{ "503000511_0": "見えざる魔の手", "503000511_1": "時間は数日遡り、", "503000511_2": "マリアたちがベースキャンプに到着した頃――", "503000511_3": "錬金術師協会内、キャロルの部屋にて", "503000511_4": "奏と自動人形たちは――", "503000511_5": "「どうだ?\\n 何か手がかりになりそうなもんは見つかったか?」", "503000511_6": "「うーん、なんにもないゾ……」", "503000511_7": "「マスターは用心深いですからねぇ。\\n そう簡単に尻尾を出すようなお人では……」", "503000511_8": "「――あ」", "503000511_9": "「ん?\\n どうした?」", "503000511_10": "「……いえ、あたしたちは『決して触らぬよう』に\\n 言われている棚があったなー、と」", "503000511_11": "「そういえば、まだ調べてないゾッ!」", "503000511_12": "「しかし……あれは厳命というより、\\n 私たちにかけられた術式による『制限』」", "503000511_13": "「ああ……私たちでは、派手に開けられない」", "503000511_14": "「なら……\\n あたしが開けるのは問題ないってことだなッ!」", "503000511_15": "「迷いがないんだゾ」", "503000511_16": "「そりゃそうだ……って、ん?", "503000511_17": " 本が出てきたけど……これに見覚えは?」", "503000511_18": "「ぜーんぜん。\\n さっぱりすっきり、初めて見ますねえ」", "503000511_19": "「装丁は地味。そして、かなり古い……。\\n 見たところ百年前……いや、もっと昔か?」", "503000511_20": "「『雪と魔物に飲まれた国 ゴマ・タパ』……」", "503000511_21": "「……どうやら、中世の歴史書ですね。\\n インドの北部地方でしょうか」", "503000511_22": "「よくまぁそんな……\\n ミミズみたいな字が読めるな……」", "503000511_23": "「これでも錬金術師の騎士ですので」", "503000511_24": "「あたしは、ぜーんぜん読めないゾッ!」", "503000511_25": "「ミカちゃんは少し黙ってましょうねぇ」", "503000511_26": "「ええと……ヒマラヤのふもとに存在した\\n 幻の国ゴマ・タパ……」", "503000511_27": "「民はみな山の精霊を信奉し、\\n 祈りを捧げた……」", "503000511_28": "「精霊の加護を受けた民の中には、\\n 無装備で山頂に到達する者もいたという」", "503000511_29": "「いやいや、ヒマラヤ山系って、\\n 標高何千メートル級の山ばっかりだろ?」", "503000511_30": "「ウソっぱち……それか、\\n あたしたちみたいなヒト以外の何か……とか?」", "503000511_31": "「……だが、山の加護を受けた民ですら\\n 諸外国の侵略にはかなわなかった」", "503000511_32": "「国は荒れ、困り果てた王は\\n 流れ者の魔術師に助けを求めた」", "503000511_33": "「ところが、この魔術師はあろうことか\\n 霊石『サガルマータの魂』を悪用し……」", "503000511_34": "「――ッ!?\\n サガルマータの魂……ッ!」", "503000511_35": "「その本がアタリか。\\n やっと情報が出てきたな……」", "503000511_36": "「その『サガルマータの魂』ってのが、\\n あいつがずっと調べてた宝石なんだろ?」", "503000511_37": "「ほかには何が書いてある?」", "503000511_38": "「あら、これ……肖像画?\\n 本の中に挟まっていましたわ」", "503000511_39": "「マスターほどじゃないけど、\\n 可愛い女の子ダゾッ!」", "503000511_40": "「よく描けている絵だな。\\n 歳は……並行世界の装者たちぐらいか」", "503000511_41": "「マスターが大事にしまいこんでいた本の中に、\\n 誰とも知れないふるーい肖像画……」", "503000511_42": "「これはおもしろ……じゃなかった、", "503000511_43": " 何か特別なものを感じますねぇ?」", "503000511_44": "「なんにせよ、重要な手がかりだ。\\n 二課に持ち帰ってから詳しく……」", "503000511_45": "「ん?\\n 端末に何か――」", "503000511_46": "「って、あいつらッ!", "503000511_47": " ハハ……登山中に撮った写真を送ってきてくれたのか」", "503000511_48": "「写真……?」", "503000511_49": "「ああ。\\n ほら、これ。いい景色だなぁ」", "503000511_50": "「派手……いや、雄大な景色というべきか」", "503000511_51": "「ンー?\\n 一緒に写ってるのは誰なんダゾ?」", "503000511_52": "「さぁ……あいつらのことだ、\\n 現地の人間ともすぐ仲良くなって……」", "503000511_53": "「――ッ!?", "503000511_54": " いや、待てッ!」", "503000511_55": "「どうしたんです、そんな素っ頓狂な声を――", "503000511_56": " ――んんんッ!?」", "503000511_57": "「おまえも気づいたか。肖像画だよッ!\\n さっきの本の肖像画ッ!」", "503000511_58": "「こ、この絵のコと写真のコ……\\n そっくりなんダゾッ!?」", "503000511_59": "「これは、\\n どういうことだ……ッ!?」" }