{ "362000111_0": "シェムシェム★パニック", "362000111_1": "「もしもし、未来? 今スーパーの前なんだけど、\\n 何か買っていったほうがいい物とかある?」", "362000111_2": "「えーっと……、\\n 冷蔵庫にお野菜もお肉もあるし……」", "362000111_3": "「大丈夫だと思う。それより早く帰ってきて。\\n 一緒にご飯作るんでしょ?」", "362000111_4": "「もちろんッ! 走って帰るからもう少しだけ待っててッ!」", "362000111_5": "「うん、気をつけてね」", "362000111_6": "「ふぁ……それにしても、いいお天気。\\n そっか……もう春だもんね……」", "362000111_7": "「下準備とか、お洗濯とか\\n いろいろやっておきたかったけど……」", "362000111_8": "「響が帰ってくるまで……、\\n 少しだけ――」", "362000111_9": "「たっだいまーッ!」", "362000111_10": "「んん……、\\n あれ、もうこんな時間……」", "362000111_11": "「ごめんね、お昼寝しすぎちゃったみたい」", "362000111_12": "「わかるよ~、今日は最高のポカポカ陽気ッ!\\n わたしも走っててすごく気持ちよかったよ」", "362000111_13": "「ただ、全力で走りすぎたせいで、\\n 途中から暑くなってきちゃって……」", "362000111_14": "「もしかして、またアイス?\\n これからご飯なんだよ」", "362000111_15": "「平気平気ッ! 未来と作るご飯は\\n 何百杯でもお腹に入るから」", "362000111_16": "「もう、調子のいいことばかり言って……、\\n じゃあ、1つだけだからね」", "362000111_17": "「やったーッ!\\n それじゃさっそく冷凍庫を開けて――」", "362000111_18": "「…………」", "362000111_19": "「…………」", "362000111_20": "「ちっちゃい未来がいるーーッ!?!?」", "362000111_21": "「な、何言ってるの響――」", "362000111_22": "「…………」", "362000111_23": "「ちっちゃいわたしだ……」", "362000111_24": "「しぇむー……しぇむー……」", "362000111_25": "「これって……寝てるのかな?\\n ちょっと変だけど、寝息みたいのも聞こえるし……」", "362000111_26": "「冷凍庫の中だよッ!?\\n こんなところで寝てたら風邪ひいちゃうよッ!」", "362000111_27": "「それよりも気になるところは、たくさんあるよね?」", "362000111_28": "「うーん、確かになんかどこかで見たことがあるような……。\\n どこで会ったんだっけ?」", "362000111_29": "「――遺憾である」", "362000111_30": "「起きたッ!?」", "362000111_31": "「ヒトが仰ぎ見る、\\n この星のカミが、我と覚えよ……」", "362000111_32": "「そして飛んだッ!?」", "362000111_33": "「しぇむッ!?」", "362000111_34": "「うわぁッ! 思い切り顔から落ちちゃったよッ!?」", "362000111_35": "「大丈夫ッ!?」", "362000111_36": "「ぐッ……しょげるな……」", "362000111_37": "「怪我してない? ちょっと見せて……、\\n よいしょっと」", "362000111_38": "「未来がちっちゃい未来を抱っこしたッ!」", "362000111_39": "「冷た……ッ!」", "362000111_40": "「わ、我は壮快である……」", "362000111_41": "「うそ、震えてるもの。\\n 早く温めてあげないと……」", "362000111_42": "「フン、ならば好きにするがいい……」", "362000111_43": "「一応大人しくなったみたいだけど……、\\n この子、何者なんだろう?」", "362000111_44": "「やっぱり知ってる気がするけど……フフ」", "362000111_45": "「ちょっと、なんで笑ってるの?」", "362000111_46": "「そうやって抱っこしてたらさ。\\n 未来の子供みたいで可愛いんだもん」", "362000111_47": "「ええ? そうかな……」", "362000111_48": "「忌々しいッ!」", "362000111_49": "「あッ、どこ行くのッ!?」", "362000111_50": "「そっちは玄関だよッ!」", "362000111_51": "「ユグドラシルを屹立させるのだッ!」", "362000111_52": "「ユグドラシル? それって――」", "362000111_53": "「とりあえず追いかけようッ!」", "362000111_54": "「ククク……、", "362000111_55": " 胸躍る……ッ!」", "362000111_56": "「この子、なんか一生懸命に地面に穴を掘って……、\\n どんぐりを埋めてるみたいだけど……」", "362000111_57": "「あれがユグドラシル……なの?」", "362000111_58": "「ねえ、一度お家に帰らない?\\n 少しお話を聞かせてほしいんだけど……」", "362000111_59": "「ほら、手繋ごう?」", "362000111_60": "「あたわぬッ!\\n その拳は呪いの積層ッ!」", "362000111_61": "「付け入る隙など与えぬッ!\\n さっさと立ち去るがよ――」", "362000111_62": "「グウウウウウウウッ!(盛大なお腹の虫の音)」", "362000111_63": "「えっと……今のはこの子の……?」", "362000111_64": "「……幻聴である」", "362000111_65": "「フフ、とりあえずご飯にしましょう」", "362000111_66": "「じゃーんッ!\\n 月見うどんの出来上がりッ!」", "362000111_67": "「おかわりもあるからね、\\n 足りなかったら言って?」", "362000111_68": "「……ッ!\\n こ、これは――」", "362000111_69": "「忌々しい、バラルの呪詛め……」", "362000111_70": "「バラル……? そうかッ!」", "362000111_71": "「どうして今まで、\\n 気がつかなかったんだろう……ッ!」", "362000111_72": "「この子、シェム・ハに似てる……ッ!!」", "362000111_73": "「――ッ!\\n 本当だ……ッ!」", "362000111_74": "「でもシェム・ハさんは\\n わたしたちと戦って、あの時……」", "362000111_75": "「ねえ、あなたはどこから来たの?」", "362000111_76": "「なんでそんな姿をしてるの?」", "362000111_77": "「無礼である。\\n 矢継ぎ早に我へ質問するとは……」", "362000111_78": "「でも大切なことだから。お願い、教えてッ!」", "362000111_79": "「所詮人知の及ばぬこと。\\n 意味のない会話ほど空虚なものはない」", "362000111_80": "「どういう意味? ここまでどうやって来たの?」", "362000111_81": "「くどいッ! 不敬であるぞッ!」", "362000111_82": "「何も答えたくないの?」", "362000111_83": "「答えたくないというよりは……、\\n もしかして、わからないんじゃ……」", "362000111_84": "「…………」", "362000111_85": "「当たりみたいだね……」", "362000111_86": "「そもそも、なんで冷凍庫にいたの?」", "362000111_87": "「我はメガラニカで眠っていたのだ」", "362000111_88": "「メガラニカって……、\\n 冷凍庫を南極だって言ってるのかな」", "362000111_89": "「そうみたい。\\n じゃあ目的は? 何をしようとしてるの?」", "362000111_90": "「ユグドラシルの屹立であるッ!」", "362000111_91": "「でもあれ、どんぐりだよ?」", "362000111_92": "「……ッ!」", "362000111_93": "「わ、我は……、\\n ユグドラシルを……うぅ……」", "362000111_94": "「そんな顔をされると、子供を泣かせてるみたいで\\n 罪悪感がすごい……」", "362000111_95": "「言葉づかいだけ少しそれっぽいけど、\\n 雰囲気とか性格がシェム・ハとはまるで別人だよね……」", "362000111_96": "「シェム・ハさんのようでシェム・ハさんじゃないもの……、\\n 一体どうなってるの?」", "362000111_97": "「ふん、不完全な言語では\\n 全てを伝えるのもままならぬッ!」", "362000111_98": "「よって、これ以上の会話は不要ッ!」", "362000111_99": "「シェ……シェ、", "362000111_100": " シェムックションッ!」", "362000111_101": "「今のって、クシャミ……だよね?\\n 冷凍庫に入って、身体が冷えちゃったのかな?」", "362000111_102": "「それなら、この月見うどんをどうぞ。\\n 身体が温まるよ」", "362000111_103": "「うむ……」", "362000111_104": "「んぐ……、", "362000111_105": " ム――ッ!?」", "362000111_106": "「熱ッ! これでは食せぬではないかッ!」", "362000111_107": "「誰でもよい。\\n 我のバラルの呪詛を速やかに冷却しろ」", "362000111_108": "「バラルの呪詛って……、\\n 月見うどんのことを言ってるの?」", "362000111_109": "「今の言い方は、たぶんそうなんだと思うけど……」", "362000111_110": "「うどん熱かった? 大丈夫?\\n もうちょっと冷めてから食べようね」", "362000111_111": "「くッ……じれったい……」", "362000111_112": "「うーん……こうしてると、\\n 可愛いんだけどなあ」", "362000111_113": "「でも、やっぱり報告はしておいた方がいいよね?」", "362000111_114": "「ふむ、なるほど……。冷凍庫を開けたら、\\n すでにこの子が入っていたということか……」", "362000111_115": "「オッスッ! 我シェム・ハッ!」", "362000111_116": "「な、なんだと……ッ!」", "362000111_117": "「すみません、たまに変なことを口走るみたいで……」", "362000111_118": "「その子について、もう簡易検査は済ませたのですが……、\\n 全てにおいて、あり得ない数値を示しています」", "362000111_119": "「接触可能な肉体があるのに、質量の計測値が\\n 0どころかマイナスを示すなど、埒外物理の域ですね」", "362000111_120": "「端的に言うと、存在が冗談みたいです」", "362000111_121": "「冗談で済まされない場合を想定しろ。\\n 暫くは、この――」", "362000111_122": "「我が名はシェム・ハ。\\n 人が仰ぎ見るこの星の神が、我と覚えよ」", "362000111_123": "「ううむ……」", "362000111_124": "「このちびシェム・ハくんは\\n S.O.N.G.で預かり調査させてもらう」", "362000111_125": "「ちび……ッ!?", "362000111_126": " 遺憾である……」", "362000111_127": "「…………」", "362000111_128": "「大丈夫?」", "362000111_129": "「ううん、なんでもない。\\n 帰ろっか」", "362000111_130": "「ただいまー……」", "362000111_131": "「暢気なものだ」", "362000111_132": "「えッ!?」", "362000111_133": "「さっき本部に預けてきたのに、なんでここにいるのッ!?」", "362000111_134": "「響くんッ! \\n ちびシェム・ハくんはそちらに行ってないかッ!?」", "362000111_135": "「来るも何も、\\n もうすでに、我が家へ侵入してます……」", "362000111_136": "「やはりそうかッ! しかし我々の監視を掻い潜るとは……、\\n ともかく、すぐに職員を向かわせるッ!」", "362000111_137": "「もう、ダメじゃない。\\n 勝手に抜け出したりなんかしちゃ」", "362000111_138": "「神が神殿に座することに、\\n なんの咎があるという」", "362000111_139": "「神殿……? ここが?」", "362000111_140": "「左様。我が悲願、ユグドラシルが芽吹くその日まで、\\n 相応しき役目を与えてやろう」", "362000111_141": "「では、我は今よりバラルの呪詛を破壊する。\\n 用意するのだッ!」", "362000111_142": "「……バラルの呪詛?\\n 確か月見うどんのことだったよね」", "362000111_143": "「卵が月に見えるから、\\n それを割って食べたいってこと、なのかな……?」", "362000111_144": "「急げ。さもなくば――」", "362000111_145": "「もう、しょうがないなあ」", "362000111_146": "「うんうん、ご飯にしよっか」" }