{ "345000411_0": "並行世界の調と切歌", "345000411_1": "「この騒ぎは何? 説明して」", "345000411_2": "「えーと……それがデスね……」", "345000411_3": "「……調、なの?」", "345000411_4": "「あなた、このダメ助手の知り合い?」", "345000411_5": "「痛い――ッ!? 蹴らなくてもいいじゃないですか。\\n それに彼女たちは僕の知り合いではありません」", "345000411_6": "「そうデスよ、調。こいつらは敵なんデス。\\n 危ないから出てきちゃダメデスよ」", "345000411_7": "「わたしに命令しないで」", "345000411_8": "「うぅ……ごめんなさいデス……。\\n でも、アタシは調のことが心配でッ!」", "345000411_9": "「彼女は、この世界の月読か?」", "345000411_10": "「おそらくね。\\n わたしたちの世界の調はまだあちらで眠っているはずだから」", "345000411_11": "「それにしても、やっぱりこちらの世界でも\\n 2人は一緒にいるのね。だけど……」", "345000411_12": "「どうも俺たちの知る彼女たちとは違うようだな」", "345000411_13": "「…………」", "345000411_14": "「研究中は静かにしてなさいって言ったの忘れた?」", "345000411_15": "「もちろん、忘れてなどいませんよ。\\n だから侵入者を静かに退場させようと説得を――」", "345000411_16": "「イタイッ!」", "345000411_17": "「同じところばかり蹴らないでくださいッ!」", "345000411_18": "「説得しようとしてるのにアンドロイド兵を\\n なんで使ってるの、バカなの? 死ぬの?」", "345000411_19": "「で、でも、攻撃してきたから仕方ないんデス。\\n アタシたちは調のために戦って――」", "345000411_20": "「うるさい、黙れ。\\n わたしのことを思うなら勝手なことをしないで」", "345000411_21": "「は、はい……」", "345000411_22": "「それで? そこのあなたたちはわたしの研究所になんの用?\\n 盗みが目的なら力ずくで出ていってもらうけど」", "345000411_23": "「……」", "345000411_24": "「なんで黙ってるの?」", "345000411_25": "「あ、い、いえ……」", "345000411_26": "「ここは並行世界、あの調もわたしたちの知る調とは別人……。\\n 理解はしているけど、あまりにも違いすぎるわ」", "345000411_27": "「気持ちはわかる。\\n 以前の並行世界で、わたしも同じ気持ちになったからな」", "345000411_28": "「だが、まぎれもなくこの世界の月読だ」", "345000411_29": "「ええ、わかっているわ。\\n ちょっと驚いただけよ……」", "345000411_30": "「並行世界とはそういうものだ。\\n それよりも、やっとこちらの話が通じそうな相手が出てきたぞ」", "345000411_31": "「素直に回答してくれるかどうかはともかく、\\n 聞いてみる価値はある」", "345000411_32": "「そうですね。聞いてみましょう」", "345000411_33": "「……は? 暁切歌を返してくれ?」", "345000411_34": "「ええ、そうよ。\\n わたしたちの世界から攫っていったじゃないッ!」", "345000411_35": "「あなたたちの世界から……攫った?」", "345000411_36": "「じー……」", "345000411_37": "「…………」", "345000411_38": "「どこへ行くの?」", "345000411_39": "「ギクッ!」", "345000411_40": "「本当にお前は余計なことしかしないのね。\\n 面倒事を自分から引っ張ってきてどうするの」", "345000411_41": "「で、でも、アタシは調のために――」", "345000411_42": "「うるさい。これのどこがわたしのためなの」", "345000411_43": "「あのー、調さん?\\n 少しは切歌さんの気持ちを考えてですね――」", "345000411_44": "「お前はもっとうるさい、ダメ助手」", "345000411_45": "「そんな――ッ!?」", "345000411_46": "「調が……あのウェルをあんな雑に……。\\n 別人とわかってはいるけど……」", "345000411_47": "「ここでのパワーバランスがはっきりしたな」", "345000411_48": "「ああ、彼女がこの研究所のトップらしいな」", "345000411_49": "「ねえ、話を戻させてもらいたいんだけど」", "345000411_50": "「連れて帰っていいよ」", "345000411_51": "「え?」", "345000411_52": "「これが勝手に連れてきただけだから、\\n 連れて帰っていいって言ったの」", "345000411_53": "「そっちの世界の暁切歌は、\\n 『わたしの切ちゃん』とは別人だから」", "345000411_54": "「『わたしの切ちゃん』……?」", "345000411_55": "「おい、まさか連れてきた暁切歌に\\n 怪我なんてさせてないでしょうね?」", "345000411_56": "「だ、大丈夫デス。傷ひとつ付けてないデスから」", "345000411_57": "「『わたしの切ちゃん』ってどういうこと?\\n 隣にいるのが、この世界の切歌じゃないの?」", "345000411_58": "「……あなたには関係ないことよ。\\n いいから、そっちの世界の暁切歌を連れてさっさと帰って」", "345000411_59": "「……そうさせてもらうわ。\\n でも、その前にもう1つ教えてちょうだい」", "345000411_60": "「わたしたちの世界の調が眠ったままなの。\\n 一体、何をしたの?」", "345000411_61": "「はあ……、答えて」", "345000411_62": "「えーと……、調が作った睡眠薬を使ったデス。\\n 即効性だって聞いてたから使わせてもらったんデスよ……」", "345000411_63": "「ああ、安眠用にって作ったアレね。\\n それなら1日、2日で目を覚ますから安心して」", "345000411_64": "「後遺症もないから。\\n 本当にただ死んだように眠れるってだけの薬よ」", "345000411_65": "「よかった……。\\n じゃあ、切歌は連れて帰らせてもらうわね」", "345000411_66": "「――ッ!?」", "345000411_67": "「待ってッ! その培養槽には近づかないでッ!」", "345000411_68": "「え?」", "345000411_69": "「そこで眠っているのはわたしの世界の切ちゃん。\\n あなたたちの暁切歌じゃない」", "345000411_70": "「そ、それじゃ……」", "345000411_71": "「待ってくれ。なら、君と一緒にいる暁は誰なんだ」", "345000411_72": "「ああ、これは――」", "345000411_73": "「隙ありいいいッ!」", "345000411_74": "「――ッ!?」", "345000411_75": "「なんなのよ、これはあああ――ッ!?」", "345000411_76": "「…………」", "345000411_77": "「ふうー、ようやくあの3人がいい位置に来てくれたので、\\n 使わせていただきました」", "345000411_78": "「いわゆる落とし穴ってやつをねッ!」" }