{ "376000441_0": "「…………」", "376000441_1": "(……洞窟の外に、カ・ディンギルが見える……。\\n やはりこの並行世界でも、ルナアタックがあったのだな)", "376000441_2": "(では、この並行世界のわたしたちは?\\n フィーネはどうなったというのだ……ん?)", "376000441_3": "「……わたしに何か用か?\\n そんなところに隠れていないで、出てきたらどうだ?」", "376000441_4": "「……見張り中なのに、お邪魔してすみませんッ!\\n なんだか今晩は寝付けなくて」", "376000441_5": "「無理もない。それにわたしも廃墟ばかりの光景に\\n 寒々しさを感じていたところだ。話し相手はありがたい」", "376000441_6": "「…………」", "376000441_7": "「……あのッ! 翼さんッ!」", "376000441_8": "「な、なんだ?」", "376000441_9": "「ずっと言いたかったんですけど……ッ!\\n あたしッ! 昔からずっと、ファンだったんですッ!」", "376000441_10": "「どれくらいかというと、全曲ソラで唄えるくらいには……ッ!\\n だから、本物の翼さんに会えて、嬉しいですッ!」", "376000441_11": "「こんな状況じゃなかったら、もっとよかったんですけど……」", "376000441_12": "「そう言ってもらえて光栄だ」", "376000441_13": "「……だが、わたし個人のファンというより、\\n 奏のいるツヴァイウィングのファンだったのではないか?」", "376000441_14": "「それは、その……はい。\\n 今翼さんのファンだというのは本当なんですけど――」", "376000441_15": "「奏さんに助けてもらったことが、\\n 好きになったきっかけでしたから……ッ!」", "376000441_16": "「ありがとう。\\n 奏に代わって礼を言わせてくれ」", "376000441_17": "「当然ですッ!\\n 奏さんはあたしの、命の恩人なんですよッ!」", "376000441_18": "「いいえ、命を救ってくれただけじゃありませんッ!\\n 生き方だって、変えてくれたんですッ!」", "376000441_19": "「どういうことだ?」", "376000441_20": "「……当時のあたしは、引っ込み思案で、\\n 何でも悪い方に考えてしまう癖がありました」", "376000441_21": "「あたしが生きていて何になるんだろうって、\\n 家にも、学校にも、居場所が無いような気さえしていたんです」", "376000441_22": "「…………」", "376000441_23": "「だから、ノイズに囲まれたとき、もういいかなって\\n 思っちゃったんです。終わりなら、終わりでもって……」", "376000441_24": "「そんな時、奏さんは現れて、あたしを護ってくれたんですッ!」", "376000441_25": "「奏さんが護ってくれたこの命には意味があると思った。\\n だから、ウジウジするのはやめたんですッ!」", "376000441_26": "「奏さんに救ってもらったこの命でッ!\\n 奏さんのように困っている誰かを救えるようになろうってッ!」", "376000441_27": "「……そうか、水流も、奏に背中を押してもらったんだな」", "376000441_28": "「あたし『も』……?」", "376000441_29": "「わたしもそうだからだ。当時はよく、ライブ前に不安に\\n 押しつぶされそうになって、震えていたものだが……」", "376000441_30": "「翼さんが……ッ!?」", "376000441_31": "「奏はそんなわたしを包み、鼓舞してくれた。\\n 今のわたしがあるのは、間違いなく奏のおかげなんだ」", "376000441_32": "「さすが、奏さんですね……ッ!」", "376000441_33": "(奏の死を受け入れられない、この子の気持ちは分かる。\\n 目の前で見たわたしですら、信じられなかったのだ……)", "376000441_34": "(少なくとも今は、厳しい現実を\\n 目の前にたたきつけない方がいいだろう……)", "376000441_35": "「どうされたのですか?」", "376000441_36": "「いや、奏から受け取った想いは、\\n これからも持ち続けてくれ」", "376000441_37": "「はいッ!\\n もちろんですともッ!」", "376000441_38": "(この子はなんとしても、わたしたちの手で\\n 元の世界へと戻してやらねばな)", "376000441_39": "「さて、そろそろ寝た方がいい。明日は大変だぞ」", "376000441_40": "「はい。それじゃあ、\\n おやすみなさ……ッ!」", "376000441_41": "【ドクンッ、ドクン――ッ!】", "376000441_42": "(この……感覚、怪物が現れた時のッ!?)", "376000441_43": "(……違う、近くにいるわけじゃない……。\\n だけど、もっと邪悪で、強い……ッ!)", "376000441_44": "「逃ガ、サナイ……」", "376000441_45": "(――ッ!)", "376000441_46": "「必ズ、殺シテヤル……ッ!」", "376000441_47": "「おい、おいッ!\\n 大丈夫か? しっかりしろッ!」", "376000441_48": "「翼……さん?」", "376000441_49": "「気が付いたか。\\n 突然意識を失ったから、心配したぞ」", "376000441_50": "「あの……声が聞こえました」", "376000441_51": "「なに?」", "376000441_52": "「あたしたちをこの世界に連れてきた、巨大な怪物の声……。\\n どこかから、あたしたちを狙っている……?」" }