{ "501000111_0": "祈りの巫女、悪意の巫女", "501000111_1": "「これは――、\\n なんの音かしら?」", "501000111_2": "「泡の音――いいえ、違うわね。\\n これは……誰かの声?」", "501000111_3": "――――", "501000111_4": "「か細く、今にも消えそうな歌声……\\n それも、祈りの歌かしら?」", "501000111_5": "「誰が唄っているの?\\n こんな不愉快なものを、わたしに聴かせるなんて」", "501000111_6": "「いえ、そもそも、\\n わたしが見ているこれは……何?」", "501000111_7": "「誰かの……想い出?」", "501000111_8": "「大丈夫?\\n おなか、空いてない?」", "501000111_9": "「いえ、私は大丈夫です。\\n それよりも、巫女様の方こそ……」", "501000111_10": "「わたしは大丈夫よ。だから、もしおなかが空いている人がいたら、\\n その人に食べさせてあげて」", "501000111_11": "「……承知しました。\\n そのように致します」", "501000111_12": "「あれは……、\\n あの声は、あの姿は――わたしだ」", "501000111_13": "「わたしがまだ、\\n ベアトリーチェではなく――」", "501000111_14": "「『フィーネの魂の器』たる、\\n 巫女だった頃の――」", "501000111_15": "「わたしはいいの。\\n 戦っている人たちにこそ、食べ物が必要でしょう?」", "501000111_16": "「だってもうすぐ、\\n 長かった『大喰らい』との戦いが終わるんだから」", "501000111_17": "「それはそうですが……。\\n 巫女様にも、食事は摂っていただきたく」", "501000111_18": "「もうッ!\\n いらないって言ってるでしょッ!」", "501000111_19": "(ぐぅぅ〜〜……)", "501000111_20": "「あッ!?」", "501000111_21": "「あの、これは……違うのよ?\\n おなかなんて、鳴ってないんだからッ!」", "501000111_22": "「やはり……皆のために耐えてくださっていたのですね。", "501000111_23": " しかし――」", "501000111_24": "「『祈りの巫女』たる貴女が倒れでもしたら、\\n 結果、皆が悲しみ、困るのです」", "501000111_25": "「う……ッ」", "501000111_26": "「少しで構いませんから、\\n 何か召し上がってはいただけないでしょうか」", "501000111_27": "「が、我慢なんてしてないったらッ!", "501000111_28": " わたしは……わたしは――」", "501000111_29": "(ぐぅぅ〜〜……\\n きゅるるるる………)", "501000111_30": "「うぅ……\\n どうしておなかが鳴っちゃうのよぉ……」", "501000111_31": "「……では、巫女様。\\n このパンの、半分でいかがでしょうか?」", "501000111_32": "「半分、召し上がっていただけるのでしたら……\\n 残りは、責任を持って兵士たちに届けさせていただきましょう」", "501000111_33": "「……本当に? 約束よ?\\n 絶対に絶対、残りをみんなに届けてよねッ!」", "501000111_34": "「フフ……ええ。\\n このアルヴィース、巫女様からの任、しかと拝命致しました」", "501000111_35": "「…………」", "501000111_36": "「……そうだ、覚えている。\\n わたしは、この光景を覚えている――」", "501000111_37": "「……いや、何かを切っ掛けにして、\\n 『思い出させられた』のか?」", "501000111_38": "「わたしが、\\n 『フィーネの魂の器』であった、遙か昔」", "501000111_39": "「その記憶……想い出を……」" }