{ "388000931_0": "「ちぃ……ッ!\\n やりづらいったらない……ッ!」", "388000931_1": "「手心を加えて勝てるつもりとは、\\n なめられたものでゴザルなッ!」", "388000931_2": "「それにいい加減、お主らとの戦いも飽きた。", "388000931_3": " ――少々手荒くいかせてもらうでゴザルッ!」", "388000931_4": "「な……ッ!?\\n 急に動きが数段速くなった……ッ!?」", "388000931_5": "「肉体のリミッターを外したでゴザルッ!\\n この速度、捕らえられるものなら捕えてみるでゴザルッ!」", "388000931_6": "「緒川さんの身体で好き勝手やりやがって……ッ!\\n あたしが止めてやるッ!」", "388000931_7": "「いけないッ、それはフェイントよッ!」", "388000931_8": "「何……ッ!?」", "388000931_9": "「殺ったッ!」", "388000931_10": "「……ッ!」", "388000931_11": "「……?\\n なんだ、急に動きが……」", "388000931_12": "「制御が、利かない……ッ!?\\n まさか、本体を抑えられたでゴザルか……ッ!?」", "388000931_13": "「――そういうことです」", "388000931_14": "「馬鹿なッ!? お主、なぜ喋れるでゴザル……ッ!?\\n お主の意識は封じたはず……」", "388000931_15": "「どうやら、未来さんがやり遂げてくれたようですね」", "388000931_16": "「何……? ……ッ、まさか、さっきの小娘が某のジュツを\\n 破ったというのでゴザルかッ!?」", "388000931_17": "「ええ。未来さんは本当に色々なものをよく見ようとしている……\\n 彼女なら、やり遂げてくれると信じていました」", "388000931_18": "「それはともかく。\\n 僕の身体、そろそろ返してもらいますよ」", "388000931_19": "「ぐ……、おのれぇぇぇぇ……ッ!」", "388000931_20": "「ふぅ……他人に身体を使われるというのは、\\n 気持ちのいいものではないですね」", "388000931_21": "「緒川さん……なのよね?」", "388000931_22": "「ええ、僕です。", "388000931_23": " なんとか身体の制御を取り戻せて……つッ」", "388000931_24": "「ど、どうしたんだ?」", "388000931_25": "「……アカオニが無茶をしてくれたせいで、\\n いくらか筋を痛めてしまったようです」", "388000931_26": "「ですが、動けないほどじゃありません。", "388000931_27": " それより、未来さんのところに行きましょう」", "388000931_28": "「そうよッ! 本体を抑えたということは、\\n アカオニと1人で向かい合っているはずッ!」", "388000931_29": "「急いで援護に向かわないとッ!」", "388000931_30": "「未来さんの居場所は口寄せした黒猫の気配でわかります。\\n 急ぎましょう」", "388000931_31": "「無事かッ!?」", "388000931_32": "「わたしなら大丈夫です。\\n 緒川さんも意識が戻ったようで、よかったです」", "388000931_33": "「ええ、未来さんのおかげです」", "388000931_34": "「で、アカオニは……」", "388000931_35": "「ぐぅぅぅ……ッ!\\n 動けないでゴザル……ッ!」", "388000931_36": "「これは……どういうこと?」", "388000931_37": "「この子がやってくれたんです」", "388000931_38": "「ニャァ~~」", "388000931_39": "「黒猫を使った影縫いの応用です」", "388000931_40": "「戦いでは役に立たないのかと思ってたけど、\\n おまえ、やるもんだなッ!」", "388000931_41": "「ニャァ~~~♪」", "388000931_42": "「馬鹿な……ッ、\\n こんな奴らに某が敗れただとッ!?」", "388000931_43": "「認めない……認めないでゴザルッ!\\n こんな地味な敗北など、某は認めないッ!」", "388000931_44": "「真にクールなのは、某でゴザルッ!」", "388000931_45": "「地味、ね……。あなた、さんざん忍者が\\n 好きだのクールだの言っていたけど」", "388000931_46": "「あなたが憧れたのは見た目や術が派手なだけの、\\n 張りぼてのヒーローだったわけ?」", "388000931_47": "「何……?」", "388000931_48": "「あなたが憧れたコミックのヒーローだって、\\n もっと大事な本質を持っていたんじゃないかしら?」", "388000931_49": "「そこが見えていなかったというのなら……」", "388000931_50": "「あなたは自分が何をしたいのか、\\n 自分でも本当にわかっていなかったということよ」", "388000931_51": "「…………ッ!」", "388000931_52": "「憧れを持つのはいい。だけど、『何か』になりたいなら、\\n そして『何か』を為したいのなら――」", "388000931_53": "「まずは曇った目を凝らして、\\n 自分が憧れたものをよく見なさいッ!」", "388000931_54": "「でなきゃ、理想とはかけ離れたところに流されていくだけよ」", "388000931_55": "「マリアさん……」", "388000931_56": "「……まったく。\\n 恥ずかしいことを思い出させてくれるわ」", "388000931_57": "「……某が、憧れたもの……」", "388000931_58": "「…………」", "388000931_59": "「……1つ、聞きたいでゴザル」", "388000931_60": "「お主は、某のジュツに完全にかかっていなかった\\n ……そうでゴザルな?」", "388000931_61": "「ええ。僕は術にかかりかけた時点で、意識を精神の奥に\\n 沈みこませ、完全に封じられるのを防ぎました」", "388000931_62": "「あとは、あなたの術を崩すために僕が仕込んだとっておきの術が\\n 解けてしまわないように、耐え忍ぶだけです」", "388000931_63": "「某のジュツを崩す、とっておき……?」", "388000931_64": "「この子ですよ」", "388000931_65": "「ニャァ~」", "388000931_66": "「ネコ……ッ!?\\n ど、どういうことでゴザルかッ!?」", "388000931_67": "「錬金術をベースにしたあなたは、木遁が苦手でしょう?\\n 五行相克において、金遁は木遁に剋つ――」", "388000931_68": "「金遁は解釈の幅広い術です。見てください。\\n 僕が口寄せで呼び出したこの猫、目が金色でしょう?」", "388000931_69": "「この『金』眼の黒猫こそ、僕の金遁。\\n つまり、あなたの天敵だったというわけです」", "388000931_70": "「なんというか……\\n とんちみたいな話だな」", "388000931_71": "「でも、実際にその子が勝敗を分けたのよね」", "388000931_72": "「はい。この子はちゃんと、\\n アカオニの本体を探し当ててくれました」", "388000931_73": "「僕はそれまで、術が解けないように耐え続ければよかった。\\n それが、僕とあなたの術比べの捉え方の違いです」", "388000931_74": "「派手なだけの術を真似したって、\\n それは忍者になったとは言えないってわけだな」", "388000931_75": "「わたしも学ばせてもらったわ。忍者とは、心の在り様。\\n 刃を支えるのは、いつだって心ということをね」", "388000931_76": "「ええ。\\n それが忍の道というものです」", "388000931_77": "「シノビの、道……」", "388000931_78": "「…………ク」", "388000931_79": "「ククク……フハハハハハハハッ!\\n 某はこの小さなネコに敗れたでゴザルかッ! それはいいッ!」", "388000931_80": "「どうやら、本当に……某はニンジャの道の入り口にすら\\n 立っていなかったようでゴザルな。いや、ユカイユカイ」", "388000931_81": "「お主……いや、オガワ殿。\\n 某、ニンジャの道の奥深さを教わったでゴザル」", "388000931_82": "「このジュツ比べ、某の完敗にゴザルッ!」" }