{ "329000932_0": "(ここは、どこだ……?)", "329000932_1": "(誰もいない……)", "329000932_2": "(ああ、そうか。\\n ここが辺獄というやつか……)", "329000932_3": "(当然だな。\\n オレがパパと同じところへ行けるはずもない)", "329000932_4": "「キャロル……」", "329000932_5": "「誰だ、オレの名を呼ぶのは?」", "329000932_6": "「キャロル、ここです」", "329000932_7": "「その姿? お前は……ノエル……?\\n いや違う……」", "329000932_8": "「お前は、誰だ?」", "329000932_9": "「やっと繋がることができました」", "329000932_10": "「初めまして。\\n ボクは、エルフナインと言います」", "329000932_11": "「エルフナイン……どこかで聞いた覚えが――」", "329000932_12": "「ボクは別の世界のあなた……キャロルに作られた\\n ホムンクルス躯体で、彼女に救われた者です」", "329000932_13": "「そうか。\\n お前が、立花響たちが言っていた」", "329000932_14": "「そうです。\\n 響さんたちは、今のボクの大切な仲間です」", "329000932_15": "「それが、そのお前が、どうしてこんなところにいる?」", "329000932_16": "「ダイレクトフィードバックシステムの応用で、\\n 並行世界間の精神干渉を再現してみたんです」", "329000932_17": "「ただ、無理やり精神に負担をかけて繋げたので、\\n ちょっときつかったですけど」", "329000932_18": "「それでも、偶然……いえ、奇跡かもしれませんが、\\n うまくいってよかった」", "329000932_19": "「奇跡だと……ッ!?\\n そんなもの、オレは認め――ッ!」", "329000932_20": "「キャロル、パパの命題の答えは出ましたか?」", "329000932_21": "「パパの……命題……」", "329000932_22": "「…………」", "329000932_23": "(パパ……。パパが本当に望んでいたこと……)", "329000932_24": "「ああ……やっと、見つけたよ」", "329000932_25": "「それは、世界を識ることだ……」", "329000932_26": "「世界を?」", "329000932_27": "「そうだ。\\n だがオレは、ずっとその意味を取り違えていた」", "329000932_28": "「どういう意味だったんですか?」", "329000932_29": "「それは世界を支配するためでも、滅ぼすためでもない」", "329000932_30": "「いつか人と人がわかり合うために、世界の全てを識り、\\n その知識で誰かを幸せにしていくためのものだったんだ」", "329000932_31": "「キャロル……」", "329000932_32": "「パパはいつでも、誰かのために、誰かの幸せを願って、\\n 錬金術を行使していた」", "329000932_33": "「そう、人とわかり合うために……」", "329000932_34": "「それは、自分が殺される時であっても変わらなかった」", "329000932_35": "「力を使わず、わかり合えないことへの悲しみも見せず、\\n それでも人はわかり合えるはずと、そう信じて死んでいった……」", "329000932_36": "「うん、そうだったね……」", "329000932_37": "「ボクたちのパパは、そういう人だった……」", "329000932_38": "「……よかった。\\n ちゃんと答えを見つけたんですね」", "329000932_39": "「ああ……」", "329000932_40": "「だが、オレは愚か者だ」", "329000932_41": "「この答えを見いだすまでに、\\n どれ程の刻を無駄にした?」", "329000932_42": "「どれ程の無駄な犠牲を強いてきた?」", "329000932_43": "「答えなら、とっくにこのオレの中にあったのに……」", "329000932_44": "「パパが、ちゃんと遺してくれていたのにッ!」", "329000932_45": "「悲しみと孤独、恨みと憎しみとで塗り込めて、\\n ずっと見失っていた……」", "329000932_46": "「オレの醜い心の合わせ鏡を目の当たりにして、\\n ようやくそのことに気がついたのだッ!」", "329000932_47": "「そこまで悔いているのなら……戦ってください」", "329000932_48": "「戦え、だと?」", "329000932_49": "「ええ、そうです」", "329000932_50": "「一体、何と戦えと言うのだ?」", "329000932_51": "「間違った答えを行使しようとする者と」", "329000932_52": "「それを止められるのは、パパの遺志を正しく引き継げるのは、\\n キャロルだけなんですから」", "329000932_53": "「だが、もうオレには、戦う力など残っていない……」", "329000932_54": "「それなら大丈夫――」", "329000932_55": "「ボクの想い出を、わけてあげます」", "329000932_56": "「――なッ!? 想い出の力をッ?」", "329000932_57": "「そんなことをしたら、お前がッ!?」", "329000932_58": "「大丈夫。並行世界をまたいで、想い出の力を\\n 実際に受け渡すことまでは、流石にできないと思います」", "329000932_59": "「できるのは、ちょっとした精神干渉だけです」", "329000932_60": "「ならば、この行為になんの意味がある?」", "329000932_61": "「ボクの中に残るキャロルの想い出の残滓に触れることで、\\n きっとあなたの中に眠る想い出も輝きを取り戻すはず」", "329000932_62": "「オレの中に眠る、想い出――?」", "329000932_63": "「はい。失った記憶もあれば、ひととき忘れただけで\\n 思い出せる記憶も、まだたくさんあるはず」", "329000932_64": "「それに、過去だけじゃない」", "329000932_65": "「想い出というものは、これからも新たに、\\n 幾らでも紡ぎ出されるんです」", "329000932_66": "「今、あなたとボクがこうして\\n 新たな想い出を紡いでいるように……」", "329000932_67": "「新たな、想い出を、紡ぐ――」", "329000932_68": "「もちろん、良い想い出だけじゃありません。\\n 苦しい想い出もまた、沢山生まれるはず」", "329000932_69": "「だとしても……その苦しい道の先には、\\n 再び誰かとの輝ける想い出が紡いでいけるはずです」", "329000932_70": "「ボクは、ボクの世界のキャロルに与えられた命で、\\n 誰かと歩んでいくことの喜びを知りました」", "329000932_71": "「だからキャロルにも、\\n これからはそうして生きていってほしい」", "329000932_72": "「オレに……そんな生き方ができると思うか?」", "329000932_73": "「できます。パパの真の命題を思い出して、\\n 今度こそ受け継いだ、あなたなら」", "329000932_74": "「奇跡を憎むのではなく、人と人がいつかわかり合える――\\n パパの望んだそんな奇跡を、志向できるキャロルなら絶対に」", "329000932_75": "(……人と人がわかり合う、わかり合える奇跡……)", "329000932_76": "(そうだ。オレはもう、奇跡の殺戮者じゃない……。\\n だから――)", "329000932_77": "「さあ、立ち上がって」", "329000932_78": "「あなたなら、また戦えるはず」", "329000932_79": "「……礼を言おう、エルフナイン」", "329000932_80": "「オレは、もう一度戦う」", "329000932_81": "「オレの過ちを正すために。\\n そして新たな想い出を紡ぐためにッ!」", "329000932_82": "「オレはパパを肯定する、パパが望んだ奇跡を、\\n この手で必ず叶えてみせるッ!!」", "329000932_83": "「オレは――『奇跡の完遂者』だッ!」", "329000932_84": "「はい。\\n きっと、ボクたちのパパもそれを――」", "329000932_85": "「ぐッ……」", "329000932_86": "(この痛み、現実に戻ってきた、ということか……)", "329000932_87": "(即死でなかったのがそれこそ奇跡だな……)", "329000932_88": "(しかし、どうも立ち上がれそうもない)", "329000932_89": "「せっかくエルフナインに尻を叩かれても、\\n このザマではな……」", "329000932_90": "「……マス、ター」", "329000932_91": "「ガリィッ? まだ動けたのかッ!」", "329000932_92": "「どうにか、こうにか、ですけどね……」", "329000932_93": "「マスター……。今まで預かっていたもの、\\n マスターに、お返ししますよ……」", "329000932_94": "「オレが預けたものだと?」", "329000932_95": "「その光は……お前に与えた、聖杯の力ッ!?」", "329000932_96": "「さ、お受け取りください」", "329000932_97": "「何を――ッ!」", "329000932_98": "「お初にお目に掛かりますわ、マスター」", "329000932_99": "「さあ、マスター。\\n なんなりとご命令を♪」", "329000932_100": "「あたしもバリバリ手伝うゾッ!」", "329000932_101": "「派手に計画遂行といきましょう」", "329000932_102": "「ところで、お前たち。\\n いちいち、その大仰なポーズを取らねば気がすまないのか?」", "329000932_103": "「ほんとですよねえ。\\n 隣でダッサい動きを取られると目障りなんですけどー?」", "329000932_104": "「この派手さがわからぬとは、地味にナンセンスな奴」", "329000932_105": "「けど、ガリィのブリっ子も大概だゾ?」", "329000932_106": "「あんだと、もう1回言ってみろッ!?」", "329000932_107": "「これは――」", "329000932_108": "「オートスコアラーたち全員の想い出ッ!?」", "329000932_109": "「はい、わたしも含め、\\n 他の者たちの最後の想い出を、この聖杯に込めました」", "329000932_110": "「どうしてそんなことッ!」", "329000932_111": "「いやですよ、マスター、\\n あなたは、わたしたちにとって一番大切な人なんですから」", "329000932_112": "「さ……立ち上がってくださいな、マスター……」", "329000932_113": "「そして、あのクソ野郎に……。\\n 必ず、勝って、ください、よ――」", "329000932_114": "「ガリィッ!!」", "329000932_115": "「…………」", "329000932_116": "「……受け取ったぞ、お前らの想いをッ!」" }