{ "318000641_0": "「はぁ、はぁ、はぁ……」", "318000641_1": "(一体、ここは、どこなんだ……?)", "318000641_2": "「お父さん、どうか、お母さんを助けてくださいッ!」", "318000641_3": "「奴隷女如きが生んだ餓鬼風情が我が子を名乗るな、\\n 汚らわしいッ!」", "318000641_4": "(そう、この男は、かつて私の父だった男だ)", "318000641_5": "(あくまで生物学上のではあるけども)", "318000641_6": "「そんな、私は、あなたの――」", "318000641_7": "「家畜がひり出す汚物も同然の分際で我に縋るかッ!」", "318000641_8": "「私は汚物扱いで構いません、せめてお母さんにお薬をッ!」", "318000641_9": "(彼は貴族だった。生まれながらの支配者だった)", "318000641_10": "(奴隷女であった母に欲望の赴くままに手をつけ、\\n 私が生まれると、私ごと薄汚い奴隷小屋へと追いやった男だ)", "318000641_11": "「お母さんは重い病気なんですッ! でも、お父さん――\\n いえ、旦那様ならば、簡単に手に入るはずですッ!」", "318000641_12": "「そんな薬があるなら牛や馬にでもやった方がマシというものだ。\\n 老いた奴隷女など、牛馬ほどの価値もないのだからな」", "318000641_13": "「そんな……あ、あなたはそれでも人間なんですかッ!?」", "318000641_14": "「人間だとも。貴様ら奴隷などとは違ってな。\\n 我々こそが、真の人間なのだ」", "318000641_15": "(血の繋がったはずの父でさえ、これなのだ。\\n 他の誰に縋ったところで助けてくれる者がいるはずもない)", "318000641_16": "(そして――母は、間もなく息を引き取った)", "318000641_17": "(力なき者は搾取され、利用価値がなくなれば、\\n この様に打ち棄てられるのが、この世界の常だ)", "318000641_18": "(これがこの世界の姿。無限に続く牢獄だ。\\n 力ある者が弱き者を縛り虐げる世界――)", "318000641_19": "(そのすぐ後、私は奴隷小屋を脱走し、世界を渡り歩き――\\n やがて師に出会い、遂に叡智を得た)", "318000641_20": "(権力を憎み、身分制度を憎み、国を、体制を、政治を――\\n 千年以上もの長い年月を生き、それらに抗ってきた)", "318000641_21": "(だが、未だ世界は変わらぬままだ。\\n 誰も変革など求めていないかのように)", "318000641_22": "(くッ! 頭が……割れる……)", "318000641_23": "「グッ、ガアアァァ……」", "318000641_24": "(――憎い)", "318000641_25": "(憎い憎い憎いッ!)", "318000641_26": "(あらゆる人間が憎いッ!)", "318000641_27": "(人間の利己心が。傲慢さが。不作為が)", "318000641_28": "(支配しようとする者だけでない。\\n 虐げられるまま甘んじる弱き者どもも)", "318000641_29": "(誰も信じられるものか。誰も救えるものか。誰も認めるものか)", "318000641_30": "(矮小な目的で私に追従してきた、あの者たちすらも――)", "318000641_31": "(愚かなる人間たちと、もろともに消し去って――)", "318000641_32": "(……違う)", "318000641_33": "(違うッ! 私は、そんなことを望んでは――)", "318000641_34": "(お母さん……カリオストロ……プレラーティ……)", "318000641_35": "(私、は……あなたたちと共に……)" }