{ "379000111_0": "シンフォギア昔話 フナ太郎", "379000111_1": "むかしむかし、S.O.N.G.村というところに――", "379000111_2": "おじいさんと、おばあさんが住んでいました", "379000111_3": "「おじいさんだとッ!?」", "379000111_4": "「野暮な突っ込みをしていると、小皺が増えるわよ。\\n 弦十郎おじいさん?」", "379000111_5": "「むう……」", "379000111_6": "「まあいいだろう。\\n 今日も行くとするかッ!」", "379000111_7": "いつものように、おじいさんは山へ修行に、", "379000111_8": "おばあさんは異端技術研究所へ、秘密の研究をしに行きました", "379000111_9": "「と言っても、\\n 次は何を研究ろうかしら」 ", "379000111_10": "「あら?\\n あれは――」", "379000111_11": "どんぶらこ……ッ! どんぶらこ……ッ!", "379000111_12": "「……フフ、面白そうなものが流れてきたわね。\\n なんて大きな――」", "379000111_13": "「エビフライだとッ!?」", "379000111_14": "「ええ。村はずれの川を、\\n どんぶらこッ! と流れてきたの」", "379000111_15": "「見事な衣の付き具合だが……ううむ、\\n エビフライにしてはいささか巨大が過ぎるな」", "379000111_16": "「いったいどんなエビを材料に使ったのか、\\n 興味深いわね?」", "379000111_17": "「フ、そうだな。", "379000111_18": " ……であれば、叩き割って調べるまでッ!」", "379000111_19": "「ボ、ボクです……ッ!」", "379000111_20": "「中から子供だとぉッ!?」", "379000111_21": "「……あ、あれ? ここは……?\\n それに……皆さんは、いったい……?」", "379000111_22": "「心配するな。\\n 君に危害を加えるつもりはない」", "379000111_23": "「俺は風鳴弦十郎、ただのジジィだ。\\n こっちは了子おばあさん――」", "379000111_24": "「櫻井了子よ。\\n 気軽に了子おねえさんと呼んでくれていいわ」", "379000111_25": "(了子くんも気にしているじゃないか……)", "379000111_26": "「ご丁寧にありがとうございますッ!", "379000111_27": " えっと、初めまして。ボクは……」", "379000111_28": "「ひょっとして、名前が無いのか?\\n それなら、エビフライから生まれた『エビ太郎』と――」", "379000111_29": "「い、いえッ!\\n ボクはエルフナインと言いますッ!」", "379000111_30": "「でも……」", "379000111_31": "「具合でも悪いの?」", "379000111_32": "「……それが、思い出せないんです。ボクがボクで\\n あるということ以外……何も……ごめんなさい……」", "379000111_33": "「……記憶障害かしら。\\n 残念ね。色々と聞きたいことがあったんだけれど」", "379000111_34": "「思い出せないなら、仕方がないだろう。\\n だが、これも何かの縁だ」", "379000111_35": "「よし、決めたぞ。君さえよければ、\\n 記憶が戻るまでの間、この家で暮らすといい」", "379000111_36": "「……ッ! それはその、とてもありがたいのですが……。\\n ご迷惑ではないでしょうか?」", "379000111_37": "「子供の窮地には、手を差し伸べるのがオトナの務めだ。\\n 少しばかり、格好つけさせてくれ」", "379000111_38": "「……ま、言い出したら聞かない人だから。\\n 悪いけど諦めてちょうだい」", "379000111_39": "「……ありがとうございますッ!\\n どうぞ、よろしくおねがいしますッ!」", "379000111_40": "数カ月後――", "379000111_41": "「おじいさーんッ!\\n 薪割り、終わりましたッ!」", "379000111_42": "「おぉ、フナ太郎。\\n ご苦労だったッ!」", "379000111_43": "「はいッ!」", "379000111_44": "「もう、エルフナインでしょう?」", "379000111_45": "「すまないな。\\n どうもこの呼び方がしっくりくるんだ」", "379000111_46": "「気に入っているので、大丈夫ですよ」", "379000111_47": "(ここで暮らし始めて数ヶ月。\\n 残念ながら、ボクの記憶はまだ戻っていません)", "379000111_48": "(でも、おじいさんと了子さんのおかげで、\\n ちっとも寂しくありませんッ!)", "379000111_49": "(今では『フナ太郎』がボクの本当の名前だったんじゃないかって\\n 思うくらい、お2人には良くしてもらっています)", "379000111_50": "「フナ太郎、次は食器洗いを頼んでいいか?」", "379000111_51": "「あ、それならやっておきましたッ!\\n お風呂掃除も終わっていますよッ!」", "379000111_52": "「……まったく、働き者だな。\\n 正直助かってはいるが、自分の身体も労るんだぞ?」", "379000111_53": "「手を動かしている方が落ち着くので」", "379000111_54": "「それに、薪割りの道具やお風呂の構造など、\\n 毎日新しい発見があって楽しいですッ!」", "379000111_55": "「なら、今度は私のお手伝いをしてちょうだい。\\n かまどに火をつけてくれる?」", "379000111_56": "「はい、任せてくださいッ!」", "379000111_57": "「ううむ、瞬時に火が燃え盛るとは……。\\n 相変わらず見事な業だ。錬金術、だったか?」", "379000111_58": "「ええ。だけど、どうしてフナ太郎は\\n こんなことができるのかしらね?」", "379000111_59": "「それはやっぱり、思い出せません……。\\n この力が『錬金術』だということしか……」", "379000111_60": "「でも、お2人の役に立つことができるので、\\n ボクは嬉しいですッ!」", "379000111_61": "「嬉しいことを言ってくれるな」", "379000111_62": "「だが、フナ太郎は俺たちの家族だ。\\n 無理に役に立とうとしなくてもいいからな」", "379000111_63": "「は、はいッ!」", "379000111_64": "(……ずっと、この暮らしが続けばいいなと思っていました。\\n ですが――)", "379000111_65": "「最近、この村の近くで、\\n 鬼が出たという噂を知っているかしら?」", "379000111_66": "「え?\\n 鬼……ですか?」", "379000111_67": "「ええ。人間に仇なす存在のことよ。\\n 出会った村人が、襲われたらしいの」", "379000111_68": "「……ッ!」", "379000111_69": "「放っておいたら、襲撃してくるかもしれない。\\n 早急に退治しなければ、村は甚大な被害を被るでしょうね」", "379000111_70": "(そんな。いったい、どうすれば……)", "379000111_71": "(――そうだ、ボクには、錬金術が……ッ!\\n きっとこの力は、このときのために必要だったんですねッ!)", "379000111_72": "「あの、おじいさん、了子さんッ!\\n 鬼のことはボクに任せて――」", "379000111_73": "「よし、俺が灸を据えてくるとするかッ!」", "379000111_74": "「……え?」", "379000111_75": "「とうッ!」", "379000111_76": "「はああああッ!!」", "379000111_77": "「戻ったぞッ!\\n 鬼は無事に倒すことができた」", "379000111_78": "「え、ええーーーーッ!?!?」", "379000111_79": "「そういえば言ってなかったわね。\\n この人、冗談みたいに強いのよ」", "379000111_80": "「ボ、ボクの錬金術は……」", "379000111_81": "「まぁまぁ、いいじゃないの。\\n ――それで、その大きな風呂敷包みは?」", "379000111_82": "「鬼の首領が持っていた、金銀財宝だ。\\n これをやるから命だけは助けてくれと言われてな」", "379000111_83": "「受け取るのもどうかと思ったが、\\n あまりにもしつこいので止む無く……といったところだ」", "379000111_84": "「フフ、よほど怖かったのでしょうね。\\n ともあれ、めでたしめでたしと言ったところかしら」", "379000111_85": "それからまたしばらくして――", "379000111_86": "「なんだ? 外が騒がしいな……」", "379000111_87": "「また鬼が出たらしいぞーッ!\\n 今までの鬼より、さらに強いって噂だッ!」", "379000111_88": "「奴らの住処の近くにある村はもうやられちまったらしいッ!\\n このままじゃ、この村もいずれ……ッ!」", "379000111_89": "「他にも鬼がいたのか。\\n よし、もうひと暴れして――」", "379000111_90": "「待ちなさい。\\n 行かせる訳にはいかないわ」", "379000111_91": "「何だと?」", "379000111_92": "「あなたの『お父上』から招集の文が届いたのよ」", "379000111_93": "「なッ!?\\n もうそんな時期だったか……ッ!」", "379000111_94": "「おじいさんの、お父上ですか?」", "379000111_95": "「ああ。名は風鳴訃堂。\\n 実は、ここら一帯を治める大名なんだ」", "379000111_96": "「そうだったんですね……ッ!\\n 大名様の呼び出しということは、きっと大事な用が――」", "379000111_97": "「文にはこう書いてあったわ」", "379000111_98": "「『不承な親不孝者よ。\\n まもなく執り行う儂の誕生日会にまろび出ろ』」", "379000111_99": "「た、誕生日会ッ!?\\n でも、それなら鬼退治の方が大事では……」", "379000111_100": "「残念ながら、そんな言い分が通用する相手ではないんだ……」", "379000111_101": "「断って機嫌を損ねようものなら、\\n 村の1つや2つ焼き落としかねん」", "379000111_102": "「特に、毎年盛大に行う誕生日会は\\n ことさらに楽しみにしているからな……」", "379000111_103": "「そ、そんな……」", "379000111_104": "「ええい、100歳超えて誕生日にはしゃぐ者がいるかッ!!」", "379000111_105": "「困ったわ。\\n 前門の鬼、後門にも鬼、ね……」", "379000111_106": "「…………」", "379000111_107": "「あの……おじいさん、了子さんッ!\\n ボクに鬼退治、行かせてくださいッ!」", "379000111_108": "「な……ッ! 子供を無闇に戦わせる訳にはいかんッ!\\n 無理して役に立つ必要は無いと言っただろう」", "379000111_109": "「無理なんてしていませんッ! ボクは心から、\\n おじいさんと了子さん、そしてこの村を護りたいんですッ!」", "379000111_110": "「しかしだな……」", "379000111_111": "「……子供の成長を見守るのも、オトナの役目じゃなくて?」", "379000111_112": "「むう……」", "379000111_113": "「おじいさんは、お誕生日会を……ッ!\\n ボクは鬼をッ! 2人でS.O.N.G.村を護りましょうッ!」", "379000111_114": "「……1つだけ、条件がある」", "379000111_115": "「必ず生きて帰ってこいッ! 絶対にだッ!」", "379000111_116": "「……は、はいッ!」", "379000111_117": "「……決まりね。\\n それなら、これを持っていきなさい」", "379000111_118": "「おじいさんが持ち帰った財宝の中に、面白いものがあったの。\\n 急ごしらえだけど、それを材料に作ったものよ」", "379000111_119": "「旅に持っていけば、きっとあなたの役に立つはず。\\n 覚えておきなさい」", "379000111_120": "「……ッ!\\n ありがとうございますッ!」", "379000111_121": "「道中、気をつけるんだぞ」", "379000111_122": "「はいッ! それじゃあボク……いってきますッ!\\n 鬼からこの村を護るためにッ!」" }