{ "345000311_0": "ガラスの中の眠り姫", "345000311_1": "「見逃してもらえたのは幸運だったな。\\n 一度、君たちの世界へ戻ろう」", "345000311_2": "「あの切歌の姿を見てなかったんですかッ!\\n このまま放って戻るなんてできませんッ!」", "345000311_3": "「今度はこちらから奇襲を掛けましょう。\\n 逃げたと思っている今なら、やつらの隙をつけるわッ!」", "345000311_4": "「落ち着け、マリアッ!」", "345000311_5": "「あの暁は何かおかしい。\\n わたしたちの世界の暁とは別人かもしれない」", "345000311_6": "「別人……。\\n それはつまり、並行世界の切歌ということ?」", "345000311_7": "「そうだ。ウェル博士がいたのだから、可能性は十分にある」", "345000311_8": "「なら、本物の切歌はどこにいるのッ!?」", "345000311_9": "「……それは、まだわからない」", "345000311_10": "「わたしたちの世界の切歌じゃないとしても、\\n 切歌が攫われて、この近くにいる……その事実は変わらない」", "345000311_11": "「ならわたしは、何がなんでも切歌を助けるッ!」", "345000311_12": "「あなたたちは戻ってくれて構わないわ。\\n 切歌のためなら、わたしは1人でもやってみせるッ!」", "345000311_13": "「君の気持ちはわかるが、落ち着いて状況を見ろ」", "345000311_14": "「あの男がアンドロイド兵と呼んでいた戦力も未知数だ」", "345000311_15": "「落ち着けるわけないでしょ。こうしている間にも、\\n あの男が切歌に何をしているのかわからないのよッ!」", "345000311_16": "「マリア、ユリウス氏の言う通りだッ!」", "345000311_17": "「時間が無い、わたし1人でも行くわッ!」", "345000311_18": "「マリアッ!!」", "345000311_19": "「何よッ!?」", "345000311_20": "「あいたッ!」", "345000311_21": "「な、……デコピン?」", "345000311_22": "「司令の言葉を思い出せ、マリア」", "345000311_23": "「お前が取り乱したら、暁を助けることなんてできないぞ」", "345000311_24": "「でも……」", "345000311_25": "「お前にはウェル博士の目的がなんなのかわかるのか?」", "345000311_26": "「そんなの知るわけ……」", "345000311_27": "「敵の規模は? わたしたちの今いる場所は?」", "345000311_28": "「だから……わからないわ……」", "345000311_29": "「そんな状態で冷静さを失って行動することが、\\n どれだけ危険か判断できないマリアではないだろう」", "345000311_30": "「もし、マリアにまで何かあれば、\\n わたしも冷静でいられるかわからない……」", "345000311_31": "「翼……」", "345000311_32": "「ごめんなさい。わたしが間違っていたわ……」", "345000311_33": "「わかってくれたか」", "345000311_34": "「ええ、ありがとう、翼」", "345000311_35": "「どうやら、大丈夫そうだな」", "345000311_36": "「ええ、あなたにも迷惑かけてごめんなさい」", "345000311_37": "「いや、仲間を思う君の気持もわかる。\\n そうだな、戻るのは、もう少しここを調査してからにしよう」", "345000311_38": "「いいんですか?」", "345000311_39": "「彼女が言った通り、俺たちは相手のことを何も知らない。\\n まずは相手を見極めてからでも遅くはないだろう」", "345000311_40": "「――それに、俺自身、\\n 気にかかっていることも無くは無いからな」", "345000311_41": "「夜になるまで近くで休めそうな場所を探しましょう」", "345000311_42": "「ありがとう、2人とも」", "345000311_43": "(切歌……、絶対に助けるからね……)", "345000311_44": "「待て、11時の方向にカメラだ。\\n 気をつけろ」", "345000311_45": "「わかりました」", "345000311_46": "「どうなってるのよ、この島は。\\n なんでこんなに監視カメラが仕掛けられてるの」", "345000311_47": "「この島、ウェル博士がいたのだから無人島ではないのだろうが、\\n 周辺に人の住む気配も建物もない……」", "345000311_48": "「あるのは木々と、無数の監視カメラのみ……」", "345000311_49": "「何か重要な物でも隠しているのかもしれないな……。\\n とにかく慎重に進むぞ」", "345000311_50": "「しかし、これだけの数ともなれば、全てを把握しつつ、\\n 見つからずに進むのは難しいと思うのですが」", "345000311_51": "「いや、問題無い」", "345000311_52": "「俺の装備なら、カメラから発信されている微弱な電波を\\n 特定し、位置を把握することが可能だ」", "345000311_53": "「なるほど、それで先ほどから的確な指示を……」", "345000311_54": "「戦闘においては、君たちほど役には立たないからな。\\n こういったところで活躍させてもらおう」", "345000311_55": "「いえ、ここへ来るまでも、\\n 相当な力添えをいただき、助かっています」", "345000311_56": "「フッ、それはよかった」", "345000311_57": "「それはそうと……」", "345000311_58": "「……何か?」", "345000311_59": "「いや、先ほどまで焦っていて気がつかなかったが、\\n 君はこういった場所に慣れているのか?」", "345000311_60": "「俺が知らせる前にカメラを次々と見つけていくとは……」", "345000311_61": "「S.O.N.G.や翼のパパさんからの指令で\\n 潜入みたいなことをしていたからかもしれません」", "345000311_62": "「そんなことをしていたのか……」", "345000311_63": "「それだけではないだろう。\\n 時には怪盗となり、悪の屋敷に潜入したこともあると聞いたぞ」", "345000311_64": "「ええッ!?」", "345000311_65": "「怪盗……?\\n 君の仕事は、一体なんなんだ?」", "345000311_66": "「そ、それは……秘密です。\\n 守秘義務的なアレです」", "345000311_67": "「怪盗は正体を明かせないからな」", "345000311_68": "「なるほどな……」", "345000311_69": "「翼、ちょっと黙って。\\n そして、そこも納得しないで」", "345000311_70": "「まったく、こんな時に……」", "345000311_71": "(フッ、どうやらだいぶ調子が戻ってきたようだな)", "345000311_72": "「……この辺り、おかしいわね」", "345000311_73": "「ああ、カメラの数が他の場所と比べて多すぎる。\\n よほど大切なものがあるのだろうな」", "345000311_74": "「何より、これを見てくれ。\\n 暁切歌が持っている通信機の反応が強くなっている」", "345000311_75": "「進む方向は間違っていないということね」", "345000311_76": "「あれはッ!?\\n あそこに何か大きな建物があるぞ」", "345000311_77": "「……研究所か?」", "345000311_78": "「もしかしたら、ウェルの研究所かもしれないわ。\\n だとしたら、切歌が……」", "345000311_79": "「可能性はあるが、まずは偵察だ。\\n どういう施設かもわかっていないからな」", "345000311_80": "「ええ、そうね」" }