{ "316000921_0": "(ああ……そうだった……)", "316000921_1": "(あの日、お父さんの研究所が、黒いノイズに襲われたんだ)", "316000921_2": "(わたしは、お姉ちゃんと妹たちと一緒に、\\n その混乱にまぎれて研究所を逃げ出した)", "316000921_3": "(だけど、研究所の大人たちは、わたしたちを捕まえようと――)", "316000921_4": "「こっちよッ! 早く」", "316000921_5": "「はあ、はあ、はあ……」", "316000921_6": "「……他の姉妹たちとも離れ離れになっちゃった」", "316000921_7": "「みんな、捕まっちゃうの……?」", "316000921_8": "「…………」", "316000921_9": "「いい、この物陰に隠れて、絶対に出てこないで」", "316000921_10": "「……?」", "316000921_11": "「わたしはみんなを探してくるから」", "316000921_12": "「――ッ!?」", "316000921_13": "「もし、しばらくしても戻らなかったら、\\n ここから向こうの方角へ走って」", "316000921_14": "「港があるって研究員たちが言っていた。\\n 運が良ければ船に乗れるかもしれない」", "316000921_15": "「みんなも一緒がいい」", "316000921_16": "「……大丈夫、みんな一緒よ」", "316000921_17": "(そうして、お姉ちゃんは、1人、研究所の方へ向かい――)", "316000921_18": "(結局、戻ってくることはなかった)", "316000921_19": "(わたしもみんなを助けに行きたかったけど、\\n 怖くて体が動かなかった)", "316000921_20": "(もし捕まったらまた痛いことをされるから、\\n 多分、いっぱい罰も受ける)", "316000921_21": "(痛いのはもうイヤ、苦しいのはもうイヤ)", "316000921_22": "(体の震えも、涙も止まらない……)", "316000921_23": "(ただ静かにして、時々聞こえる悲鳴が、\\n みんなのでないことを祈ることしか出来なかった)", "316000921_24": "(周りが静かになって、\\n わたしは言われた通り、港へ向かった)", "316000921_25": "(そこで、偶然泊まっていた船に飛び乗った)", "316000921_26": "(何日かして港について、陸に上がって)", "316000921_27": "(人目を避けて森の中を歩いていたら、ノイズが現れて――)", "316000921_28": "(誰かに助けてほしくて、\\n 叫ぼうとしたら、声が出なくなっていた)", "316000921_29": "(必死に逃げたけど、囲まれて)", "316000921_30": "(ああ……これでもう終わりなんだって、そう思った)", "316000921_31": "「ぁ…………ぅ……ッ!?」", "316000921_32": "「はあああああ――ッ!!」", "316000921_33": "「もう大丈夫だよッ!」", "316000921_34": "「…………」", "316000921_35": "「あれ……君。さっきの――」", "316000921_36": "(そうだ、◆◆が助けてくれたんだ――)", "316000921_37": "(太陽のように温かい人)", "316000921_38": "(きっとこの人はかみさまなんだ、って。そう思った……)", "316000921_39": "(基地で身体を調べられた後、部屋に連れていかれた)", "316000921_40": "(少しの間、◆◆たちも一緒だったけど、いなくなってしまった)", "316000921_41": "(また、1人になって、心細くて……)", "316000921_42": "(研究所に戻されるんじゃないかって、すごく怖くて……)", "316000921_43": "(そう思って、あの時のように、じっとうずくまっていた)", "316000921_44": "(みんなと離れ離れになったあの日のことを思い出して、\\n 息が苦しくなった)", "316000921_45": "(心が、ぎゅっとしめつけられるように痛んだ)", "316000921_46": "「おーい。帰ってきたよー」", "316000921_47": "「かくれんぼしてないで出ておいで~?」", "316000921_48": "「…………」", "316000921_49": "「あ、いたいた」", "316000921_50": "「…………」", "316000921_51": "「ただいま」", "316000921_52": "「どうしたの、そんなところで」", "316000921_53": "(帰ってきてくれて嬉しかった)", "316000921_54": "(それからもたまにいなくなることもあったけど)", "316000921_55": "(みんな、わたしのことを大切にしてくれた)", "316000921_56": "(◆◆は、わたしに、文字も教えてくれた)", "316000921_57": "(『シャロン』って、わたしを呼んでくれる)", "316000921_58": "(頑張るとほめてくれた)", "316000921_59": "(◆◆の傍は温かくて、ずっとそこにいたいと思った……)" }