{ "363000611_0": "わたしたちの約束", "363000611_1": "「すまない。\\n 早い時間から自主練に付き合わせてしまって」", "363000611_2": "「いいえ。\\n 一緒に練習することで、わたしも学ぶことがあるから」", "363000611_3": "「じゃあ、早速殺陣の動きを合わせてみましょう」", "363000611_4": "「ああ、頼む」", "363000611_5": "「行くわよ、せーのッ!」", "363000611_6": "「ハァッ! フッ!」", "363000611_7": "「ヤァッ!!\\n ……スムーズに動けているわ、さすがね」", "363000611_8": "「しかし、まだ改善の余地はある。どうしたら、\\n もっと華麗に立ち回ることができるのだろうか……」", "363000611_9": "「あなたを見ていると、\\n ロンドンの演劇学校にいた頃を思い出すわ」", "363000611_10": "「その時の先生が教えてくれたの。一流の者は\\n 道を極めし時、常に勤勉な『生徒』である……って」", "363000611_11": "「あなたほどの歌手がレヴューを前にして、\\n こんなに懸命にレッスンを重ねている」", "363000611_12": "「わたしも懸命に励まなきゃって気持ちになる」", "363000611_13": "「一流は常に勤勉な『生徒』……か」", "363000611_14": "「神楽はそう言ってくれるが、実際のわたしは防人としても\\n アーティストとしても、未熟者」", "363000611_15": "「ましてや、舞台少女としては一流などとは程遠い……」", "363000611_16": "「皆の期待に応えるため、\\n 少しでも一流に近づきたいのに……」", "363000611_17": "「翼……」", "363000611_18": "「あなたが、別の世界の人なのが残念」", "363000611_19": "「共に舞台に立つことができれば、\\n さぞ演じ甲斐があったでしょうに」", "363000611_20": "「そうか……」", "363000611_21": "「……なぁ、神楽は舞台に立つことが怖くなることはないか?」", "363000611_22": "「そうね……。\\n あなたは怖いの?」", "363000611_23": "「ああ……思ってしまうのだ。\\n こんなわたしが、ステージに立っていてよいのかと」", "363000611_24": "「……わたしもね、迷ったことがあるわ」", "363000611_25": "「それこそ、もう二度と舞台に立てなくなるほどに」", "363000611_26": "「神楽ほどの者でも……」", "363000611_27": "「聞かせてくれないか?\\n その迷いから、どのように再起したのか」", "363000611_28": "「わたしには『約束』があったから、\\n もう一度舞台と向き合えたのかもしれない」", "363000611_29": "「約束……?」", "363000611_30": "「ええ、この髪飾りはその証。\\n 華恋とわたしは同じ舞台に立つと昔、誓い合ったの」", "363000611_31": "「子供の頃に交わした約束だから、覚えているのは\\n わたしだけだと思っていたけれど――」", "363000611_32": "「でも、華恋は覚えていてくれた。\\n 『2人でスタァライトの舞台に立とう』って」", "363000611_33": "「華恋との約束はわたしの舞台少女としての原点。\\n それと同時に、わたしが舞台に立ち続ける理由でもある」", "363000611_34": "「さっき、翼は舞台に立つのが怖くなることがあると\\n 言ったけれど……」", "363000611_35": "「あなたが舞台に上がる理由って何?」", "363000611_36": "「それは、当然ファンの皆のためだ。\\n 風鳴翼を待ってくれている人の気持ちに応えたい」", "363000611_37": "「そう……」", "363000611_38": "「それじゃあ、翼はファンがいなくなったら、\\n 何も期待されなくなったら唄うことを辞めてしまうの?」", "363000611_39": "「そ、それは……」", "363000611_40": "「そうだろう。聴いてくれる相手がいなくなったら、\\n わたしに唄う資格はないのではないか?」", "363000611_41": "「唄うことに資格なんているのかしらね」", "363000611_42": "「……」", "363000611_43": "(唄う……今まで当たり前のようにしてきたことだからか、\\n 考えがまとまらない)", "363000611_44": "「わたしにとって『唄う』とはなんなのだろうか……」" }