{ "390000221_0": "「こちらからも、同様の連絡が届いていますッ!」", "390000221_1": "「わかったわ。\\n すぐ解析に回してちょうだいッ!」", "390000221_2": "「これはまた……。\\n いつも以上にバタバタしていますわね」", "390000221_3": "「……この騒ぎはいつからのことだ?」", "390000221_4": "「ざっとここ1週間ってとこだな。\\n お察しの通り、さっきの奴らに起因してる」", "390000221_5": "「もう到着していたか。奏から連絡は受けていたんだが……", "390000221_6": " すまないな、立て込んでいる」", "390000221_7": "「そちらも遊びに来たわけではなさそうだが、\\n 生憎別件に割く余裕は――」", "390000221_8": "「いや、その必要はない」", "390000221_9": "「むしろ、\\n 今起きている事件のあらましを共有してほしいところだ」", "390000221_10": "「……どういうこと?」", "390000221_11": "「……」", "390000221_12": "「お前たちが今抱えている問題には、\\n 十中八九錬金術師協会にも関わりがある」", "390000221_13": "「……なるほど。\\n つまり貴方たちはその事案について、協力を得るために?」", "390000221_14": "「概ね、そんなところだ。\\n 目的は被害を出さないこと。利害は一致していると思うが」", "390000221_15": "「ふむ……。\\n それは、錬金術師協会の総意と認識して構わないか?」", "390000221_16": "「ああ、オレたちは任務としてここにいる。\\n 正式に二課の助力を乞わせてもらおう」", "390000221_17": "「乞わせてもらう……って割には、\\n 相変わらず尊大な態度だよ、まったく」", "390000221_18": "「フ……よし、わかった。\\n それであれば、情報を共有させてもらおう」", "390000221_19": "「ここ最近、インフルエンサーをはじめとする、ちょっとした\\n 有名人が『ゾンビ』となって人を襲う事件が起こっている」", "390000221_20": "「まさに先ほどの光景がそれだな」", "390000221_21": "「ああ。そして便宜上『ゾンビ』と呼称してこそいるが、\\n 彼らは屍ではない」", "390000221_22": "「現象、あるいは症状として腐敗、仮死状態にあるヒトが、\\n 正常なヒトを襲っているのだ」", "390000221_23": "「そして彼らゾンビの中から、ほんの微弱ではあるが、\\n 聖遺物の反応が確認されている」", "390000221_24": "「対象からはもれなく、ね」", "390000221_25": "「現象が現象だったからな。我々としては\\n よくある『ゾンビもの』からも理由を探ろうとしたのだが……」", "390000221_26": "「ヒトを襲いはするが、噛み付くわけでも\\n 食らおうとするわけでもない。目的がわからない」", "390000221_27": "「……だろうな」", "390000221_28": "「あらら。\\n マスター、心底面倒くさそうな顔してますねぇ」", "390000221_29": "「……元はと言えばこちらの不始末だ」", "390000221_30": "「こちらの持っている情報を開示させてもらおう。\\n オレたちが追っているのは大きく2つ」", "390000221_31": "「『不良品のエリクサー』と\\n 『それを作ったはぐれ錬金術師たち』だ」", "390000221_32": "「そしてこの不良品こそが、ゾンビ化の原因となる」", "390000221_33": "「エリクサーの不良品だと……ッ!?\\n それは……」", "390000221_34": "「エリクサーとは言っても、賢者の石とは別物だと思ってくれ。\\n 聖遺物を材料に研究されていた代物だと聞いている」", "390000221_35": "「だがエリクサーを作成する過程で、聖遺物の能力自体は\\n 分解、再構築を経て大幅に弱体化している」", "390000221_36": "「おそらく、ゾンビどもがヒトを襲うが殺さないのも、\\n 聖遺物の影響が限りなく薄いことによるものだろうな」", "390000221_37": "「なるほど、不幸中の幸いね……。\\n なんの聖遺物が使われたかはわかっていないの?」", "390000221_38": "「残念ながらな」", "390000221_39": "「これはオレの見立てだが、\\n 聖遺物が何であるかはさしたる問題ではない」", "390000221_40": "「エリクサーの錬成の過程で失敗した結果、\\n 黒化の要素――腐敗が強く顕現したのだろう」", "390000221_41": "「対応にあたったのであればもう気付いているかもしれないが、\\n あのゾンビには『ゾンビである』以上の特性はない」", "390000221_42": "「いやいや、ゾンビであるってデカいからな?\\n 元に戻す方法はないのか?」", "390000221_43": "「……現状はな。", "390000221_44": " だがそれを探すのは簡単ではない」", "390000221_45": "「だからまずは原因となっている\\n エリクサーを回収する――ってわけね」", "390000221_46": "「なるほどな。現状はわかったが、\\n 影響の除去方法がわからない……といったところか」", "390000221_47": "「それを作って流布している錬金術師については、\\n 何か情報を掴んでいるのか?」", "390000221_48": "「…………」", "390000221_49": "「ど、どうしたんだよッ!?\\n まさか、とんでもない規模の集団なんじゃ――」", "390000221_50": "「あー、違うんですよぉ。\\n 悪ふざけみたいな内容なんで、話したくないんです」", "390000221_51": "「ですよね、マスター?」", "390000221_52": "「ぐ……ッ!」", "390000221_53": "「そ、その錬金術師たちは……『イル美ナティ』と名乗って、\\n この日本でアマチュア芸能活動をしているそうだ……ッ」", "390000221_54": "「…………」", "390000221_55": "「……概ね、錬金術師であることを\\n 隠すための隠れ蓑だとオレは見ている……」", "390000221_56": "「意外とただの趣味だったりして」", "390000221_57": "「それはなんとも、気の抜ける話だな……」", "390000221_58": "「いや、待ってくれよダンナ。\\n 『イル美ナティ』って、確か、アイドルグループの……」", "390000221_59": "「何事だッ!」", "390000221_60": "「新たにゾンビの反応が検知されましたッ!」", "390000221_61": "「ゾンビだけに続々出てきますねー」", "390000221_62": "「街を覆い尽くすような群れではないだけ、\\n 地味に救いだな」", "390000221_63": "「奏ッ!」", "390000221_64": "「ああ、いつでも出られるッ!」", "390000221_65": "「元はと言えば、錬金術師協会の失態だ。\\n オレたちも出よう」", "390000221_66": "「感謝する。\\n 現場の収拾が付き次第、こちらに帰投してもらえるか?」", "390000221_67": "「了解だ」", "390000221_68": "「なーなー、引っ掻かれても感染るのカ?」", "390000221_69": "「それもないみたいよ。ただ、さっきも言ったように\\n インフルエンサーの間で流行っているみたいで……」", "390000221_70": "「インフルエンザの語源とはいえ、\\n そんな風邪みたいに言われても」", "390000221_71": "「無駄口はいい、行くぞッ!」", "390000221_72": "「ええ。\\n どこまでもお供致しますわ、マスター」" }