{ "329000811_0": "記憶の弾丸", "329000811_1": "「お待たせしたわね」", "329000811_2": "「急にラボに籠もったかと思ったら、何をしてたんだ?」", "329000811_3": "「これを作っていたのよ」", "329000811_4": "「これは……弾丸?」", "329000811_5": "「私特製の『メモリアルバレット』よ」", "329000811_6": "「メモリアルバレット……?」", "329000811_7": "「直訳すると『記憶の弾丸』か?」", "329000811_8": "「ええ、その通り」", "329000811_9": "「これはキャロルちゃんやオートスコアラーが力の源としている、\\n 『想い出』を込めることのできる特殊な弾なの」", "329000811_10": "「想い出をエネルギーと化す技術は、\\n 本来、錬金術の秘奥なのだが……この際仕方がない」", "329000811_11": "「で、弾に想い出を込めてどうするんだよ?」", "329000811_12": "「弾丸を打ち込まれた対象の脳領域に、内包された想い出が\\n 働きかけて、1種の記憶として定着させるの」", "329000811_13": "「それって、洗脳ってことにならないか?」", "329000811_14": "「大丈夫。普通なら、自分の記憶として定着することは、\\n まずないでしょう」", "329000811_15": "「他人の想い出を垣間見る程度ということか」", "329000811_16": "「ええ、でも今回は、キャロルちゃんのオートスコアラーとの\\n 想い出を込めて、彼女たちに当てれば――」", "329000811_17": "「そうか。オートスコアラーの中に、2人の主との記憶が\\n 並行して存在することになり、そこに齟齬が生じるとッ!」", "329000811_18": "「ええ、そういうこと」", "329000811_19": "「だが、キャロルの想い出が勝るという公算は?」", "329000811_20": "「本来なら、弾に込められる想い出の量が多ければ多いほど、\\n 齟齬も大きくなり、真の記憶が目覚めやすいはずだけど……」", "329000811_21": "「……」", "329000811_22": "「あ、そっか。\\n キャロルは既に相当量の想い出を焼却してるから――」", "329000811_23": "「これ以上、想い出を失うことは危険なワケダ」", "329000811_24": "「ええ、そう」", "329000811_25": "「だからこの弾には、最低限の量の想い出だけしか、\\n 込められていないわ」", "329000811_26": "「効果が出るかどうかは……そうね、\\n 希望的観測を含めても、半々がいいところだと思ってちょうだい」", "329000811_27": "「半々って、丁半博打かよ……」", "329000811_28": "「あの、万が一、効果がなかった時はどうするんですか?」", "329000811_29": "「その時は、オートスコアラーを破壊する」", "329000811_30": "「そんなッ!?」", "329000811_31": "「譜面の完成を防ぐ上で、最も公算の高い方法だ」", "329000811_32": "「本来ならば、それを第1のプランとしてもいいワケダ」", "329000811_33": "「これは、あーしたちの最後の妥協ラインってところね」", "329000811_34": "「でも、それじゃ……」", "329000811_35": "「ああ、それで構わない」", "329000811_36": "「……本当にいいの?」", "329000811_37": "「そのままでも、ノエルに利用されるだけだ」", "329000811_38": "「敵を利するくらいならば、いっそ……」", "329000811_39": "「キャロルちゃん……」", "329000811_40": "「悲観するな、立花」", "329000811_41": "「わたしは、あの者たちの中に眠る忠の心を信じる」", "329000811_42": "「五分五分の勝負ならば、必ず主の下へ戻ってくるとな」", "329000811_43": "「……はい」", "329000811_44": "「そういうのは五分五分って言わないんだけどな……」", "329000811_45": "「理屈の通じないやつらに幾ら言っても無駄なワケダ」", "329000811_46": "「やれやれ。相変わらず楽観的すぎんだろ……」", "329000811_47": "「どうしたッ!?」", "329000811_48": "「アルカ・ノイズの反応を検知ッ!」", "329000811_49": "「来たかッ!」", "329000811_50": "「場所はッ!?」", "329000811_51": "「これは――ッ!?\\n 各地で同時多発的に発生している模様ッ!!」", "329000811_52": "「なんだとッ!?」", "329000811_53": "「各地の反応地点付近の映像でオートスコアラーの姿も確認ッ!」", "329000811_54": "「オートスコアラー4機に加え、あの巨大な個体も、\\n それぞれ別々の地点で確認されていますッ!」", "329000811_55": "「あのデカブツかッ!」", "329000811_56": "「キャロルの身柄を押さえるために、\\n 護衛である装者たちを分断する策かッ!?」", "329000811_57": "「敵出現地点、画面に出しますッ!」", "329000811_58": "「この配置は……まさか……」", "329000811_59": "「どうした?」", "329000811_60": "「ああ、見覚えがある。\\n アイツらの狙いは、龍脈の要石」", "329000811_61": "「龍脈の要石……。\\n 敵の目的は、レイラインッ!?」", "329000811_62": "「星のエネルギーを利用する気かッ!?」", "329000811_63": "「間違いありません」", "329000811_64": "「要石を狙うということは、\\n 予想以上に時間の猶予はないようだ」", "329000811_65": "「どういうこと?」", "329000811_66": "「既に共鳴に必要なエネルギーも貯まっているということだ」", "329000811_67": "「それなら、要石を壊される前に止めに行くぞッ!」", "329000811_68": "「だが、どう戦力を配分する?」", "329000811_69": "「ああ。どうするんだッ!?」", "329000811_70": "「こちらの戦力が装者4名と錬金術師3名、\\n 翻って相手は5箇所に出現――」", "329000811_71": "「画面や反応では確認できてないけど、\\n 黒騎士も後から現れる可能性は高いわね」", "329000811_72": "「だろうな。ノエルはどう見る?」", "329000811_73": "「恐らくは、レイラインのエネルギー制御のために、\\n チフォージュ・シャトーで専念しているはずだ」", "329000811_74": "「ならば、敵は現状の5箇所から、最大で6箇所か……」", "329000811_75": "「いえ。それ以外にもこの場の護りが――\\n キャロルちゃんの護衛が必要よ」", "329000811_76": "「都合、6から7箇所に対して7人……。\\n ほぼ1人ずつしか割り当てられんか」", "329000811_77": "「……ならばオレも出よう」", "329000811_78": "「おい、それは本末転倒だろッ!?」", "329000811_79": "「そうだよッ! 狙われてるのはキャロルちゃんなんだよ?」", "329000811_80": "「ああ。お前は、ここに残るべきだ」", "329000811_81": "「その場合、護衛のために残した戦力は、最悪、遊兵と化す。\\n この戦力不足の局面で、それは無駄というものだろう」", "329000811_82": "「それは……そうかもしれないが」", "329000811_83": "「それに、仮にここに護衛として誰か1人を残しても、\\n 黒騎士がやって来たら、時間稼ぎも難しいはずだ」", "329000811_84": "「それは1人で相対したそいつも、痛感しているはず」", "329000811_85": "「確かに、そうかもだけど……」", "329000811_86": "「ここの基地機能もろとも、オレとその護衛がやられるのが\\n 考え得る中で最悪のパターンだ」", "329000811_87": "「むう……」", "329000811_88": "「ならば、いずれかの班にオレも同行し、\\n 戦力投入ポイントを1箇所でも減らした方がいい」", "329000811_89": "「確かに、一理あるか……」", "329000811_90": "「それに……これ以上、お前たちに借りを作りたくない」", "329000811_91": "「借りって?」", "329000811_92": "「オートスコアラーたちを取り戻すのに無理をさせている以上、\\n こちらも相応のリスクは負うべきだろう」", "329000811_93": "「……いいだろう」", "329000811_94": "「ただしキャロルの趣く先には、黒騎士の出没が予想される。\\n その班には、護衛は2人つけさせてもらう」", "329000811_95": "「確かにそれなら、誰かの戦力が遊兵化することはないわね」", "329000811_96": "「この状況下では、最善の選択というわけか」", "329000811_97": "「決まりだな」", "329000811_98": "「総員、ヘリ格納庫に向かえッ!\\n 班分けはそれまでに指示を出すッ!」", "329000811_99": "「了解しましたッ!」" }