{ "306000112_0": "「ふう、また少し頭痛がする」", "306000112_1": "「薬は……必要無いか」", "306000112_2": "(休むほどではないけれど、\\n こめかみの奥をキリキリと繰り返し苛む軽い痛み)", "306000112_3": "(わたしは、この痛みが風邪や体調不良から来る類の\\n ものでないことを知っている……)", "306000112_4": "(わたしには、妹がいた)", "306000112_5": "(名前はセレナ・カデンツァヴナ・イヴ。誰にでも優しくて、\\n 努力家で、わたしには少し甘えてくる、自慢の妹)", "306000112_6": "(わたしとそっくりな瞳の色、柔らかい髪の感触、\\n 縋ってくる手のぬくもり、はにかんだ笑顔)", "306000112_7": "(すべて、すべて……。\\n 今もいささかも色褪せることなく思い出せるのに)", "306000112_8": "(けれどあの日、セレナはみんなを護るために……ッ!)", "306000112_9": "(燃え盛る研究所に佇む、セレナの最後の面影)", "306000112_10": "(痛ましいヴィジョンを追い払おうとすると、\\n わたしの脳裏に滑り込んでくるものがある)", "306000112_11": "(――完全聖遺物ギャラルホルン)", "306000112_12": "(可能性によって分かたれた世界の危機を感知し、\\n それを繋ぐ驚異の力を持つ聖遺物)", "306000112_13": "(……ずっと、考えないようにしていた)", "306000112_14": "(しかし、いくつかの事件を経て、次第にそこから思考を\\n 逸らせなくなっている自分に気づいている)", "306000112_15": "(考えることを止めたいのに、\\n 溢れ出す『もしも』を止められない)", "306000112_16": "(この世界でのセレナは、既にわたしを置いて旅立ってしまった。\\n だけど、並行世界ならば……?)", "306000112_17": "(セレナが生きている、あの子が幸せに過ごせている、\\n そんな世界があるのではないか)", "306000112_18": "(そんな可能性も、どこかにあったのではないか……)", "306000112_19": "(また益体も無い考えが、こめかみ辺りの痛みとなって\\n わたしを苦しめる……)", "306000112_20": "「……はッ! S.O.N.G.からの――」", "306000112_21": "「はい」", "306000112_22": "「ギャラルホルンのアラートが発生した。同時にノイズと\\n 思われる反応も検知しているッ! 急いで来てくれッ!」", "306000112_23": "「すぐに向かうわッ!」" }