{ "375000711_0": "モルペウスの花探索紀行", "375000711_1": "「切ちゃんッ! 切ちゃんッ!」", "375000711_2": "「落ち着けッ!\\n もう街に着いたから」", "375000711_3": "「ムーンソングまであとわずかですッ!」", "375000711_4": "「やっほーッ!\\n あなたたち、無事に戻ったのねッ!?」", "375000711_5": "「ペンタスの話は聞けた――」", "375000711_6": "「――見て分らないのッ!?\\n 切ちゃんが負傷したのッ!」", "375000711_7": "「悪いが今は通してくれ」", "375000711_8": "「あ、ああ……」", "375000711_9": "「はーい、退いて退いてーッ!」", "375000711_10": "「……大丈夫か?\\n 容体の方はどうだ?」", "375000711_11": "「一応、治療は終わった……。\\n 意識が戻れば、ひとまず大丈夫だと思う」", "375000711_12": "「ほッ……よかったです」", "375000711_13": "「この状況の何がよかったのッ!?」", "375000711_14": "「いや……その……」", "375000711_15": "「落ち着けって」", "375000711_16": "「落ち着いてられる訳ない。転送陣での襲撃の場には、\\n 切ちゃんにこんな傷を付けられるヴァイラはいなかった」", "375000711_17": "「ヴァイラ以外に誰かがいたってのかよ?」", "375000711_18": "「それは分からない。確認もできなかったけど……。\\n 実際に切ちゃんは大ダメージを受けて……」", "375000711_19": "「いったい何が起こったのッ!?」", "375000711_20": "「……あたしにも分からない」", "375000711_21": "「…………」", "375000711_22": "「仲間が大変な時にすまない。\\n お前たちを出迎えたプレイヤーたちが狼狽しているんだ」", "375000711_23": "「簡単にでもいいから、事情を教えてもらえないかな?」", "375000711_24": "「うるさいッ! 今はそれどころじゃ――」", "375000711_25": "「他のプレイヤーたちも、脱出の手がかりが欲しくて\\n 必死なんですよ……」", "375000711_26": "「そんなの、放っておけば――」", "375000711_27": "「冷静に考えろ。もし大勢のプレイヤーが押しかけてきたら、\\n 騒ぎになって、あいつもゆっくり休めないだろ……」", "375000711_28": "「――ッ!」", "375000711_29": "「あいつのことを最優先に考えた結果だ。\\n あたしが出て、事情を説明してくる」", "375000711_30": "「……分かった。\\n お願い……」", "375000711_31": "「クリスさんッ! 僕も行きますッ!」", "375000711_32": "「――と、まぁ簡単に説明すると、こんなとこだ」", "375000711_33": "「現ラスボスのカロンを倒せば、全員ログアウトできる。\\n オレたちの読みは正しかったんだな」", "375000711_34": "「でも、ゲームのラスボスが暴走してモーフワールドを\\n 乗っ取っているなんて、まるで超常災害じゃないッ!」", "375000711_35": "「まるで……じゃありません。\\n これは、まさに超常災害なのです」", "375000711_36": "「それなら、待っていれば政府がなんとかしてくれるだろうか?」", "375000711_37": "「いや、異常が起きているのはこの世界の中だ。\\n きっと外からじゃどうすることも……」", "375000711_38": "「それに、カロンがモルペウスの花を手に入れた瞬間詰む」", "375000711_39": "「待ってる時間も無駄ってことね……」", "375000711_40": "「先んじて、モルペウスの花を入手すべきです」", "375000711_41": "「まぁ、そうだなッ! モルペウスの花を手に入れれば、\\n カロンを倒すことができるかもしれないしなッ!」", "375000711_42": "「そうねッ! 私たちも全面的に協力するわッ!\\n で、いつ出るのクリス……いえ、クリスさんッ!」", "375000711_43": "「いや、待ってくれよッ!\\n 今、あたしの仲間が1人、負傷して寝込んでるんだ」", "375000711_44": "「だが、時間が無いんだろう? 花の入手も、\\n カロンの討伐もクリスさんたちが一番可能性が高い」", "375000711_45": "「そう言われても……」", "375000711_46": "「私たちにも、外の世界に残してきた家族や恋人がいるのよ。\\n 一刻も早く帰って、無事な姿を見せてあげたいのッ!」", "375000711_47": "「…………。\\n まぁ、一旦仲間と相談させてくれ」", "375000711_48": "「戻った。\\n あいつの様子はどうだ?」", "375000711_49": "「治療は進めてる。でも、本当に死ぬ寸前のダメージだった。\\n そんなにすぐ治る訳ない」", "375000711_50": "「そっか、悪い。……なぁ、あいつが回復し次第、\\n モルペウスの花を探しに行かないか?」", "375000711_51": "「…………」", "375000711_52": "「クリスさんッ! それだと手遅れになってしまいますよ」", "375000711_53": "「そうは言うけどよ……」", "375000711_54": "「さっきのプレイヤーたちから、家族や恋人を永遠に奪うことに\\n なってもいいんですか?」", "375000711_55": "「それは――ッ!」", "375000711_56": "「ところで僕、ちょっと混乱してきたんですけど……」", "375000711_57": "「ゲーム内でアバターが怪我を負った状態で、ログアウトしたら、\\n 外のプレイヤーって同じ怪我をしてるんですかね?」", "375000711_58": "「いや、そりゃないだろ。ゲーム内の怪我は、\\n ログアウトしたら奇麗さっぱり治ってるんじゃないか?」", "375000711_59": "「――ッ! それは切ちゃんを置き去りにして、\\n 花を探しに行くってこと?」", "375000711_60": "「えッ!? いや違ッ!", "375000711_61": " ――そういう意味じゃなくて……」", "375000711_62": "「あなたの気持ちはよく分かった。\\n 行きたいなら1人で勝手に行けばいい」", "375000711_63": "「わたしは切ちゃんを置き去りになんて絶対にしない」", "375000711_64": "「なら、ダメージが回復してから一緒に――」", "375000711_65": "「ううん、治ったとしても、\\n わたしたちは花探しにはいかない」", "375000711_66": "「おいッ! そりゃさすがに……」", "375000711_67": "「もう二度と、切ちゃんを危険な場所に連れて行ったりしないッ!」", "375000711_68": "「お前のせいで、誤解されちまったじゃねぇかッ!\\n 大体、なんだってヒソヒソしてやがったんだよッ!」", "375000711_69": "「いやぁ、すみません。\\n 僕、いろいろあったせいか、疲れて混乱してまして……」", "375000711_70": "「……まぁいい。\\n 早いとこ、あいつの誤解を解かないとな……」", "375000711_71": "「今行けば、調さんはより頑なになりますよ。\\n 調さんは、切歌さんの安全を一番に考えているんですから……」", "375000711_72": "「でも、あいつ絶対傷ついてるぞ。\\n あいつのあんな顔、放っておけるかよッ!」", "375000711_73": "「違いますよクリスさん、放っておくんじゃなくて、\\n 今はそっとしておいてあげるべきだと思います」", "375000711_74": "「調さんが冷静になる時間を有効利用して、\\n モルペウスの花を取りに行きましょう」", "375000711_75": "「…………」", "375000711_76": "「結構な大所帯になっちまったな……」", "375000711_77": "「ええ、実に壮観ですねッ!」", "375000711_78": "「クリスさん、いろんなプレイヤーやNPCを助けてたでしょ?\\n そんなあなたの行動を見て、こいつら立ち上がったのよ」", "375000711_79": "「そんな特別なことじゃない」", "375000711_80": "「いや、これまでみんな誰かが解決しくれるだろうって\\n 人任せな気分でいたんだ」", "375000711_81": "「だけど、あなたが街やフィールドで、赤の他人に\\n 救いの手を差し伸べるのを見て、それじゃダメだと思ったのよ」", "375000711_82": "「おいッ! そんな大層ことじゃないんだから、\\n 恥ずかしいこと言うなッ!」", "375000711_83": "「今やクリスさんは、みんなの憧れであり希望なのよ。\\n 恥ずかしがってちゃダメ。堂々としてくれなきゃッ!」", "375000711_84": "「そうだッ!\\n なぁ、みんなッ!」", "375000711_85": "「おぉぉぉぉぉぉぉッ!」", "375000711_86": "(なんだこのノリはッ!", "375000711_87": " いいから早く到着してくれよぉ……)", "375000711_88": "「――クリスさんッ!\\n 目標の洞窟が見えてきたわよッ!」", "375000711_89": "「ああ、地図の通りだ。\\n その洞窟のどこかに、モルペウスの花があるはずだ」", "375000711_90": "「了解だ。お前らッ!\\n クリスさんのために、モルペウスの花を見つけ出すぞッ!」", "375000711_91": "「おおーーッ!」", "375000711_92": "「だからそのノリやめてくれって……」", "375000711_93": "「それも、慕われてる証拠よ」", "375000711_94": "「ここは……、まさかヘルツォーク地下洞窟か」", "375000711_95": "「なんだそりゃ?」", "375000711_96": "「来月実装公開予定だった、新たな高難度エリアよ。\\n いつの間にか入れるようになってたのね……」", "375000711_97": "「しかし場所がこことなると、かなりの難易度じゃないか?」", "375000711_98": "「どちらにしても、あたしらは進むしかないんだ。\\n 気を引き締めていくぞッ!」" }