{ "399000521_0": "「ドラ……?\\n それも聖遺物なんですか?」", "399000521_1": "「ドラウプニル……\\n 北欧神話において主神が持つとされる黄金の腕輪の名だ」", "399000521_2": "「9夜ごとに8つ、\\n 自身と同じ腕輪を作り出すという」", "399000521_3": "「神様が持ってる、増える腕輪……?", "399000521_4": " そう聞くと、なんだかあんまり危なくなさそうだけど……」", "399000521_5": "「錬金術において完全物質である黄金を、術を介さず生み出すんだ。\\n 実在するならば、オレもお目にかかりたいものだな」", "399000521_6": "「へぇ……?", "399000521_7": " ええと、つまり……すごいんですねッ!」", "399000521_8": "「なんにもわかってなさそうだけど、\\n 勢いのある返事だけは嫌いじゃないわよ」", "399000521_9": "「……けれど、それだけではないんだ。\\n ドラウプニルの力は」", "399000521_10": "「キャロルの説明は間違いではない。\\n しかし、正しく述べてはいないのさ。事実をね」", "399000521_11": "「オレが――、\\n いや、伝承が間違っていると?」", "399000521_12": "「ドラウプニルは北欧の権威者たちの持ち物じゃないんだ、\\n 確かに、彼らが管理していた時期もあったけれどね」", "399000521_13": "「……古い、古い想い出さ。僕が知る限り――\\n 正しき神が作り出した聖遺物の中でも、あれは異質だ」", "399000521_14": "「大いなる力など軽々飛び越える、大きすぎる力がある。\\n 『全てを複製する力』が、ね」", "399000521_15": "「全てって……何もかもをッ!?\\n ドラウプニルは腕輪そのものが増殖する道具じゃないのッ!?」", "399000521_16": "「少なくとも神話にはそう伝えられているはずだ。\\n お前の話が本当なら、なぜ虚偽が今に伝わっている?」", "399000521_17": "「本来の力を使わなかったんだよ、ドラウプニルを手にした人間が。\\n 危険性に気づいていたんだろう、これまでの所有者たちは」", "399000521_18": "「奇跡的にか……或いは、\\n それこそが人が人たらんとする意思なのか」", "399000521_19": "「過去の所有者も……そして、僕の友人も選んだのさ。\\n 真実ごと腕輪を『封印する』というやり方をね」", "399000521_20": "「真実ごと封印って……聞こえはいいけど、\\n 要するに、後世を騙すことを選んだってことよね?」", "399000521_21": "「大きな力を前に、仮にそれしかなかったとしても……\\n 王様のクセに、やってることはあーしと変わらないじゃない」", "399000521_22": "「綺麗に騙って、事実を覆い隠して。\\n トンデモな力をなかったことにしたわけでしょう?」", "399000521_23": "「……でも、少なくともその嘘のせいで、\\n 今日まではドラウプニルが悪用されなかったのかしらね」", "399000521_24": "「神話にすら残せないほどの力……か」", "399000521_25": "「え、ええーっと……?」", "399000521_26": "「複製……ってことは、偽物を作れる聖遺物なんですよね?\\n そんなに危ない物なんですか?」", "399000521_27": "「『偽物』ではないのさ、ドラウプニルが生み出すのは。\\n それは本物と寸分違わぬもう1つの本物、神の作りし複製品だ」", "399000521_28": "「もう1つの本物……ッ!", "399000521_29": " なら、ちゃんと動くガングニールも作れたりするんですか?」", "399000521_30": "「この男の話を信じるなら、そんな程度で済む話ではない。\\n シンフォギアを纏う立花響という存在ごと複製が可能だな」", "399000521_31": "「わ、わたしのコピーッ!?\\n クローン……? とかそういうことですかッ!?」", "399000521_32": "「その領域なら、科学でも錬金術でも手が届くわよ。\\n もっともっと先の話でしょうね」", "399000521_33": "「別に難しい話ではないさ、言葉通りなんだ。\\n 全てを複製することができるんだよ、望むのなら、世界すら」", "399000521_34": "「世界の複製――ッ!?」", "399000521_35": "「新たな並行世界すら生み出すとッ!?」", "399000521_36": "「錬金術師として言わせてもらえば、\\n 仮に可能だとしても、この世界のエネルギーを使い切るはずよ」", "399000521_37": "「実現できるのさ、理不尽に思えても。\\n それが機能だからね、ドラウプニルという聖遺物の」", "399000521_38": "「そんなことありえない……って笑い飛ばせたら楽なんだけど、\\n 局長のニヤケ面がいつになく本気なのよね~」", "399000521_39": "「だとすれば……誰もドラウプニルを起動しなかったのも頷ける。\\n 善性を持つ人間ならば、忌避し、封ずるだろう力だ」", "399000521_40": "「逆に言うならば、悪しき人間が持てば……\\n ドラウプニルの力を真に理解したとき、とんでもない事態になるぞ」", "399000521_41": "「……例え悪人じゃなくても、普通の人間なら、\\n 大きな力の前には揺らぐものよ」", "399000521_42": "「あーしだって、サンジェルマンに会う前にぽんと渡されてたら、\\n きっとよからぬことだって考えちゃうわ」", "399000521_43": "「この賭け下手な王様は、\\n 本当にとんでもない負け方をしてくれたわね……」", "399000521_44": "「ともあれ……復活したわけではないようだ、\\n 知恵の王であり、僕の友人である、ソロモン本人は」", "399000521_45": "「オレたちがまみえたあの男がソロモン王の複製……\\n というわけでも、恐らくはないだろうな」", "399000521_46": "「なにせ、ノイズと暴力で人を治めようとする暗君だ」", "399000521_47": "「でもあーしたちの出くわした王様気取りは、\\n 自分のことをソロモンって名乗ってたのよね」", "399000521_48": "「このタイミング……この状況。\\n 無関係ってことはなさそうだけど……」", "399000521_49": "「さてなんだろうね、その理由は。\\n ソロモンの姿だけ複製したのか、聖遺物の力すら知らぬままに」", "399000521_50": "「目撃者2人が物言わぬ語り部では、想像するにしても情報が足りん。\\n ……ただ、1つだけ明確な事実がある」", "399000521_51": "「最初にオレたちの遭遇した異質なノイズ。\\n 奴は自分自身を複製するように増殖していたな」", "399000521_52": "「――ッ!\\n ドラウプニルの力が、既に使われている……ッ!?」", "399000521_53": "「ああ。あれは恐らく試し運転……あの愚王が\\n ドラウプニルを理解したならば……とんでもないことになるぞッ!」", "399000521_54": "「ソロモンの杖だけじゃない、\\n ドラウプニルもなんとかしないと……ッ!」", "399000521_55": "「――ッ!?\\n ノイズが、ここにもッ!?」", "399000521_56": "「これも偶然か?\\n それともこいつらにも、王たる資格があるとでもッ!?」", "399000521_57": "「んなわけないでしょッ! \\n どうせあの王様気取りの仕業よ、マナーがなってないったらッ!」", "399000521_58": "「倒しましょうッ!\\n 亡くなった人の眠る場所を、荒らさせたりしないッ!」", "399000521_59": "「Balwisyall nescell gungnir t――」", "399000521_60": "「えッ!?」", "399000521_61": "「ここは任せてもらおう、この僕に」", "399000521_62": "「ただの『人間』だけなんだよ、友人の墓を暴けるのは。\\n 安眠を妨げられる前に退場願おう、見苦しい雑音にはね」", "399000521_63": "「お前1人でやるつもりか?」", "399000521_64": "「許すつもりはないからね。\\n この空間を一片でも汚すことも、分解することも」", "399000521_65": "「偶然に現れたはずがないだろう? これだけのノイズが。\\n 相手にとっても最大の鍵なんだからね、彼の墓は」", "399000521_66": "「ソロモンを名乗る何者かも勘づいたはずだ、\\n 僕らが敵の正体に迫っていることに」", "399000521_67": "「このノイズはオレたちへの足止めか……。\\n いや、この場所だけと考えるのは楽観的だな」", "399000521_68": "「この場所を特定されないために通信は切ってるけど、\\n また世界のあっちこっちにノイズが出てそうよね」", "399000521_69": "「ああ。でも足を止めている余裕はないんだ、\\n 人々を護るためには」", "399000521_70": "「だからキミたちには、任務を続けてもらう。\\n ソロモンの杖、ドラウプニル――そして2人の捜索を」", "399000521_71": "「でもこのノイズを倒さないと、\\n ここから出ることもッ!」", "399000521_72": "「心配はいらないよ、用意してある」", "399000521_73": "「これならチフォージュ・シャトーの反応を追尾して転送できる、\\n 僕の特製だからね」", "399000521_74": "「用意のいいことだ。\\n ……ここは任せていいんだな?」", "399000521_75": "「僕は今まで通りこの世界を護るさ。\\n 目の届く範囲でね」", "399000521_76": "「だからキミたちに頼もうじゃないか。\\n 同じ時代に生きる隣人……或いは、友人たちのことを」", "399000521_77": "「――はいッ! 必ずッ!」", "399000521_78": "「さて、失敗はできないね。\\n ここまで見栄を張った以上は」", "399000521_79": "「さあ、証明するといい。\\n キミたちが人を殺すための、人を殺せる兵器なのだと」", "399000521_80": "「この錬金術師協会統制局長、アダム・ヴァイスハウプトが\\n 手ずからテストしてあげよう――」", "399000521_81": "「キミたちの存在を対価にッ!」" }