{ "402000721_0": "「結局、ミョルニルには近づけずじまいか……」", "402000721_1": "「……実験の直後で不安定だから、しょうがないのかな?」", "402000721_2": "「うん……」", "402000721_3": "「果たしてそうかしらね」", "402000721_4": "「ん? なんか思い当たるのか?」", "402000721_5": "「最初のやり取りといい、\\n わたしたちのことを邪魔と思っている連中よ」", "402000721_6": "「なんらかの仕掛けで、不安定に見せかけて、\\n わたしたちを近づけないようにしている可能性も考えられるわ」", "402000721_7": "「確かにそうですね」", "402000721_8": "「この宿の場所だって、\\n どの辺にあるのかも一切わからないし」", "402000721_9": "「車の外、ずっと真っ暗だったね……」", "402000721_10": "「フルスモークで中からも外が見えないって、\\n 交通違反じゃないのかよ、ったく……」", "402000721_11": "「ところで、ミョルニルを見た感想は?」", "402000721_12": "「……恐らく間違いないと思う。\\n だけど、正確に判断するには、もっと近づかないと……」", "402000721_13": "「ミョルニルが落ち着いたら見せるって言ってたけど……」", "402000721_14": "「ああ、全く信用ならないな」", "402000721_15": "「その件は私に任せてくれ」", "402000721_16": "「既に、米国政府の協力者に連絡し、動いてもらっている。\\n しばらくすれば、なんらかの動きがあるはずだ」", "402000721_17": "「1つ聞かせてくれるかしら?」", "402000721_18": "「私に? なんだ?」", "402000721_19": "「あの研究員に渡していた、ミョルニルのデータ。\\n アレはなんなの?」", "402000721_20": "「話した通り、\\n ミョルニルの起動に関するデータだ」", "402000721_21": "「そんなの渡しちまっていいのか?」", "402000721_22": "「構わない。既に向こうも握っている情報だろう」", "402000721_23": "「え? どういうことですか?」", "402000721_24": "「研究所側の対応を予見して、\\n 念のため交渉材料として用意していた物だ」", "402000721_25": "「米国側が周知している内容に手を加え、\\n 一見新事実が隠されているように偽装している」", "402000721_26": "「時間を掛けねばわからないが、\\n とはいえ、時間を掛けても新たに得られる情報は無い」", "402000721_27": "「それって、もしバレたら……」", "402000721_28": "「単に、私の提供したデータをあざ笑う程度だろう。\\n 日本の保持しているデータは、所詮この程度か、と」", "402000721_29": "「こ、これが大人の交渉……」", "402000721_30": "「マジで、よく淡々とそんなことができるよな」", "402000721_31": "「なるほど、少し安心したわ。\\n あんな奴らに情報なんて提供するべきじゃないから」", "402000721_32": "「私からも1つ聞きたいのだが?」", "402000721_33": "「何かしら?」", "402000721_34": "「あの研究員たちが実際にミョルニルの\\n 制御を成功させる確率はどれくらいある?」", "402000721_35": "「あれがわたしの知っているミョルニルそのものだとしたらゼロね。\\n どう転んでも、人の手におえるような代物じゃないわ」", "402000721_36": "「制御に失敗すれば、再び甚大な被害が出る」", "402000721_37": "「……わかった。\\n なんとしても接触できるように手を尽くそう」", "402000721_38": "「おはよう、お姉ちゃんッ!」", "402000721_39": "「う……むにゃ……あと5分……」", "402000721_40": "「響、そろそろ起きないと……」", "402000721_41": "「起きてる……だいじょう……くー……」", "402000721_42": "「いいから、とっとと起きろッ!」", "402000721_43": "「痛ーッ!」", "402000721_44": "「ひどいよクリスちゃん……」", "402000721_45": "「目が覚めただろう?」", "402000721_46": "「響、もうすぐ司令から連絡が来る時間だよ」", "402000721_47": "「響お姉ちゃん、早く準備しよう?」", "402000721_48": "「時間だ、準備はできているか?」", "402000721_49": "「はいッ!!」", "402000721_50": "「バッチリですッ!」", "402000721_51": "「一番遅かったくせに、返事だけはいいよな……」", "402000721_52": "「時間が惜しいわ。\\n すぐに研究所に向かいましょう」", "402000721_53": "「降りてくださいッ! 急いでッ!」", "402000721_54": "「なんだ、どうしたんだ?」", "402000721_55": "「とにかく、外に出てみよう」", "402000721_56": "「あれ、なんでこんな場所に……?」", "402000721_57": "「おいッ! あれッ!\\n オートマシンが――」", "402000721_58": "「ってことは――ッ!?」", "402000721_59": "「この先に、ノイズが出たんですッ!\\n 向こうにヘリを呼んでいますッ! 急いでッ!」", "402000721_60": "「やっぱり……ノイズッ!」", "402000721_61": "「……」", "402000721_62": "「……お姉ちゃん、怖いよ」", "402000721_63": "「大丈夫、お姉ちゃんたちが全部、やっつけてあげるから。\\n ……わたしたちに、やらせてもらえますか?」", "402000721_64": "「……わかった。人命には代えられないだろう。\\n 頼む」", "402000721_65": "「はいッ!」", "402000721_66": "「Balwisyall Nescell gungnir tron――」", "402000721_67": "「お姉ちゃん……がんばってッ!」", "402000721_68": "「ありがとうッ!\\n 行ってくるねッ!」", "402000721_69": "「彼女たちだけで大丈夫なのですか?」", "402000721_70": "「避難は我々だけでいい。\\n 彼女らは事態の鎮静化に向かった」", "402000721_71": "「……少し待ってくれ」", "402000721_72": "「……私だ。先ほど、特異災害と遭遇した。\\n これより対処を行う」", "402000721_73": "「……ああ、メディアの対応についての通達を。\\n 事は日本政府の機密にも関わる」", "402000721_74": "「……そうだ。オートマシンも退かせていい。\\n 彼女たちの邪魔にならないようにしてくれ」", "402000721_75": "「用は済んだ。行こう」", "402000721_76": "「は、はあ……」", "402000721_77": "(頼んだぞ、装者たち……)", "402000721_78": "(たかがノイズで右往左往……でもそれが普通。\\n そう、普通ではあの蛇に対処などできない)", "402000721_79": "(……そしてそれは、ミョルニルも同じ。\\n 普通じゃ制御なんてできるはずがない。そう、普通じゃ……)" }