{ "105000621_0": "「灯台下暗しであります……」", "105000621_1": "「まさか、ここをあてがわれるとは思っても見なかったゼ」", "105000621_2": "「護災法の適用以来、国内における特異災害の後処理は、\\n 全て儂の管理下にある」", "105000621_3": "「裏を返せば、ここは誰も簡単に手が出せぬ聖域に他ならぬ」", "105000621_4": "「つまり、アジトとするにはうってつけというわけですわね」", "105000621_5": "「計画の最終段階に着手してもらおう。神の力を、\\n 防人が振るう一振りに仕立て上げるのだ」", "105000621_6": "「ここにはその為の環境を整えてある。設備稼働に必要な\\n エネルギーも事前に説明してある通り。手筈は既に進めておる」", "105000621_7": "「ああ……」", "105000621_8": "「――だが、果敢無き哉……」", "105000621_9": "「――ッ……」", "105000621_10": "「ロクに役目をこなせぬ者がいると聞く。\\n おかげで儂の周辺で犬が嗅ぎ回るようになっているとも」", "105000621_11": "「それは……く……ッ!」", "105000621_12": "(わたしたちノーブルレッドは蔑まれ、モノ同然に扱われてきた)", "105000621_13": "(パヴァリア光明結社において、ファウストローブの研究者で\\n あったわたしは、不慮の事故にて瀕死の重傷を負ってしまう)", "105000621_14": "「は……ッ!?」", "105000621_15": "(失われた生体部分を自身の研究対象であるファウストローブに\\n 換装され、命を取り留めたものの……)", "105000621_16": "(完全なる命を至上とする結社において、\\n この事実はわたしの位階を下げるばかりか)", "105000621_17": "(データ採取用の臨床検体という更なる辱めを\\n 受ける結果となってしまった)", "105000621_18": "「うわああああッ!」", "105000621_19": "(屈辱と苦痛の地獄。それでも耐えてこられたのは、同じ検体\\n として出会ったミラアルク、エルザの存在に他ならない)", "105000621_20": "(やがて地獄にも終焉が訪れる……)", "105000621_21": "(結社の崩壊は軛からの解放でもあった。だがこの身は、\\n 特別な血液無くしてままならぬ不自由を抱えている)", "105000621_22": "(その時現れたのが、風鳴訃堂……)", "105000621_23": "(私兵を持たないこの男は、血液の提供と願いの成就を条件に、\\n わたしたちに計画の参加を呼び掛けてきたのだ)", "105000621_24": "「怪物ならば。怪物なりに務めを果たしてもらうぞ、\\n ノーブルレッド」", "105000621_25": "「――チッ!」", "105000621_26": "「計画は走り出したのだ。もはや何人たりとも止めさせぬ」", "105000621_27": "「…………」", "105000621_28": "「そろそろだと思っていたが……盗聴は大丈夫か?」", "105000621_29": "「御用牙時分から昵懇の情報屋回線を使わせてもらっている。\\n もちろん念の入れようは十重に二十重だ」", "105000621_30": "「……お前の読み通りだ」", "105000621_31": "「今回の一件、正式な手続きの査察ではあるが、担当職員の中に、\\n 不明瞭な経歴の者が含まれているようだ」", "105000621_32": "「そうか」", "105000621_33": "「そして――巧妙に秘匿されてはいるが、\\n 鎌倉の思惑と思しき痕跡が見受けられるな」", "105000621_34": "「――くッ……」", "105000621_35": "「こちらも米国と例の交渉が佳境だった故、\\n 後手に回らざるを得なかったのだが……」", "105000621_36": "「兄貴……結社残党のノーブルレッドを擁しているのは、\\n やっぱり……」", "105000621_37": "「早まるな、ゲン」", "105000621_38": "「――ッ!?」", "105000621_39": "「全てが詳らかとなるまでは疑うな。私とて信じたいのだ」", "105000621_40": "「風鳴訃堂は、まがりなりにもこの国の防人。\\n 何より私たちの父親ではないか」", "105000621_41": "「ああ……、\\n だが、しかし――」", "105000621_42": "「私は人を信じている。最終的に信じ抜く覚悟だからこそ、\\n いかなる手段の行使すら厭わない」", "105000621_43": "「――八紘兄貴……」", "105000621_44": "「だから私は、政治を自らの戦場としているのだ。\\n 今は関係悪化している米国とも、協力体制を必ず実現してみせる」", "105000621_45": "「フッ……月遺跡共同調査の提案も、その膳立てにすぎん」", "105000621_46": "「尚もこじれるなら、我が国への反応兵器の発射事実を切り札に、\\n 国際社会からの孤立を恫喝させてもらうさ」", "105000621_47": "「そいつは堪える。\\n やっぱスゲェな八紘兄貴は……兄貴の中でも一番おっかない」", "105000621_48": "「前線は託すぞゲン。\\n 計画が綻びを見せるのは、いつだって走り始めてからだ」", "105000621_49": "「この先にチラつく尻尾を逃さず掴めば、\\n 必ず真実は明らかとなる。疑うのはそれからでも遅くはない」", "105000621_50": "「――ああ……」", "105000621_51": "「婆ちゃん、ありがとね」", "105000621_52": "「またいつでもおいで」" }