{ "340000721_0": "「残念ながら\\n 魔導師を取り逃がす結果となってしまったな……」", "340000721_1": "「ごめんなさい師匠……、もしもあの時、\\n みことちゃんの手を掴めていたら……」", "340000721_2": "「わたしもです。みことちゃんと話すことができたのに、\\n わかってもらうことができなかった……」", "340000721_3": "「必ずしも思うように事が運ぶばかりじゃない。\\n それに、これが最後のチャンスというわけでもない」", "340000721_4": "「そうですね。\\n 気になるのは、あの少女のことですが……」", "340000721_5": "「今、緒川に調査を依頼している。\\n まもなく素性も明らかになるだろう」", "340000721_6": "「アーテルさんを護ろうとしてたらしいけど、\\n どういう関係なのかな」", "340000721_7": "「魔導師の協力者なのか、操られているのか……。\\n 現状では不明だ」", "340000721_8": "「今どうしているのか、心配です……」", "340000721_9": "「見つかった時にすぐ対処できるように、\\n 今はできることをやらんとね」", "340000721_10": "「うん……」", "340000721_11": "「そういうことなので、今できること、それは自己紹介。\\n キリエ・フローリアンです、よろしくね」", "340000721_12": "「こっちが姉のアミティエ・フローリアンです。\\n アミタって呼んであげてください」", "340000721_13": "「わたしたちは、リンディさんに助っ人として呼ばれてきました。\\n 戦闘雑用、なんでもこなしますッ!」", "340000721_14": "「よろしくお願いします」", "340000721_15": "「……取り逃したアーテルは、\\n さらに機械獣を強化し量産しているでしょうね」", "340000721_16": "「戦力が増えることはこちらとしても助かる。\\n 状況を考えると、1人でも多いほうがいいからな」", "340000721_17": "「2人はエルトリア出身で、戦闘技術だけでなく、\\n 『フォーミュラ』という術式武装にも精通しているのよ」", "340000721_18": "「それともう1つ、2人を派遣したのには\\n 理由があるの」", "340000721_19": "「理由? どういうことですか?」", "340000721_20": "「その件については、良い報告ができるまで\\n 待っていてもらえるでしょうか」", "340000721_21": "「アミタさんがそう言うなら、楽しみに待たせてもらいます」", "340000721_22": "「先ほどは、響くんたちを護ってくれて感謝する。\\n これからよろしく頼む」", "340000721_23": "「はい、しばらくこちらでお世話になります」", "340000721_24": "「ただいま戻りました」", "340000721_25": "「戻ったか。首尾は?」", "340000721_26": "「少女の素性について、調べるのはとても簡単でした。\\n 悪い意味で彼女の情報は手に入りやすかったので」", "340000721_27": "「悪いって……」", "340000721_28": "「調査の結果を聞かせてもらおうか」", "340000721_29": "「はい。彼女の名前は夢野みことです」", "340000721_30": "「夢野、みことちゃん……」", "340000721_31": "「有名なのは彼女の父親です。\\n すでに故人なのですが――」", "340000721_32": "「職業は科学者だったのですが、本気で魔法を信じていた\\n ということで、学会からは異端者として扱われていたようです」", "340000721_33": "「まさか、この世界に魔法の存在を知る人が?」", "340000721_34": "「いえ、そちらの世界の魔法ではなく、我々の世界でフィクション\\n に描かれる、いわゆる不思議な力のことだったようです」", "340000721_35": "「本業の研究を行う傍ら、\\n 魔法の存在を究明しようとしていたということです」", "340000721_36": "「ただ、信じるといっても、魔法の存在を妄信していた\\n のではなく、存在を否定しない、というスタンスだったとか」", "340000721_37": "「曰く、科学にも、魔法の存在の余地を残していた\\n 方が面白いじゃないか、と――」", "340000721_38": "「科学者さんやのに魔法を信じたいなんて、\\n ずいぶんとユーモアのある方だったんやなあ」", "340000721_39": "「また、本業の研究の方にその思想を\\n 持ち込むことは無かったようです」", "340000721_40": "「実際、研究していたのは至ってまじめで実用的な、\\n 金属材料系の分野だったそうですよ」", "340000721_41": "「魔法の研究を本業にしていたというわけではないんですね」", "340000721_42": "「母親は早くに亡くなっていましたが、そんな父親のもとで\\n 夢野みことさんは幸せに暮らしていたようです」", "340000721_43": "「しかし、数年前。父親の研究室で大規模な事故が発生し、\\n 父親を含め大勢が亡くなったことで、悲劇は始まりました」", "340000721_44": "「魔法を信じていたことをマスコミに曲解され、\\n 面白おかしく取り上げられてしまったのです」", "340000721_45": "「事故の原因がすべて、\\n 頭のおかしいマッドサイエンティストによるものだと……」", "340000721_46": "「ひどい……」", "340000721_47": "「人々の非難の目は、当然……」", "340000721_48": "「はい、1人残された娘に集まりました」", "340000721_49": "「そのことで学校内だけではなく、彼女を引き取った親戚からも、\\n 酷い扱いを受け、怪我をすることも多かったようです……」", "340000721_50": "「その状況って……」", "340000721_51": "「うん……。\\n いつかのわたしにそっくりだ……」", "340000721_52": "「じゃあ、みことちゃんは、ずっと独りで……」", "340000721_53": "「あなたにはわからないよッ!」", "340000721_54": "「え……」", "340000721_55": "「家族も、友達も……、どんなに望んでも手に入らなかった\\n ものを平気で持ってるあなたにはわからないッ!」", "340000721_56": "「わたしは、アーテルと行く。\\n わたしが、アーテルを護るんだ……ッ!」", "340000721_57": "「わたしは、みことちゃんの気持ち、\\n 全然わかっていなかったんだ……」" }