{ "364000811_0": "せめて人として死ねたなら", "364000811_1": "「…………」", "364000811_2": "「これ……は……」", "364000811_3": "広い空間に、無数の培養槽が並んでいる……", "364000811_4": "その中に浮かんでいるのは、裸にされた、人々の身体。\\n培養槽の数と同じだけ、びっしりと……", "364000811_5": "普通の人、身体の一部が怪物化している人、ほとんど怪物な人。\\n身体がちぎれている人、溶けている人、肥大化している人……", "364000811_6": "みんな身体中に管が繋がれて、\\nその反対側が機械に繋がっている……", "364000811_7": "死んで……いない。確かに生きている。\\nただ、全員虚ろな目をして虚空を見つめている……", "364000811_8": "こんなの、断じて治療じゃない。\\nこれは、実験だ……ッ!", "364000811_9": "生きたまま身体の自由を奪って管に繋いで、\\n反応を調べて……", "364000811_10": "こんなの、\\n電極を刺されて豆電球を光らせるレモンと何が違うのッ!?", "364000811_11": "「こんなの……、", "364000811_12": " 酷すぎる……ッ!!」", "364000811_13": "「うぅ……ッ!」", "364000811_14": "「報告書の画像で見覚えが……あります。\\n あの人たちは、アプトン社で治療を受けているはずの……」", "364000811_15": "「こんな、こんなことって……ッ!」", "364000811_16": "「これが真実よ。陽の当たる場所からは決して見えない、\\n 残酷な真実……」", "364000811_17": "「ここで行われている怪物化の人体実験は、\\n わたくしめらに施されたものよりさらに不完全であります」", "364000811_18": "「体内にもぐりこんだ怪物の因子は、\\n 次第に身体と意識を蝕み、その人間性を奪い去る……」", "364000811_19": "「しかも使い物にならなくなって廃棄するまでは、被験体の\\n データを取り続けるため、こうやって生かし続けている」", "364000811_20": "「アプトン社が治療に前向きだなんて嘘っぱちよ」", "364000811_21": "「だから、あなたたちは怪物化した人たちを……」", "364000811_22": "「…………」", "364000811_23": "「わたしたちもかつて実験体だった。\\n 人ならざる者として蔑まれ、人の身を蝕まれる苦痛を味わった」", "364000811_24": "「それでも、生き延びて自由の身となったッ!\\n 2人がいたからこそ手繰り寄せた奇跡だったんだゼ……ッ!」", "364000811_25": "「そして知ったのであります。わたくしめらを苦しめた怨敵が、\\n 新たな怪物を作っているという情報を」", "364000811_26": "「その噂を辿って日本へと追ってきたのであります」", "364000811_27": "「怪物が作られているという情報は正しかったんだゼ。\\n ここを突き止めるまでに、なかなか苦労させられたけどな」", "364000811_28": "「不完全に怪物化した人たちを終わらせてあげていたのは\\n 同じ怪物とされた者のよしみよ」", "364000811_29": "「明日を救うことができないのなら、\\n せめて尊厳を護ってあげたいって」", "364000811_30": "「あなたたちに、分かってもらうつもりはないけれど」", "364000811_31": "「明日を救うことができない……」", "364000811_32": "「それなら、あたしたちが今までやってきたことは\\n 全部間違って……」", "364000811_33": "「ようこそいらっしゃいました。\\n ですが視察していただくルートはここではないのですが……」", "364000811_34": "「あ、あなたは……」" }