{ "506000231_0": "「ようこそいらっしゃいました。詳しくは存じませんが……、\\n あなたたちにどれだけ感謝をしても、足らないことでしょう」", "506000231_1": "「そんな、お礼を言われるようなことなんて……」", "506000231_2": "「当然のことをしただけデスッ!\\n 押しかけたのに入れてくれただけで十分デスよッ!」", "506000231_3": "「あなたたちを閉め出す道理などありません。それに、先ほどまでも\\n S.O.N.G.の方がレイラインの調査にいらしていたのですよ」", "506000231_4": "「あ……そうか。\\n わたしたちが調整で動けない間に……」", "506000231_5": "「ありゃ……\\n アタシたちが一緒にやるって言えばよかったデスね」", "506000231_6": "「フフ。なんでもかんでも抱え込んでも、抱えきれませんよ。\\n ――用意はすんでいます、さ、こちらへどうぞ」", "506000231_7": "「ツクヨミさん、ツクヨミさん……。\\n 聞こえますか?」", "506000231_8": "――", "506000231_9": "「…………」", "506000231_10": "「……やっぱり出てきてくれないね。\\n 夜じゃないから、っていうわけでもない気がする」", "506000231_11": "「むむむぅ……気配も感じないデス。\\n 本当に見放されたんデスか……?」", "506000231_12": "「そう、なのかな……」", "506000231_13": "「レイラインの調査、\\n アタシたちは行かなくていいんデスか?」", "506000231_14": "「近場のは手が足りてるし、\\n わたしたちはギアの調整が先だね」", "506000231_15": "「残念デス……。\\n みんな忙しそうなのに、手伝えないデスか」", "506000231_16": "「そのぶん、ギアの調整が終わったらがんばろう。\\n 世界中の人たちががんばってるんだから」", "506000231_17": "「デスデースッ!", "506000231_18": " ……ん? 世界中……」", "506000231_19": "「どうかした?」", "506000231_20": "「……そういえば、世界が大変だったのに、\\n どうして守護者たちは手伝ってくれなかったんデスかね?」", "506000231_21": "「あ……そうだ、今回の件も『全ての並行世界』が巻き込まれた、\\n 世界の危機だったよね」", "506000231_22": "「それなのに、一度も……」", "506000231_23": "「この前に助けてくれた時に力を使いすぎて、\\n 今は寝ちゃってるんデスかね……それとも……」", "506000231_24": "「もしかしてアタシたち、\\n 見放されちゃったデスかッ!?」", "506000231_25": "「――見放された?\\n 見放された、世界……?」", "506000231_26": "「それ、キョウさんたちが、\\n 言ってたことデスねッ!」", "506000231_27": "「うん。関係があるかはわからないけど、\\n ツクヨミさんたちに話を聞けたら、何かわかるかも」", "506000231_28": "「でもどうやってこっちから、\\n 会いに行くんデス?」", "506000231_29": "「うーん……、\\n ツクヨミさんが眠っていた勾玉、とか……」", "506000231_30": "「それデスッ!\\n 神社の人に連絡して、調神社に持ってきてもらうデスよッ!」", "506000231_31": "「ありがとうございました。\\n 無理を言ってごめんなさい」", "506000231_32": "「ありがとうデス……」", "506000231_33": "「……そのお顔、\\n あまり良い結果ではありませんでしたか?」", "506000231_34": "「そんなところデス」", "506000231_35": "「お2人がそうして思い悩むということは、\\n また大きな危機が絡んでいるのでしょうなぁ……」", "506000231_36": "「私にできることは、きっと少ないですが……\\n それでもお力になれることがあれば、何でも仰ってください」", "506000231_37": "(わたしたちがここに来たのは、キョウさんたちのことを除けば、\\n むしろ『大きな危機』が去ったからこそ……)", "506000231_38": "(けど、そのせいで、\\n わたしたちは並行世界との繋がりを失うかもしれない)", "506000231_39": "(……)", "506000231_40": "「……あの、1つだけ、\\n 聞いてもいいですか?」", "506000231_41": "「もちろん、どんなことでも」", "506000231_42": "「宮司さんは、もし大事な仲間と、友達と、\\n 二度と会えないとしたら――どうしますか?」", "506000231_43": "「調……」", "506000231_44": "「……そうデスね、\\n アタシも教えて欲しいデスッ!」", "506000231_45": "「それは……困りましたね。我々の教えでは、\\n 執着というものは穢れ……あまり良いものでは――」", "506000231_46": "「…………」", "506000231_47": "「……ですがお2人が聞きたいのは、そういった話ではないでしょう。\\n であれば――こう答えましょうか」", "506000231_48": "「よくあることです、と」", "506000231_49": "「大事な人との別れが、\\n よくあること……デス?」", "506000231_50": "「ええ。この年齢になれば、\\n 人との別れは日常茶飯事です」", "506000231_51": "「……まあ、あなたたちが尋ねるくらいです、\\n きっと我々とは違う、特別な事情があるのでしょう」", "506000231_52": "「けれど……誰かとの別離、\\n 避けられぬ別れというのは、誰しもに起こること」", "506000231_53": "「それが起こるのは、もしかしたら今日かもしれない。\\n 明日かもしれない……それは誰にもわからないこと」", "506000231_54": "「……」", "506000231_55": "「可能性というのは、希望だけのことを言いません。\\n ……その中には、逃れられない別れも当たり前に存在している」", "506000231_56": "「世界が穏やかに見えるとしても、\\n 当たり前の、どこにでもあることなんです」", "506000231_57": "「当たり前の、どこにでもある、こと……」", "506000231_58": "「宮司さんも……\\n そんな悲しいことを、経験してきたんデスか……?」", "506000231_59": "「ええ、幾度も」", "506000231_60": "「受け入れたこともあれば……\\n 恥ずかしながら、泣きわめいて抗ったこともあります」", "506000231_61": "「しっかり執着してるデスッ!?」", "506000231_62": "「それはもう。執着を捨てることができているなら、\\n 祀る側ではなく、祀られる側になっていますとも」", "506000231_63": "「それに……抗ったことも受け入れたことも、後悔はしていません。\\n むしろ――」", "506000231_64": "「なるようにしかならない、と言うべきでしょうか」", "506000231_65": "「なるようにしか、ならない……。", "506000231_66": " 別れは当たり前のことだから……?」", "506000231_67": "「みんながそんな風に納得してるんデスか……?」", "506000231_68": "「納得は……どうでしょうか?", "506000231_69": " 別れを悲しむことと、正しく諦めること……諦観は別の話ですからね」", "506000231_70": "「……?」", "506000231_71": "「……フフ。\\n 私はね、こう思っています」", "506000231_72": "「だからこそ、心のままに行動するべきなのだと。\\n 別れを厭う気持ちがあるのなら、全力で抗うといい」", "506000231_73": "「え……?\\n 諦めなくて、いいんですか?」", "506000231_74": "「二度と会うことのできなくなる別れ……」", "506000231_75": "「その代表は、やはり『死』になるでしょう。\\n 化け物に殺されるのであれ、病や事故に倒れるのであれ……死は別れだ」", "506000231_76": "「では――死に抗うことはできるでしょうか?\\n 人は全力で足掻けば、死を退けることが可能ですか?」", "506000231_77": "「それは……無理だと思います。\\n 寿命のない人になら、会ったことがあるけど――」", "506000231_78": "「その人たちでも、\\n 死は避けられなかったデス」", "506000231_79": "「では死んでしまったのなら、\\n 死ぬ前に試みた全てが無駄になると、そう思いますか?」", "506000231_80": "「――ッ!」", "506000231_81": "「……無駄ではないはずです」", "506000231_82": "「だって、きっと、今の世界は……\\n 死の寸前まで戦った人が作り上げてきたものだから」", "506000231_83": "「そうデスッ!\\n マムが命を懸けて護った世界なんデスッ!」", "506000231_84": "「その通りです」", "506000231_85": "「人が成した行いは、必ず残る。\\n 人の行いも、人の感情も、無に帰すことはできない」", "506000231_86": "「別れに納得ができないのであればこそ、\\n 先の自分が納得できるまで抗うこと」", "506000231_87": "「『なるようにしかならない』別れがあるからこそ、\\n 人はそもそも、そうするしかないのではないでしょうか?」", "506000231_88": "「納得できるまで抗って――戦って。\\n その先に、やっと納得がある……」", "506000231_89": "「アタシたちの知らないところで、\\n みんながそうやって、別れと戦ってるんデスね……」", "506000231_90": "「調さん、切歌さん。\\n 守護者の調査中にごめんなさい」", "506000231_91": "「ううん、そっちは終わったから。\\n どうしたの?」", "506000231_92": "「レイラインの調査に進展がありました。\\n 全員に共有しますので、一度本部へ帰還していただけますか?」", "506000231_93": "「了解デスッ!\\n すぐに戻るデスよッ!」", "506000231_94": "「宮司さん、色々ありがとう。\\n 納得できるまで、頑張ってみます」", "506000231_95": "「また会えるまで、\\n 元気でいてくださいデスよーッ!」", "506000231_96": "「ええ。\\n またお会いできる日を楽しみにしています」", "506000231_97": "「――強い力を持つ者ほど、手の届く範囲も広い。\\n 故に執着をなくすこともまた、容易ではない」", "506000231_98": "「大きな力を持つ彼女たちが、『納得』へと至ることが、\\n どれほどに難しいことでしょうか」", "506000231_99": "「それでも、どうかあなたたちの望む結末を迎えられるよう。\\n 心から祈っていますよ――」" }