{ "501000131_0": "「並行世界からやってきた侵略者は、\\n 『大喰らい』と呼ばれる魔物を使役していた」", "501000131_1": "「並行世界――その頃のわたしたちは、\\n ただ、『星』と呼んでいた世界を、全て喰らい尽くすモノ」", "501000131_2": "「星の命――星命力を根こそぎ奪われれば、\\n 大地は枯れ、空は燃え、泉は腐り果てる」", "501000131_3": "「だから、\\n わたしたちの世界は必死に抵抗して――」", "501000131_4": "「血で血を洗う戦いの果て、\\n どうにか『大喰らい』を撃退した」", "501000131_5": "「……まあ。\\n 結局のところ、殺し切れては、いなかったのだけど」", "501000131_6": "「ようやく、戦いが終わった。\\n これで、家に帰れるな……」", "501000131_7": "「といっても、\\n 戦いの余波で、ボロボロになっちまってるけどな」", "501000131_8": "「残っているだけマシだろう。\\n ほとんどの土地は、この戦いで焼け野原になってしまった」", "501000131_9": "「勝ったといっても、\\n これではな……」", "501000131_10": "「…………」", "501000131_11": "「どうしてッ!? 戦いは終わったんでしょッ!?\\n それなのに、ちっとも変わらないじゃんッ!」", "501000131_12": "「おなかいっぱいご飯を食べたいよッ!」", "501000131_13": "「それが、畑が以前のようには使えないらしいの。\\n お願いだから、我慢しておくれ」", "501000131_14": "「そんなぁ……。\\n 巫女様の力で、なんとかなるんじゃなかったのッ!?」", "501000131_15": "「巫女様の力じゃ、\\n 枯れた土地は戻らないみたいなの」", "501000131_16": "「巫女様を信じてたから……。\\n だから、これまでずっと我慢してきたのに……」", "501000131_17": "「本当にねぇ。巫女っていうぐらいなんだから、\\n それくらいの奇跡、起こしてくれないかねぇ……」", "501000131_18": "「…………」", "501000131_19": "「……あら?", "501000131_20": " これは……?」", "501000131_21": "「この子は……」", "501000131_22": "「……」", "501000131_23": "「間違いない。\\n この子から伝わってくる力を、わたしは知っているわ……」", "501000131_24": "「『大喰らい』の一部。\\n いいえ、欠片と言ってもいいくらいだけれど……」", "501000131_25": "「この小さな蛇は、あの『大喰らい』なのだわ……」", "501000131_26": "「……どうしよう。\\n 誰かに話した方がいい、よね?」", "501000131_27": "「だって、この子のせいで、\\n この世界は、滅びそうになったんだから……」", "501000131_28": "「…………」", "501000131_29": "「……?\\n わ、わたしの懐を気にしているの? ……どうしたの?」", "501000131_30": "「……」", "501000131_31": "「あッ、もしかして――\\n さっき受け取った、食べものを……?」", "501000131_32": "「……ッ!」", "501000131_33": "「……。", "501000131_34": " ……あなたも、おなかが空いているのね」", "501000131_35": "(こんなに弱って、\\n それでも、必死で生きようとしている……)", "501000131_36": "(……この姿は、\\n わたしたちと、いったい何が違うというんだろう?)", "501000131_37": "「……周りには、誰もいないわね」", "501000131_38": "「……ほら、お食べ」", "501000131_39": "「――ッ!」", "501000131_40": "「……やっぱり、おなかが減っていたのね。", "501000131_41": " フフ……そんなに一気に食べたら、喉に詰まってしまうわよ」", "501000131_42": "(こんなに弱ってしまって、小さくなって、\\n それでも、わたしの食事の残りを、必死で食べている……)", "501000131_43": "(ただ、生きたいだけのこの子を、\\n 殺してしまうことなんて……わたしには――)", "501000131_44": "「巫女様、お食事をお持ちしました」", "501000131_45": "「ええ、ありがとう。\\n そこに置いておいてもらえる?」", "501000131_46": "「はい。", "501000131_47": " ……承知しました、が……」", "501000131_48": "「……何?\\n 何か言いたいことでもあるの?」", "501000131_49": "「食事を摂れって言うから、ちゃんと食べているんじゃない。\\n 文句でもあるの?」", "501000131_50": "「……いえ、失礼します」", "501000131_51": "「……ふぅ。\\n 行ったわね」", "501000131_52": "「ほら……出て来なさい、\\n ご飯の時間よ」", "501000131_53": "「よーく噛んで食べないと、\\n おなかを壊しちゃうからね?」", "501000131_54": "「……それにしても、よく食べるわね。\\n わたしの分も無くなってしまいそう」", "501000131_55": "「ああ、別にいいのよ。", "501000131_56": " 気にしないで、どんどん食べなさい」", "501000131_57": "「フフ。食べすぎて、\\n また大きくなっちゃうのは困るけど……」", "501000131_58": "(しばらくの間、\\n この子のことを見ていてわかったことがある……)", "501000131_59": "(他の世界を滅ぼす『大喰らい』になってしまったのは、\\n きっと、この子の意思ではないということ……)", "501000131_60": "(だって、\\n この子は与えられたものを、ただ食べているだけ)", "501000131_61": "(この子が悪いんじゃないわ。都合良く利用されただけ。\\n この子を、侵略に使おうとする、悪意こそが――)", "501000131_62": "(この子を、\\n みんなからの嫌われものにしてしまったんだ)", "501000131_63": "「安心して。\\n わたしはそんなこと、絶対にしないから……」" }