{ "343000511_0": "特別なマスター", "343000511_1": "「やっと外に出られたか。\\n お前たちも大丈夫だな?」", "343000511_2": "「はい、問題無く」", "343000511_3": "「まずはあの男に報告しに行かないとなんだが」", "343000511_4": "「来る必要はないよ、僕が来たのだから」", "343000511_5": "「随分と遅い到着だな、今までどこで何をしていた」", "343000511_6": "「待っていたんだよ、\\n キミたちがはぐれ錬金術師を捕らえるのを」", "343000511_7": "「待っていただと?\\n それはどういうことだ?」", "343000511_8": "「キミを狙うと思っていたからね、知識を求めて。\\n そういう錬金術師だからさ、あのオレムは」", "343000511_9": "「全部知っていたのかッ!」", "343000511_10": "「全部は知らなかったよ、残念ながらね。\\n ただ、僕かキミだろうね、あの場で狙うのなら」", "343000511_11": "「オレのことを餌にしたのか?」", "343000511_12": "「逃したくなかったからね、この機会を」", "343000511_13": "「やってくれたな」", "343000511_14": "「簡単に返り討ちにできると思ったんだよ、キミならね」", "343000511_15": "「その期待通り、返り討ちにしてやったぞ。\\n ……まあ、奴は死んだがな」", "343000511_16": "「そうか……」", "343000511_17": "「とにかくよかったよ、キミたちが無事で。\\n しないといけないね、礼を」", "343000511_18": "「ふん、礼ならこいつらにしてやってくれ。\\n 今回働いたのはオレじゃないからな」", "343000511_19": "「なるほど。\\n それじゃ言ってくれ、なんでも、遠慮なくね」", "343000511_20": "「無いゾ」", "343000511_21": "「ガリィちゃんも遠慮しときます」", "343000511_22": "「別に必要なものは足りていますので」", "343000511_23": "「地味に辞退する」", "343000511_24": "「いかないよ、そういうわけには。\\n 大事だからね、対価は」", "343000511_25": "「むしろお礼を言うのはこっちだゾッ!」", "343000511_26": "「僕に? 覚えがないね、礼を言われるようなことなんて。\\n 何かあったかな?」", "343000511_27": "「この水着のことですわ。\\n 水辺での戦いがしやすくて助かりました」", "343000511_28": "「何かしらの錬金術を施してあったんでしょうね、\\n いつもよりパワーアップしたガリィちゃんでしたから」", "343000511_29": "「おかげで慣れない水辺でもアルカ・ノイズに\\n 派手に遅れを取らなかった」", "343000511_30": "「何より、見た目もめちゃくちゃいいゾッ!\\n あたし、この水着大好きだゾッ!」", "343000511_31": "「ミカちゃんははしゃぎすぎですけどー。\\n 確かに素敵なデザインですよ」", "343000511_32": "「うれしいよ、喜んでくれて」", "343000511_33": "「でも残念ながら、僕じゃないんだよね。\\n その水着を作ったのは」", "343000511_34": "「え?」", "343000511_35": "「おいッ! ちょっと待て、何を――」", "343000511_36": "「嘘だったんだよ、僕からの贈り物というのは。\\n 本当は彼女が作ったものなのさ、その水着はね」", "343000511_37": "「ええッ!?」", "343000511_38": "「それは言うなと言っておいたはずだぞッ!」", "343000511_39": "「それ相応の礼が必要だからね、彼女たちには。\\n 見合ったものだと思うよ、僕はね」", "343000511_40": "「ふざけるなッ!」", "343000511_41": "「その話は本当なのですか、マスター?」", "343000511_42": "「くッ……」", "343000511_43": "「……こいつのデザインは壊滅的に悪かったからな」", "343000511_44": "「マスターが水着を作ってくれたのカッ!\\n 嬉しいゾ、ありがとうだゾッ!」", "343000511_45": "「私たち個々に合うようデザインもしてくれたのですね。\\n 感謝しますわ、マスター」", "343000511_46": "「衣類のことはわかりませんが、大変だったはずです。\\n それを私たちのために……」", "343000511_47": "「オレはお前たちのマスターだ。\\n 着るものの面倒くらい、別に手間でもなんでもない」", "343000511_48": "「おやおや、照れているんですかー。\\n まあ、自分で作ったことを隠しちゃうくらいですからねー」", "343000511_49": "「相変わらず性悪だなお前は。\\n だから言いたくなかったんだ……」", "343000511_50": "「やっぱり、あたしたちのマスターは優しいゾッ!」", "343000511_51": "「マスターの自動人形であることを\\n 誇りに思います」", "343000511_52": "「私たちのマスターは他のマスターとは違う。\\n 命を賭けるに値するマスターだ」", "343000511_53": "「なんだ、急に。\\n たかが水着1つで大げさだな」", "343000511_54": "「あれです、マスター。\\n ガリィちゃんたちもマスターが大好きだってことですよ」", "343000511_55": "「ふん、お前はまたそうやって……、まあいい。\\n 今日は疲れた、もう休むぞ」", "343000511_56": "「明日で構わないよ、報告は」", "343000511_57": "「ところで、それは何かな?\\n ずっと気になっていたけど」", "343000511_58": "「……」", "343000511_59": "「壊れた自動人形かな?\\n どうして、ここに?」", "343000511_60": "「彼女は……」", "343000511_61": "「こいつらの恩人だ」", "343000511_62": "「えッ!?」", "343000511_63": "「恩人か、なるほど。\\n ひどく損傷しているようだけど、見たところ」", "343000511_64": "「……修理すれば動きそうだね、これなら」", "343000511_65": "「メロウは直るんだゾッ!?」", "343000511_66": "「ああ、直せると思うよ。\\n キミたちのマスターなら」", "343000511_67": "「おおッ! マスター、メロウ直せるカ?」", "343000511_68": "「……すぐは無理だ。\\n 失った部品を探すだけでもかなりの時間がかかる」", "343000511_69": "「こちらで用意するよ、必要な部品を。\\n 用意しようか、なんなら助手も」", "343000511_70": "「……だが、直したところで、誰が管理する?」", "343000511_71": "「キミでもいいよ、管理したいのなら。\\n 不要なら、協会が受け持つよ」", "343000511_72": "「欲しかったんだよ、パークの管理者がね。\\n ビジュアルもピッタリじゃないか、マーメイドだから」", "343000511_73": "「まあ、見た目はそうだろうが」", "343000511_74": "「頼めるかな?\\n 全て僕に請求していいから、かかった費用は」", "343000511_75": "「随分と気前がいいな」", "343000511_76": "「願いなんだろう? 自動人形たちの。\\n その自動人形の修理が」", "343000511_77": "「ならば惜しまないさ」", "343000511_78": "「……わかった」", "343000511_79": "「よかったですわ、彼女は直るのですね」", "343000511_80": "「マスター、あたしに手伝えることがあるなら言ってほしいゾ。\\n 早くメロウに直ってほしいんだゾッ!」", "343000511_81": "「私たちにも手伝わせてください」", "343000511_82": "「ガリィちゃんも応援してあげますよー」", "343000511_83": "(ふっ、確かに。これ以上の礼は無いか。\\n 早々に直してやるべきだな)", "343000511_84": "「そうだ、忘れていたよ、水着の話が途中だったね」", "343000511_85": "「……は?」", "343000511_86": "「言ったんだよ、僕がデザインした水着を見たときに。\\n あいつらにこのデザインは似合わないと――」", "343000511_87": "「お前はもう黙っていろッ!」" }