{ "377000311_0": "はにかみの影武者", "377000311_1": "「怪我はどうだった?」", "377000311_2": "「……すぐ治るわよ」", "377000311_3": "「足首を捻挫しています。\\n 完治にはそれなりの日数を要するそうです」", "377000311_4": "「申し訳ありません。護衛を引き受けておきながら、\\n 負傷をさせてしまって……」", "377000311_5": "「しかも、逃げ損ねた子供をわたしたちの代わりに\\n 助けてくれたからだものね。責任を感じるわ」", "377000311_6": "「……悪かった」", "377000311_7": "「……それは、違うわ。\\n あの子はあたしのファンだった」", "377000311_8": "「それに並行世界のあたしにはまっすぐ事務所に戻れって\\n 言われていたもの。あなたたちの責任では、ないわよ」", "377000311_9": "「僕としてもその点には同意しますが、\\n この時期の負傷は正直痛いですね」", "377000311_10": "「この状態ではステージでのパフォーマンスは無理でしょう。\\n SSF当日までには完治する見込みですが……」", "377000311_11": "「それまでに予定されていたライブは、\\n すべてキャンセルするしかないでしょう」", "377000311_12": "「……ライブはキャンセルしないわ」", "377000311_13": "「クリスティーナさん……無理ですよ」", "377000311_14": "「あたしの怪我なんて、ファンには関係ないわッ!\\n みんなチケットを買って、ライブを楽しみにしてくれてるッ!」", "377000311_15": "「そんなファンのみんなを裏切ることはできないよ……ッ!\\n 怪我なんて関係ない。あたしは完璧なライブをするわよッ!」", "377000311_16": "「そんな怪我で、完璧なライブなんてできるはずがありません。\\n それこそ、ファンに対する冒涜ですよ」", "377000311_17": "「プロデューサー……」", "377000311_18": "「安静につとめて傷を癒してください」", "377000311_19": "「SSFに出場するためにも、\\n 今無理をする訳にはいかないのですよ」", "377000311_20": "「…………」", "377000311_21": "「プロデューサー、どこへ行っていたの?」", "377000311_22": "「今回の騒動について、関係各所へ確認を取りに……ですね」", "377000311_23": "「世間では、騒動について\\n どのように認知をしているのでしょうか?」", "377000311_24": "「カルマノイズは、関係者の間では正体不明の災害という\\n 扱いですが、世間にはひた隠しにされています」", "377000311_25": "「騒動については、集団パニックということに\\n されているようですね」", "377000311_26": "「……マスコミもその方向に?」", "377000311_27": "「オメガタクトはマスコミにも顔が利きますから」", "377000311_28": "「SSFを中止にする訳にはいかないオメガタクトとしては、\\n カルマノイズのことで騒がれたくないのでしょう」", "377000311_29": "「…………」", "377000311_30": "「話は少し脱線しましたが、\\n 僕もプロデューサーの意見に基本的には賛成です」", "377000311_31": "「今の状態では、ステージでのパフォーマンスは厳しい。\\n ライブ中止を真摯に謝罪して、回復に努めるのが一番です」", "377000311_32": "「確かに……。\\n いたし方のない判断だな」", "377000311_33": "「でも――ッ!」", "377000311_34": "「なぁ……、あたしに何か手伝えることはないか?」", "377000311_35": "「あなた……」", "377000311_36": "「こいつは、あたしたちに代わって人を救ってくれた」", "377000311_37": "「ライブ以外にも、できることはあるかもしれないだろ?\\n 協力できるなら、なんでも言ってくれッ!」", "377000311_38": "「素晴らしいぃぃぃぃぃッ!!\\n その言葉、お待ちしていましたよッ!」", "377000311_39": "「き、急になんだッ!?」", "377000311_40": "「片や、ファンのためにライブを開催したいが、\\n 怪我をしてしまったアイドル」", "377000311_41": "「そして片や、そんなアイドルを手伝いたい、\\n アイドルに瓜二つの少女ッ!」", "377000311_42": "「ま、まさか……」", "377000311_43": "「そう、替え玉による、ライブの開催ですッ!」", "377000311_44": "「はああああああああああああああッ!?!?」", "377000311_45": "「えええええええええええええええッ!?!?」", "377000311_46": "「ふっざけんなッ! あんなフリフリ衣装また着て、\\n 今度は唄って踊れってかッ!? そんなことできるかッ!」", "377000311_47": "「そんなの、ファンを騙してるだけじゃないッ!!\\n 絶対に、絶対にイヤよッ!!!」", "377000311_48": "「ライブの中止も、替え玉も、ファンへの裏切りという\\n 意味では大差ありませんよ」", "377000311_49": "「それよりもッ!\\n SSF直前の大事な時期にライブを中止して……」", "377000311_50": "「クリスティーナの存在感を希薄にしてしまうことの方が\\n よっぽどファンを悲しませることになりますよ?」", "377000311_51": "「そ、そうだろうか……」", "377000311_52": "「お前もイヤだろ?\\n ニセモノのあたしがステージに立ったりするのはッ!」", "377000311_53": "「……イヤだけど、すっごいイヤだけど、\\n ライブを中止にさせないためなら、しかたないわ」", "377000311_54": "「お前までッ!!」", "377000311_55": "「でもプロデューサー、1つ条件があるわ。\\n ボーカルは譲りたくないの。どうかしら?」", "377000311_56": "「構いませんよ。MCは口パクを合わせるのが難しいので\\n 避けた方がいいでしょうが、歌ならば」", "377000311_57": "「……断ってもいいとは思うけど」", "377000311_58": "「どうするのだ? 雪音」", "377000311_59": "「~~~ッ!」", "377000311_60": "「こいつに怪我をさせたのはあたしの責任だ。\\n 替え玉だろうが何だろうが、やってやるッ!」", "377000311_61": "「素晴らしいッ!\\n 感謝しますよッ!」", "377000311_62": "「すぐにレッスンの日程を組みます」", "377000311_63": "「わたしとマリアには、芸能活動の経験があります。\\n ダンスレッスンには、協力させてください」", "377000311_64": "「なら、あたしはファンサービス担当ねッ!\\n 完璧に可愛いファンサパフォってものを伝授してあげるわッ!」", "377000311_65": "「どうして、こうなるんだよ……」" }