{ "302000821_0": "「何でこんなところに……?」", "302000821_1": "「落ち着くのさ。ったく、こんなとこまで着いてきて」", "302000821_2": "「…………」", "302000821_3": "「あたしでないあたしが重圧なのか、って聞いたよな……」", "302000821_4": "「ええ」", "302000821_5": "「……わからない。だって向こうのあたしは、\\n 翼にどう接してどう関わっていたのかわからないんだから」", "302000821_6": "「……」", "302000821_7": "「あたしはあたしだ。向こうのあたしじゃないし、\\n あたしにとっての翼はこっちの翼だけだ」", "302000821_8": "「だけど、ダブるんだ……」", "302000821_9": "「翼は翼で、確かにあたしの知っている翼なんだよ。\\n でも、あたしの翼はもう……」", "302000821_10": "「そっちの翼を翼として受け入れたら、死んだ本当の翼はどうなるんだ?」", "302000821_11": "「別人なんだ、そう思っても思い切れない」", "302000821_12": "「あたしの中の翼が、消えてしまうのが怖いんだよ……」", "302000821_13": "「……だから翼に余所余所しくしてるの?」", "302000821_14": "「……あいつは翼じゃない。そう思い続けないと、\\n あたしは翼を忘れてしまう……」", "302000821_15": "「……あなたの中の翼との1番の想い出って何なのかしら?」", "302000821_16": "「ツヴァイウィングとして、2人で唄った事だ。\\n 翼の横で、思いっきり唄った事……」", "302000821_17": "「……知ってる? 翼は今、向こうでは日本を飛び出して、\\n 世界に向けて歌を唄っているわ」", "302000821_18": "「わたしも向こうじゃちょっとしたアーティストなんだけど、\\n 何度か翼とコラボユニットを組んだりもしてるの」", "302000821_19": "「翼と……コラボ?」", "302000821_20": "「そうよ。同じステージで、デュエットソングを唄ったわ。\\n 世界的な歌の祭典でね」", "302000821_21": "「……」", "302000821_22": "「あの子の歌の才能は本物よ。階段を駆け上がるように、\\n 世界的なアーティストへと成長して来ている」", "302000821_23": "「わたしはそんなあの子と唄えるのが楽しい、\\n 唄う度に、次もまた一緒に唄いたいと思ってる」", "302000821_24": "「……ああ。そうだろうな」", "302000821_25": "「……唄いたくないの? あなたは一緒に」", "302000821_26": "「――ッ!?」", "302000821_27": "「翼は翼よ。あの歌は唯一無二。\\n だからみんなあの子に惹かれる」", "302000821_28": "「こちらの翼は亡くなったかもしれない、でも翼に偽者も本物も\\n 無いわ。翼が歌を捨てない限り、全て本物の翼よ」", "302000821_29": "「もう一度聞くわ。あなたは翼と唄いたくないの?」", "302000821_30": "「唄いたい……唄いたいに決まってんだろッ! だけどッ!\\n あたしはもう……戦い以外の歌を無くしちまったんだッ!」", "302000821_31": "「そんなあたしが、どうして翼の横に立てるッ!\\n あいつの横で唄う資格なんて、もう無いんだよ……」", "302000821_32": "「……」", "302000821_33": "「――マリアくん、聞こえるか?\\n ん、奏も一緒か。ちょうどいい」", "302000821_34": "「……はい」", "302000821_35": "「ノイズの反応を検知した。\\n 急ぎ、ランデブーポイントまできてくれ」", "302000821_36": "「了解したわ」", "302000821_37": "「……行きましょうか」", "302000821_38": "「……ああ、怒鳴って悪かったな……」", "302000821_39": "「気にしないで。わたしが焚き付けたのだから、\\n あなたは悪くないわ。でもね、あなたは一つ間違えてる」", "302000821_40": "「……間違えてる?」", "302000821_41": "「――歌を失うことなんて無いわ。あなたは忘れているだけ。\\n 胸の歌は、何があっても無くなる事なんて無いんだから……」" }