{ "377000321_0": "「舞台に上がる者にとって大切なのは、立ち方と所作の美しさだ」", "377000321_1": "「無為に立つのではなく、丹田を常に意識し肩甲骨を引き締めろ。\\n 背中を丸めるなッ! アゴを引けッ!」", "377000321_2": "「……こ、こうか?」", "377000321_3": "「動作も漫然と行うのではなく、動き出して止めるまで、\\n すべてを己の管理下に置けッ! カクカクするなッ!」", "377000321_4": "「む、難しい……」", "377000321_5": "「歩く際、母指球にばかり頼るなッ! \\n 踵を強く踏み、体幹を活かせッ!!」", "377000321_6": "「それが自然で美しい歩行を生み出す。さあ、やってみろッ!\\n 1、2、3、4……」", "377000321_7": "「1、2、3、4……」", "377000321_8": "「よし。レッスン場の端から端まで、\\n 今の歩き方で50往復だッ!」", "377000321_9": "「マジかよ……」", "377000321_10": "「いい? ターンの基本は、キックとクロスの2種類よ。\\n 遠心力に振り回されないで。脚をプラプラ振らないッ!」", "377000321_11": "「急にこんなのできるかよッ!」", "377000321_12": "「宇宙一のアイドルの影武者なんでしょう?\\n ダンスにも高いクオリティが求められるのは当然よ」", "377000321_13": "「さぁ、泣き言はいいから次はキックターンよ。\\n 大きく回るから、腰をツイストさせて可動域を常に意識なさい」", "377000321_14": "「だから、いきなり高度すぎるっつーの。\\n こうか?」", "377000321_15": "「大丈夫、できてるわよッ!」", "377000321_16": "「その調子で、ブレを減らしていきましょう。\\n それぞれのターンをまずは100回ずつね」", "377000321_17": "「正気かよ……」", "377000321_18": "「ちっがぁーうッ! 可愛くないッ!\\n 笑うのッ! どうして睨みつけるのよッ!」", "377000321_19": "「もっとこうキャピッて、きゃるぅ~んって。\\n はい、やってッ!」", "377000321_20": "「それで分かるかよッ!", "377000321_21": " ……こ、こうか?」", "377000321_22": "「それじゃ企んでる顔でしょ?\\n 頬をピクピクさせないッ!」", "377000321_23": "「……こう?」", "377000321_24": "「今度は目じりが吊り上がってるッ!\\n 怒ってるようにしか見えないじゃないッ!」", "377000321_25": "「いや、怒ってる訳じゃ……これならどうだ?」", "377000321_26": "「それじゃ変顔ッ!!\\n どうして同じ顔なのにそうなるのよッ!」", "377000321_27": "「知るかッ!\\n もっと的確にアドバイスしてくれよッ!」", "377000321_28": "「その認識を改めなさいッ! アンタはファンの前では\\n クリスティーナッ! 宇宙一可愛いクリスティーナよッ!」", "377000321_29": "「まずは楽しませてあげたいって気持ちになってよッ!」", "377000321_30": "「そんなんッ!\\n ……いや、それはその通りだよな」", "377000321_31": "「やっていますねぇ。結構結構ッ!!\\n 陣中見舞いに来ましたよ。少し休憩にしては?」", "377000321_32": "「あら、いつの間にかこんなに時間が経っていたのね」", "377000321_33": "「……なら、ちょっと外の空気吸って来る」", "377000321_34": "「差し入れまで……。ありがとうございます。\\n その後、カルマノイズについては?」", "377000321_35": "「今のところ、新たな動きはないようですねぇ。\\n 替え玉作戦のレッスンには持ってこいですッ!」", "377000321_36": "「確かに雪音のパフォーマンスは向上していますが、わたしたちの\\n 本来の目的は、いつになったら達成できるのか……」", "377000321_37": "『トゥルルルルル……』", "377000321_38": "「おっと、少々失礼。\\n オメガタクトからの連絡です」", "377000321_39": "「…………」", "377000321_40": "「ええ、はい……。その点は……。\\n 問題ありません。聖遺物は……」", "377000321_41": "「……ッ!」", "377000321_42": "「……カルマノイズについては……。はい、はい。\\n また後ほど報告に伺います」", "377000321_43": "(わたしたち、聖遺物のことまで話したかしら……?\\n 彼がもし『一般人』なら、そんなこと知らないはず)", "377000321_44": "(頭から信じる訳には、いかないようね)", "377000321_45": "翌日――", "377000321_46": "「あーあ。ったくッ!!\\n 姿勢とかダンスはまだいいけど、なんだよあの表情訓練って」", "377000321_47": "「あたしが『宇宙一可愛いクリスティーナ』だ?\\n さすがに無理があるだろッ!」", "377000321_48": "「宇宙一可愛い、クリスティーナ…………?」", "377000321_49": "「あん? ……ゲッ!!」", "377000321_50": "(ライブ会場の最前列で、やたら叫んでたヤツ?\\n もしかしなくても、クリスティーナのファンかッ!)", "377000321_51": "「クリスティーナだ……。\\n 本物が、俺たちの目前に御降臨されている……ッ!!」", "377000321_52": "「あ、あのあのあのッ! ファンですッ!!\\n この前のライブのオープニングアクト、すごかったですッ!」", "377000321_53": "「アハハ、ありがとー……」", "377000321_54": "(そりゃ同じ顔だから、変装もせずウロウロしてたら\\n こうなるよなぁ……。うかつだった)", "377000321_55": "「あッ! プライベートですよね。すみません……。\\n でも、あの、もしよかったらでいいんですけど」", "377000321_56": "「いつものコールッ! お願いしてもいいですかッ!?」", "377000321_57": "「え、えーと……」", "377000321_58": "(いつものコールってなんだよッ!\\n 知らねぇってッ!!)", "377000321_59": "「~~ッ!!」", "377000321_60": "(――カルマノイズッ!)", "377000321_61": "「へッ!?\\n うあああああッ! 怪物だッ!!」", "377000321_62": "「ヤバいッ! 早く逃げないとッ!!\\n ク、クリスティーナもッ!」", "377000321_63": "「うんッ!\\n あたしは大丈夫だから、急いでッ!」", "377000321_64": "(よーし、あとはこいつらと逆方向に走って……)", "377000321_65": "「こちとらストレスも溜まってるんだッ!\\n 覚悟してかかってきやがれッ!」" }