{ "316000711_0": "シャロンのいない部屋", "316000711_1": "「体調はどうだ?\\n 少しはラクになっただろう?」", "316000711_2": "「…………」", "316000711_3": "「応急処置レベルの薬だが、帰るまでは持つだろう」", "316000711_4": "「いつでも出発できます」", "316000711_5": "「ご苦労。先発したまえ。私も後を追う」", "316000711_6": "「了解しました」", "316000711_7": "「手回しのいいことだ」", "316000711_8": "「なに。そろそろ潮時だとわかっていたのでね」", "316000711_9": "「全て把握していながら、なぜ今まで泳がせていた?」", "316000711_10": "「かわいい子には旅をさせよ――と、日本では言うのだろう?」", "316000711_11": "「煙に巻くな」", "316000711_12": "「フ……決まっているだろう。\\n 計画に必要だったからさ」", "316000711_13": "「なんだと?」", "316000711_14": "「おかげですべての材料が揃った。\\n これで始めることができる」", "316000711_15": "「あの子が鍵だったのか……」", "316000711_16": "「そうだ」", "316000711_17": "「ヤントラ・サルヴァスパの力を引き出し、\\n それと同化することで、あらゆる機械を自在に操らせる……」", "316000711_18": "「そう、ヴィマーナにはその力が必要だった」", "316000711_19": "「だが、そのために自身の娘を実験体にするとは……」", "316000711_20": "「我々の放棄したシンフォギアを秘密裏に模倣完成させ、\\n 娘を装者に仕立て上げていた君が言えた義理かね?」", "316000711_21": "「それは……違う」", "316000711_22": "「何が違うというのだ?」", "316000711_23": "「…………」", "316000711_24": "「否定できまい。\\n 結局、君も私も同じ穴の狢ということだよ」", "316000711_25": "「あれが己の娘であるかどうかなど関係ない。\\n 実現すべき理想のために役立つかどうか――それだけが重要だ」", "316000711_26": "「あれも、人類の発展の礎になれると喜んでいるだろうさ」", "316000711_27": "「オズワルド……お前は……」", "316000711_28": "「そこで指をくわえてみているがいい」", "316000711_29": "「私がこの世界を変革する、その時をな」", "316000711_30": "「……ただいま……」", "316000711_31": "「おかえりなさい、響」", "316000711_32": "「響、怪我してるの?」", "316000711_33": "「少しだけね……。\\n でも、検査してもらって大丈夫だって」", "316000711_34": "「そう。よかった」", "316000711_35": "「…………」", "316000711_36": "「……どうしたの?」", "316000711_37": "「……うん。ちょっと、ね……」", "316000711_38": "「ねえ、響……、聞かせて」", "316000711_39": "「うん……」", "316000711_40": "「シャロンちゃん、お父さんのところに帰ったんだ」", "316000711_41": "「……そうなんだ」", "316000711_42": "「良かった……っていう感じの顔じゃないよね」", "316000711_43": "「うん……」", "316000711_44": "「だって……だってさ」", "316000711_45": "「そのお父さんがシャロンちゃんを実験台にした組織の\\n 責任者なんだよ?」", "316000711_46": "「そんなのってないよッ! 酷すぎるッ!」", "316000711_47": "「うん……そうだね……」", "316000711_48": "「それなのにわたし……」", "316000711_49": "「結局わたしには、何もできなくて。\\n それが悔しくて……悲しくて……」", "316000711_50": "「シャロンちゃんに、お別れは言えたの?」", "316000711_51": "「シャロンちゃん、あの後目を覚ましたんだけど。\\n お父さんの姿を見たら、ただ黙ってお父さんの方に……」", "316000711_52": "「怖がってなかった?」", "316000711_53": "「ううん……でも……」", "316000711_54": "「でも?」", "316000711_55": "「なんかシャロンちゃん、諦めたような顔、してたかも……」", "316000711_56": "「……それで、響はどうしたいの?」", "316000711_57": "「わからないんだ……」", "316000711_58": "「そっか……」", "316000711_59": "「…………」", "316000711_60": "「響、あのね」", "316000711_61": "「うん?」", "316000711_62": "「わたしは、響は響がしたいように、すればいいと思う」", "316000711_63": "「響はいつも誰かのために拳を振るってるんだから、\\n 響が思う通りにするのが一番いいことだとわたしは思うよ」", "316000711_64": "「わたしの、したいこと……」", "316000711_65": "「うん」", "316000711_66": "「顔……」", "316000711_67": "「?」", "316000711_68": "「シャロンちゃんの顔……」", "316000711_69": "「わたし、シャロンちゃんが笑ったところ、まだ見てない」", "316000711_70": "「シャロンちゃんのこと、笑顔にさせてあげたい」", "316000711_71": "「ありがとう、未来。\\n おかげで自分が何をしたいのかわかったよ」", "316000711_72": "「どうすればシャロンちゃんのこと、\\n 笑顔にできるかまだわからないけど……」", "316000711_73": "「わたし、行ってくるねッ!」", "316000711_74": "「あ、響ッ!?」", "316000711_75": "「もう……本当に、思い込んだらまっしぐらなんだから」", "316000711_76": "「でも……それが響らしい」" }