{ "391000521_0": "「届け――ッ!!」", "391000521_1": "「うーんんん……駄目かぁ。\\n お姉ちゃんの伸びる剣なら、届くと思ったのになぁ……」", "391000521_2": "「ノセられて試してみたけど、\\n 向こう岸すらも見えない状況では、無謀が過ぎたわね」", "391000521_3": "(できる限り調査はしてみたけど、\\n この世界から脱出する方法は見つけられなかった……)", "391000521_4": "(可能性が残っているとしたら、この崖の向こう側だけ。", "391000521_5": " でも、果てすら見えない崖を、どうやって越えれば……)", "391000521_6": "「ねえ、マリアお姉ちゃん。\\n その剣、もっと伸びないの?」", "391000521_7": "「そうだ、両側から引っ張ってみようよッ!\\n ひょっとしたら、ゴムみたいに伸びるかもッ!」", "391000521_8": "「ちょっと無茶しないでッ!?\\n この銀腕にもできないことはあるのよッ!?」", "391000521_9": "「駄目かー、ちぇー」", "391000521_10": "「まったくもう……", "391000521_11": " 一旦、休憩にしましょ」", "391000521_12": "「ねえギン、\\n さっきはどうしてあんなことを言ったの?」", "391000521_13": "「あんなこと……?\\n もしかして、『望み』の話のこと?」", "391000521_14": "「ええ。\\n あの話で、あの子が少し思い悩んでいるみたいなの」", "391000521_15": "「ぼく、困らせちゃったんだね……。\\n ごめんなさい」", "391000521_16": "「責めてるわけじゃないから、謝る必要はないわ」", "391000521_17": "「困ったり、思い悩むことだって、\\n 悪いことじゃないのだから」", "391000521_18": "「そうなの?」", "391000521_19": "「だって悩むということは、\\n 自分自身と向き合い、前に進むことでしょう?」", "391000521_20": "「……うーん。\\n なんだか、難しいね」", "391000521_21": "「そうかもしれないわ。けれど、そうやって考えることで、\\n ギンの中にはいくつも可能性が生まれていく」", "391000521_22": "「可能性?」", "391000521_23": "「ええ。\\n 自分がどうしたいか、どうなりたいか……」", "391000521_24": "「さっき、わたしたちに訊いたことも……\\n ギンだったら、どうするか考えてみたらどうかしら?」", "391000521_25": "「自分のやりたいことと、\\n 誰かのやりたいことが、ぶつかっちゃったらどうする?」", "391000521_26": "「ぼくだったら……?\\n うーん、ぼくだったら……どうするかなあ……」", "391000521_27": "「うーん……」", "391000521_28": "「あのね、\\n わたしは、こんな風に思うの――」", "391000521_29": "「大切なのは、\\n 自分が望んだことを、貫くことなんじゃないかって」", "391000521_30": "「……貫く、こと?」", "391000521_31": "「わたしの取った行動は、\\n 他の誰かにとっては、身勝手と映るかもしれない」", "391000521_32": "「もしかしたら、非道と\\n 思われることだってあるかもしれないわ」", "391000521_33": "「それでもわたしは、\\n 自分が望んだことに――嘘を吐きたくない」", "391000521_34": "「信じたことを、\\n 自分自身の望みを貫くことを、決して厭わないわ」", "391000521_35": "「もしも、その過程で誰かとぶつかって、\\n 折られてしまったのなら、それはわたしの負け」", "391000521_36": "「だけど、望んだことを、貫き続けること。\\n そこには、勝ち負け以上の意味があると思うの」", "391000521_37": "「無論、大人しく負けるつもりなんて、\\n さらさらないけれど、ね」", "391000521_38": "「望んだことを、貫く……。\\n そうすること自体に、意味がある……」", "391000521_39": "「ええ、わたしはそう思っているの。\\n 自分にとって大切な望みであるなら、尚更ね」", "391000521_40": "「だから、迷って、悩んで、考えて……\\n 自分の望みを見つけるって、とても大事なこと」", "391000521_41": "「なんだか、考えごとを見つけるために\\n 悩んじゃいそうだよ……」", "391000521_42": "「でも……ぼくも、\\n そんなふうに真っ直ぐ追いかけられる『望み』は……」", "391000521_43": "「ちょっと、ほしいかな」", "391000521_44": "「フフ。望みを見つけるためには、\\n 世界を知ることも必要だと思うわ」", "391000521_45": "「いろんな人がいるのだもの。\\n 今わたしが語ったのと真逆のことを言う人だって、きっといるわ」", "391000521_46": "「世界を知り、他人を知ると……\\n 不思議とね、自分を知ることにも繋がっていくの」", "391000521_47": "「わたしはそれを、本当に……\\n いろんな人から学んできたわ」", "391000521_48": "「……」", "391000521_49": "「難しいことかもしれないけど、\\n きっと、いつかあなたにもわかるときが来るはずよ」", "391000521_50": "「そうなのかな。", "391000521_51": " ……そうだといいな」", "391000521_52": "「そのためにも、\\n まずはこのおかしな世界から脱出しないとね」", "391000521_53": "「わたしも、あなたも、まだまだ先の人生は長いんだから。\\n こんなところで、立ち止まってなんていられないわ」", "391000521_54": "「うんッ! ここから脱出する……\\n それが今の、ぼくたちの『望み』だねッ!」", "391000521_55": "「やっぱり、\\n マリアお姉ちゃんはすごいねッ!」", "391000521_56": "「あら、そうかしら?」", "391000521_57": "「そうだよ。\\n ありのままでいるのに、すっごく強くてさッ!」", "391000521_58": "「……ありがとう。\\n ギンがわたしを、そう見てくれるのは――」", "391000521_59": "「わたしが、今までに出会ってきた、\\n たくさんの人から、強さを学んできたからに違いないわ」", "391000521_60": "(わたしは、本当に多くの人に触れて、\\n その度に、自分の弱さを、知ってきた……)", "391000521_61": "(自分が強いだなんて、とても思えはしないけれど。\\n わたしは、自分の弱さなら、誰よりも知っている)", "391000521_62": "(わたしは、わたしの弱さを認めて、力を振るう。\\n わたしの望みを、貫くために……ッ!)", "391000521_63": "「――そっか。\\n それが、マリアお姉ちゃんの『強さ』なんだ」", "391000521_64": "「だったら、マリアお姉ちゃんは、\\n これから、もっともっと強くなれるね」", "391000521_65": "「ええ、もちろん――」", "391000521_66": "「なッ!?」", "391000521_67": "「イシムの眷属ッ!?\\n イシム亡き今、どうしてッ!?」", "391000521_68": "(いいえ、\\n 考えている場合じゃないッ!)", "391000521_69": "「ギン、下がっていてッ!\\n ここは、わたしだけで、ケリをつけるッ!」" }