{ "377000711_0": "歌姫の自信は脆くも揺らぐ", "377000711_1": "「…………」", "377000711_2": "「クリスティーナさん、予定時間終了でーすッ!\\n お疲れ様でしたッ!!」", "377000711_3": "(ダメ。全然声が出てない。無理やり絞り出してごまかしたけど、\\n 唄えていない。あたしの歌が唄えない)", "377000711_4": "(それが気になって、ダンスまでおろそかになりそう……。\\n こんなこと、今までなかったわ)", "377000711_5": "(今日はSSFのリハーサル……ここなら、\\n テンションが上がって唄えると思ったのにッ!!)", "377000711_6": "「クリスティーナさん。……大丈夫ですか?」", "377000711_7": "(同じ『クリス』に、並行世界の自分なんかに\\n 歌で負ける訳にはいかない)", "377000711_8": "(でも、今のあたしはなに?\\n アイツよりいい歌を唄うどころか)", "377000711_9": "(まともに歌を唄うことができない……ッ!!\\n 『いつものあたし』にすらなれないッ!)", "377000711_10": "「クリスティーナさん?\\n クリスティーナさんッ!」", "377000711_11": "「――え?\\n あ、マネージャーじゃない。どうしたの?」", "377000711_12": "「それはこっちが聞きたいですよ。\\n 思いつめた顔でずっと考えこんで……」", "377000711_13": "「足首が痛みますか?\\n それとも、どこか他の所が調子悪いとか」", "377000711_14": "「そ、そうねッ! まだ少し違和感があって、\\n 気になっちゃったのよ。本調子とはいえないわね」", "377000711_15": "「今日はゆっくり休んで、明日の本番に備えるわ。\\n 撤収しましょう」", "377000711_16": "「もうですか? なんだったら、軽いミーティングを」", "377000711_17": "「大丈夫ッ! 身体をケアすれば、バッチリ本調子よッ!\\n 進行も頭に入ってるし、ミーティングまでしなくていいわ」", "377000711_18": "「分かりました。ちょっとスタッフに声をかけていくので、\\n 先に控室に向かっててください」", "377000711_19": "「ええ、それじゃあね」", "377000711_20": "「緒川さん」", "377000711_21": "「ああ、翼さん。担当アイドルとうまくコミュニケーションが\\n とれないなんて、お恥ずかしい所を見せてしまいましたね」", "377000711_22": "「……アーティストは、時にマネージャーにも話しづらい\\n 悩みを持つものです。わたしもそうでした」", "377000711_23": "「本人が話せるようになった時、支えてあげてください。\\n もっとも、緒川さんには釈迦に説法でしょうが」", "377000711_24": "(関わりのないわたしなら、話しやすいかもしれない。\\n 声をかけてみるか)" }