……我には小日向未来の心中がわかるッ!\\n 腹いせにさらけ出してやろうッ!」",
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"201029111_60": "「えッ!?」",
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"201029111_61": "「フフフ……こいつは意識を失う直前まで、\\n 何を思っていた……?」",
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"201029111_62": "「ム……。\\n 夏休み……宿題……海……」",
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"201029111_63": "「ど、どんな水着を買おうか……?",
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"201029111_64": " 響と一緒に買いに行きたいな……だとッ!?」",
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"201029111_65": "「海に浮かれおってッ!」",
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"201029111_66": "「アハハ。未来の心の中には、シェム・ハさんの思うような、\\n 隠しごとはなかったみたいですね」",
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"201029111_67": "「何故だ……\\n 何故こうも穏やかな心中なのだ、こいつはッ!?」",
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"201029111_68": "「それは……\\n 未来が希望をもって生きているから……ですかね?」",
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"201029111_69": "「……」",
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"201029111_70": "「せっかくだし、シェム・ハさん。\\n 今のヒトがどんな生活をしてるか、見に行きませんか?」",
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"201029111_71": "「シェム・ハさんが託してくれた<ruby=みらい>未来</ruby>を、\\n 今のヒトが……わたしたちが、どう過ごしているかッ!」",
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"201029111_72": "「見たくないですか、シェム・ハさんッ!」",
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"201029111_73": "「……フム。\\n それはなかなか、悪くない提案だな」",
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"201029111_74": "「エルフナインくん、再確認だが……\\n このシェム・ハの意識体に、能力を行使する術はないんだな?」",
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"201029111_75": "「は、はいッ!\\n 計測結果は、全て未来さんのもの……」",
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"201029111_76": "「いえ、むしろ未来さんの意識が眠っていることで、普段の\\n 未来さんの身体より、自由がきかないくらいかもしれません」",
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"201029111_77": "「なら、大丈夫ですよ。わたしがずっとついてますし、\\n それにほら、心配なら監視していいですからッ!」",
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"201029111_78": "「シェム・ハさんも、街に出たいですよねッ!?」",
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"201029111_79": "「ここにいるよりは退屈しないだろう」",
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"201029111_80": "「で、ですが……」",
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"201029111_81": "「いや、いい機会だろう」",
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"201029111_82": "「かつて今の世界を打ち崩そうとした『神』の意識直々の――\\n 世界の視察というわけだ」",
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"201029111_83": "「だが、監視付きだぞ? それと、響くんは何かあったら\\n すぐこちらの呼び出しに応答すること。いいな?」",
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"201029111_84": "「はいッ!\\n ありがとうございます、師匠ッ!!」",
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"201029111_85": "「にぎやかだな。\\n そして……平和だ」",
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"201029111_86": "「それでもこれは、この世界の一部でしかない。\\n こんな見せかけに納得は出来ない……はずなのに」",
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"201029111_87": "「はずなのに、気に入りましたか?」",
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"201029111_88": "「否。これは我の感情ではない。\\n 何度言わせるつもりだ?」",
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"201029111_89": "「あくまで、この不愉快な好意的な感情は、\\n 小日向未来の感情による影響を受けたもので……」",
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"201029111_90": "「それでもいいんですよッ!\\n わたしにとっては、嬉しいですッ!」",
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"201029111_91": "「ち……ッ!\\n その態度が気に食わん」",
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"201029111_92": "「だが……そうだな。こうして街へ出てきたのだ。\\n 行きたい場所がある、我を案内せよ」",
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"201029111_93": "「もちろんいいですよッ!\\n どこに行きたいんですかッ!?」",
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"201029111_94": "「それは――」",
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"201029111_95": "「シェム・ハさんが来たかった場所って……\\n 本当に『水着売り場』で、良かったんですか?」",
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"201029111_96": "「ああ。\\n 先ほどのこの娘の心中は、海への憧憬で満たされていた故な」",
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"201029111_97": "(な……何これッ!?\\n なんで、わたしの身体をシェム・ハさんが……ッ!?)",
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"201029111_98": "(それに――新しい水着は、\\n わたしが響と買いに来るつもりだったのにッ!)",
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"201029111_99": "(意識が目覚めてきたか。\\n ……まだ抑えていられるが……)",
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"201029111_100": "(我の意識が沈むまで、さしたる時間もないか。\\n 最後に……せめてもの<ruby=あくぎ>悪戯</ruby>をしてくれるッ!)",
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"201029111_101": "(な、何をするつもりッ!?)",
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"201029111_102": "「しばし待て、『試着』というものを――\\n この身体で見せてやろうッ!」",
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"201029111_103": "「――どうだッ!?\\n こんな水着は小日向未来ならば選ばないだろうッ!?」",
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"201029111_104": "(や、やめてーッ!?\\n そんなデザイン、わたしは……ッ!)",
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"201029111_105": "「こ、これは……ッ!」",
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"201029111_106": "「いい……ッ!\\n いいですよシェム・ハさんッ!」",
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"201029111_107": "「何……?」",
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"201029111_108": "「未来なら選ばないセンスだからこそ、\\n 普段とは違う良さが出てますッ!」",
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"201029111_109": "「この水着で、未来と、みんなと――\\n シェム・ハさんも一緒に海に行けたなら……」",
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"201029111_110": "「絶対楽しいだろうなあ……ッ!」",
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"201029111_111": "「ねえシェム・ハさん、\\n 滞在期間? を延ばすとか……出来ませんかッ!?」",
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"201029111_112": "「それか、\\n シェム・ハさんの身体を再現して作るとか……ッ!?」",
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"201029111_113": "「な……ッ!」",
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"201029111_114": "「それにしても、この水着は攻めましたねッ!\\n こんな未来を見られるのは今日だけかもッ!」",
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"201029111_115": "「ぐ、ぐぬぬ……ッ!」",
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"201029111_116": "(フフッ……響を相手にこれは、喜ばせるだけでしたね。\\n ……わたしはちょっと恥ずかしいですけど)",
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"201029111_117": "(それに、今のあなたには、\\n わたしもこの世界を見てほしい。そう思います)",
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"201029111_118": "(そのために、我を海に連れていく――などと\\n 妄言を吐くか?)",
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"201029111_119": "(そうですね。出来るなら、海以外にも。\\n いろんなことに歓んで、笑って、たまに泣いて――)",
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"201029111_120": "(それでも懸命に進んでいくわたしたちを、\\n 近くで一緒に感じてほしい)",
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"201029111_121": "(フ……。\\n ならば、我を愉しませることに尽力するがよい)",
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"201029111_122": "(託したことは間違いではなかったと、\\n 我に信じさせ続けるためにな)"
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