{ "399000511_0": "古き人、王の墓所にて", "399000511_1": "「さて、着いたよ。\\n 僕らの目的地に」", "399000511_2": "「ここにソロモンさんのお墓が……?」", "399000511_3": "「こんなところに?", "399000511_4": " 秘境でも隠れ里でもなんでもないわよ?」", "399000511_5": "「ちょっとオシャレな、\\n 人気のない浜辺ってだけ――」", "399000511_6": "「いえ、でも……、\\n だからこそ、ここなのかしら?」", "399000511_7": "「大げさに隠せば、必ず暴く者が出る。\\n あえて特別ではない場所を選んだか」 ", "399000511_8": "「もちろん、秘匿術式は施しているよ、必要な分はね。\\n 今も術式は完璧なままだ、数百年前に墓参りに来た時と同じく」", "399000511_9": "「数百年前……?\\n 友人なんでしょ? もう少しマメに来てあげなさいよ」", "399000511_10": "「か、過去の想い出が\\n 数百年単位なんですね……」", "399000511_11": "「焼却できる想い出が有り余っていて、\\n 羨ましい限りだ」", "399000511_12": "「キャロルちゃん、どれだけ長生きしてたって、\\n 失っていい想い出なんてないよッ!」", "399000511_13": "「……そうだな。\\n 知っている」", "399000511_14": "「さあ、行ってみようか、彼の眠る場所に。\\n もう少しだけ、目を瞑っていてもらうよ」", "399000511_15": "「ここは……。なんだか、不思議な雰囲気。", "399000511_16": " とっても綺麗なところですね」", "399000511_17": "「汚れなく静謐。錬金術の視点でも一欠片の歪みもない。\\n まるで聖域みたいだわ」", "399000511_18": "「奥にあるのは棺だな。\\n あそこにソロモンが眠っているわけか」", "399000511_19": "「――ッ!?\\n いや、待てッ! あそこにあるのは……」", "399000511_20": "「――ッ!?\\n まさか……人の遺体ッ!」", "399000511_21": "「……白骨化が進んでる。亡くなってしばらく経ってるみたいね。\\n この感じ……見たところ盗掘者かしら?」", "399000511_22": "「そんな……だ、だって、侵入者避けに\\n アダムさんの特別な錬金術がかかっていたんじゃ?」", "399000511_23": "「…………」", "399000511_24": "「それが作用しなかったことは、この遺骸が物語っているだろう。\\n ……杖の方はどうなっている?」", "399000511_25": "「なくなっているよ、残念なことに」", "399000511_26": "「……最悪と言っていいね、想定した中では。\\n もう1つ、なくなっているものがあるんだ」", "399000511_27": "「まさか、ソロモンの遺骸まで消えているとでも?\\n ……まさか、あのふざけた愚王は本人なのか……?」", "399000511_28": "「いいや。ちゃんと残っているよ、彼の遺骸は。\\n でもなくなっているんだ。ソロモンの杖と、もう1つ……」", "399000511_29": "「ソロモンの遺産は、\\n やはり奪われていたということか……ッ!」", "399000511_30": "「盗掘者がここまでたどり着いたけど、\\n いざピカピカなお宝を見つけて仲間割れ……とか?」", "399000511_31": "「けど、その子が言った通り局長の術式を破って侵入した。\\n なら、盗掘者は錬金術師……かしら?」", "399000511_32": "「はぁ。\\n まったく、うちの組織ってば、どうなってるのかしら」", "399000511_33": "「いいや。盗掘者は錬金術師ではない、\\n ただの一般人だよ」", "399000511_34": "「……一般人? ただの人間が、\\n お前の秘匿術式を破ったと?」", "399000511_35": "「破る必要はないのさ、\\n そのように作ったんだ」", "399000511_36": "「どういうことですか?\\n アダムさんの術は、侵入者避けだったんじゃ……?」", "399000511_37": "「錬金術師――ソロモンは僕らを魔術師と呼んだけれど……", "399000511_38": " 力ある聖遺物を求めるには理由がありすぎるだろう? 僕らには」", "399000511_39": "「それはまぁ、そうね」", "399000511_40": "「だから術式を調整したんだ。\\n そういった者たちの手が届かないようにね」", "399000511_41": "「対錬金術師に特化した秘匿術式ってことッ!?", "399000511_42": " ……だから、あーしたちには見つけられなかったわけね」", "399000511_43": "「だとしても、なぜただの人間に突破できる?」", "399000511_44": "「『力なき人間』がいくつかの偶然を軌跡として必然を成した時、\\n 意味を成さなくなるのさ、この秘匿術式は」", "399000511_45": "「力を持たない人間が、無欲に、偶然にこの場所へたどり着き、\\n ソロモンの遺産を手にしたのなら」", "399000511_46": "「その人間こそが運命を組み敷く王の資質を持つ者だ――。", "399000511_47": " 彼はそう言っていたよ」", "399000511_48": "「ちょっ……と、待ってくれる?」", "399000511_49": "「偶然、たまたま、幸運にも、\\n 奇跡的にここまでたどり着いた一般人がいたら……」", "399000511_50": "「そいつに王様の資格があるって、\\n 自分と共に眠らせた力を、そのまま預けちゃう気だったのッ!?」", "399000511_51": "「そうだ」", "399000511_52": "「それが望みだったからね、彼が最後に抱いた。\\n 後の世界に託したかったのさ、自分が使った力を」", "399000511_53": "「そんなのリスクとリターンが釣り合ってないわよッ!\\n 賭けるにしても、下手すぎるでしょうッ!?」", "399000511_54": "「しかも、ソロモンの杖は悪意ある者の手に渡っている。\\n 見事に賭けに負けているようだな」", "399000511_55": "「同感だね、賭け事が下手だという点には。\\n 言ったじゃないか、野心的なのが欠点だったと」", "399000511_56": "「どうしてこう権力者というのは、\\n 晩節を汚したがるんだ……」", "399000511_57": "「だけど、こうとも言っていたよ。未来に賭けてみたいのだと。\\n いつまでも終わらない人と人の争いが終わることを、ね」", "399000511_58": "「……」", "399000511_59": "「しかし……\\n 厄介なのはソロモンの杖を持ち去られたことだけではない」", "399000511_60": "「ソロモンの杖と共に\\n 彼の遺産だった『腕輪』も持ち去られているんだ」", "399000511_61": "「腕輪……?\\n ソロモンの杖よりも危ないものなんですか?」", "399000511_62": "「ああ、その腕輪もまた完全聖遺物さ。\\n キミたちの流儀で言えば――」", "399000511_63": "「『ドラウプニル』。\\n ――そう呼ぶべき、ね」" }