{ "362000121_0": "「――結局、お前たちに\\n 預かってもらうことになり、申し訳ない」", "362000121_1": "「我々も総力を尽くしたのですが、\\n どうやっても逃げ出してしまいまして……」", "362000121_2": "「いえいえ、むしろ家が賑やかになって楽しいですよッ!」", "362000121_3": "「はい、最近はわたしたちにも\\n 少しずつ懐いてくれてるみたいですし――」", "362000121_4": "「お、噂をすればッ!\\n また連絡しますねッ!」", "362000121_5": "「帰還である」", "362000121_6": "「こーら、泥だらけでお家に上がらない」", "362000121_7": "「また公園でどんぐりの――」", "362000121_8": "「ユグドラシル」", "362000121_9": "「ユグドラシルの様子を見に行ってたの?」", "362000121_10": "「ついでにその価値すらわからぬ\\n 無垢な人の子らと、戯れを興じてやった」", "362000121_11": "「よーし、いっぱい遊んだちびシェム・ハちゃんは\\n お姉さんとお風呂入ろっかッ!」", "362000121_12": "「しぇむッ!?」", "362000121_13": "「じゃあ、わたしも入っちゃおうかな」", "362000121_14": "「ま、待て、離せ――」", "362000121_15": "「いざ出撃ーッ!!」", "362000121_16": "「遺憾であるーッ!」", "362000121_17": "――3日後――", "362000121_18": "「――たっだいまーッ!!\\n ふぅ、今日の訓練はキツかったーッ!」", "362000121_19": "「あれ? ちびシェム・ハちゃんは?」", "362000121_20": "「それが……」", "362000121_21": "「え、まだ帰ってきてないの?」", "362000121_22": "「うん、朝出かけたっきり……」", "362000121_23": "「そっか、ちょっと心配だね。\\n 今から探しに行こうか?」", "362000121_24": "「うん、万が一ってこともあるだろうし」", "362000121_25": "「おーいッ!\\n ちびシェム・ハちゃーんッ!!」", "362000121_26": "「出ておいでーッ!\\n 一緒に月見うどん食べよーッ!」", "362000121_27": "「…………」", "362000121_28": "「あ、いたッ!」", "362000121_29": "「もうッ!\\n こんな遅くまで何してたのッ!」", "362000121_30": "「ユグドラシルが……」", "362000121_31": "「……ッ! ここって、ちびシェム・ハちゃんが、\\n どんぐりを埋めてたところだよね……?」", "362000121_32": "「ひどい……掘り返されてる……ッ!」", "362000121_33": "「希望は潰えた。\\n もう、何もかも終わりだ」", "362000121_34": "「…………」", "362000121_35": "「…………」", "362000121_36": "「ううん、そんなことないよ」", "362000121_37": "「……なにゆえ?」", "362000121_38": "「また1から、育てればいいんだよ」", "362000121_39": "「何度くじけても、折れなければいつか必ず芽吹くから。\\n そのどんぐり……ユグドラシルだって」", "362000121_40": "「うん、わたしたちも一緒にどんぐり探すから。\\n そうしたらまた植えようよ」", "362000121_41": "「…………」", "362000121_42": "「見て見てッ!\\n こんなに集まったよッ!」", "362000121_43": "「1人で駄目でも、3人なら心強いでしょ?」", "362000121_44": "「……愚かな」", "362000121_45": "「え?」", "362000121_46": "「知れたこと。\\n 3人ではない、我にはまだ駒がある」", "362000121_47": "「おぉ……、おもちゃのロボットに」", "362000121_48": "「こうもりのミニチュアと、\\n ぬいぐるみの子犬……?」", "362000121_49": "「傾聴せよ、怪物ども。\\n これより使命を授ける」", "362000121_50": "「我が悲願、ユグドラシルを守護せよッ!」", "362000121_51": "「このおもちゃ、怪物なの?」", "362000121_52": "「それにしては丸くて小さくて、可愛いよね。", "362000121_53": " ――って、動き出したッ!」", "362000121_54": "「フフ、3つとも鳥の雛みたいによちよち歩きしてる」", "362000121_55": "「ふ……」", "362000121_56": "「……幻聴である」", "362000121_57": "「そろそろ帰ろっか」", "362000121_58": "「ほら、手繋ご?」", "362000121_59": "「うん、3人で」", "362000121_60": "「…………」", "362000121_61": "「あ、やっぱり嫌だった?」", "362000121_62": "「……構わん。好きにするがいい」", "362000121_63": "「フフ、並んで手を繋いでると、\\n 子供のいる夫婦みたいだね」", "362000121_64": "「なななな、何言ってるの響ッ!?」", "362000121_65": "「未来はいいお母さんになりそうだな~」", "362000121_66": "「もう、変な話しないでッ!\\n ……お、お父さんッ!」", "362000121_67": "「アハハハ、ごめんごめん。楽しくて」", "362000121_68": "「愚鈍である。早く歩みを進めよ」", "362000121_69": "「もはや一刻の猶予もない。\\n 早急にバラルの呪詛を破壊する」", "362000121_70": "「はいはい、月見うどんね」", "362000121_71": "――翌日――", "362000121_72": "「ん……ふあぁ~。お昼まで寝ちゃった……。\\n でも昨日は遅かったしなあ……」", "362000121_73": "「……あれ?\\n 未来はもう起きてるんだ――」", "362000121_74": "「きゃあああッ!?」", "362000121_75": "「み、未来ッ! どうしたのッ!?」", "362000121_76": "「う……ぐ……ッ!」", "362000121_77": "「こんなに全身泥だらけに汚れて……、\\n もしかしてどこか怪我してない? 見せて」", "362000121_78": "「不要であるッ!」", "362000121_79": "「え、何? どういうこと? 何があったのッ!?」", "362000121_80": "「わからないよ。この子が帰ってきたと思ったら、\\n こんな風にくしゃくしゃになってて……」", "362000121_81": "「忌々しい……」", "362000121_82": "「あ……」", "362000121_83": "「おもちゃたちも、ドロドロに汚れて……」", "362000121_84": "「我に歯向かう、鈍付くが……」", "362000121_85": "「あッ、ちょっと待ってッ!\\n まだ話が……」", "362000121_86": "「行っちゃったね……。\\n 誰かとケンカでもしたのかな?」", "362000121_87": "「子供同士のケンカにしては、激しすぎな気もするけど……」", "362000121_88": "「それじゃ、誰かに狙われてたりするのかな?」", "362000121_89": "「わからない。だけど、もしそうだったとしたら……、", "362000121_90": " わたしたちが護ってあげないとッ!」", "362000121_91": "「うんッ! あの子はもう、わたしたちの家族だもんねッ!」" }