{ "332000621_0": "「まずは、本作戦開始前後の状況からだが……、\\n どんな些細なことでも構わん、知っていることを教えてくれ」", "332000621_1": "「はい、ええと……館の作戦が開始する前だと……、\\n クリスとホラー映画のビデオを見て切歌ちゃんが怖がってました」", "332000621_2": "「でも、響とクリスが出発した翌日に、3人で行った訓練では、\\n 特に変わった感じはなかったです」", "332000621_3": "「その後、調査部の人が呪いの館から戻らなくなり、\\n わたしたち3人で最初の調査に行くことになりました」", "332000621_4": "「ふむ……やはり何か問題があったとするなら、\\n 作戦開始後のようだな」", "332000621_5": "「関係があるかどうかはわかりませんが、\\n 作戦初日は、館の中であの女の子の姿を見かけました」", "332000621_6": "「ああ。報告ではすぐに姿を消したとあるが」", "332000621_7": "「直接の接触はなかったんですね?」", "332000621_8": "「はい、一切ありません。\\n こちらが近付く前に奥へ走って行っちゃったから……」", "332000621_9": "「見失って、近くの部屋を探している時に、\\n 人形たちに襲われた、と……」", "332000621_10": "「はい。館の中で最初の交戦が、その時です。\\n そしてこの日は、交戦後すぐに撤退しました」", "332000621_11": "「ここまで聞いた限りでは、\\n 問題となる行動は見受けられませんね」", "332000621_12": "「では、二度目の任務で何か異変は?」", "332000621_13": "「いえ、特には……」", "332000621_14": "「館の構造が前回と変わっていることと、\\n 館の外観と内部の広さに矛盾があることに気づいて……」", "332000621_15": "「この日は前回よりも人形との交戦が多くて、切り上げました」", "332000621_16": "「例の少女との遭遇はあったんでしょうか?」", "332000621_17": "「いえ……確か、この日はありませんでした」", "332000621_18": "「訓練中に2人が体調不良を訴えたのは、その次の日か」", "332000621_19": "「はい、そうです」", "332000621_20": "「訓練中に集中できていなかったので理由を尋ねたところ、\\n 変な夢を見たせいで寝苦しくて、睡眠不足だと言ってました」", "332000621_21": "「念のためメディカルチェックも行ったのですが、\\n この段階では身体的な変調は見受けられなかったです」", "332000621_22": "「その日は検査の後、すぐに帰宅させたんだったな?」", "332000621_23": "「はい。でも次の日の昼、友達といたときに2人が来て、\\n やっぱり寝付けなかったと言ってました」", "332000621_24": "「2日続けてまともに眠れなかったことになるのね。\\n 一体何が原因でそんなことに……」", "332000621_25": "「そう言えば、板場さんが呪いじゃないかって、言ってました。\\n もちろん、冗談交じりでしたけど」", "332000621_26": "「呪い、ですか」", "332000621_27": "「気になることでも?」", "332000621_28": "「寝不足が夢や精神的なことに起因しているなら……、\\n なんらかの呪いを受けたという可能性も考えられますね」", "332000621_29": "「精神に働きかけて、\\n 本人の意思に関係なく行動を操ることも――」", "332000621_30": "「呪いならば可能だということか」", "332000621_31": "「ただし本当に呪われたとすると、\\n きっかけがあるはずですが……」", "332000621_32": "「きっかけ?」", "332000621_33": "「はい。呪術とは超自然的な作用を有すると信じられる呪文や所作、\\n もしくはなんらかの物を媒介にして他者に危害を加えるものです」", "332000621_34": "「今回の場合、被害を受けた『他者』――つまり被害者は\\n 行方不明となった人々であり、調さんと切歌さんも含まれます」", "332000621_35": "「呪術というものも突き詰めれば、錬金術と同じく体系化した技術の\\n 1つです。触媒やきっかけ無くして発現するものではありません」", "332000621_36": "「普通に考えれば、館に入ったことがその呪いのきっかけとも\\n 取れるが……」", "332000621_37": "「はい。しかし未来さんが無事なことを考えると、入っただけで\\n 呪われたというのは考えにくいです」", "332000621_38": "「きっと被害者たちに共通する、他のきっかけがあるのでは\\n ないでしょうか」", "332000621_39": "「呪いのきっかけ――引き金となる何かが館内にあり、\\n それと気づかずに発動させてしまった――」", "332000621_40": "「といったところではないでしょうか」", "332000621_41": "「異変は1回目ではなく2回目の調査の晩から起きています。\\n 引き金があったとしたら、その時の調査が最も怪しいですね」", "332000621_42": "「館内で調さんと切歌さんに共通し、未来さんには当てはまらない、\\n そういった何かはありませんでしたか?」", "332000621_43": "「わたしにだけ当てはまらない何か……?」", "332000621_44": "「神獣鏡の特性で、その呪いを跳ね除けた可能性はどうかしら?」", "332000621_45": "「可能性はあります。ですが、呪いというものは発動条件を\\n 整えるのが難しい分、それが揃えば強力な力を発揮するんです」", "332000621_46": "「仮に神獣鏡がそれを跳ね除けたとしても、未来さんがなんの\\n ストレスも感じていない、といったことは考えにくいですね」", "332000621_47": "「問題は、神獣鏡の特性で呪いから逃れられたのならば、\\n 未来くんに限っては今後も心配は無いが――」", "332000621_48": "「もしそうでないなら、未来さんも館での行動次第では\\n 同様に呪われてしまう可能性があるということですね」", "332000621_49": "「ああ。それだけは絶対に避けねばならん」", "332000621_50": "「よし、では、状況整理はここまでにしよう」", "332000621_51": "「エルフナインくんは通信関係の対策を進めてくれ」", "332000621_52": "「わかりました。すぐ取りかかります」", "332000621_53": "「未来くんは任務まで十分に身体を休めておいてくれ」", "332000621_54": "「はい、了解しました」", "332000621_55": "「聞こえるか?」", "332000621_56": "「はい、通信状態は良好です」", "332000621_57": "「そちらは館内の画像確認できていますか?」", "332000621_58": "「ばっちりモニターできているよ」", "332000621_59": "「ギアからの情報フィードバックも良好。\\n 戦闘管制はまかせておいてね」", "332000621_60": "「はい、心強いです」", "332000621_61": "「周辺の情報も、生体反応を含めモニタリングしています。\\n 未来さんはご自身で知覚できる状況に集中してください」", "332000621_62": "「うん、わかった」", "332000621_63": "「よし。それでは慎重に進んでくれ」", "332000621_64": "「今回は未来くん1人、増援も見込めん。\\n 無駄な戦闘は極力回避の方向で行く。いいな?」", "332000621_65": "「了解しましたッ!」", "332000621_66": "「見て取れる範囲に異常はありません」", "332000621_67": "「まわりに部屋が幾つかありますが、中は調べますか?」", "332000621_68": "「周囲に生体反応ありません」", "332000621_69": "「イガリマとシュルシャガナの反応も、\\n 恐らく、まだかなり遠いかと」", "332000621_70": "「もっともこれは、館の外部座標と内部空間座標の\\n 相対性が保持されているという前提の推定ですが……」", "332000621_71": "「その前提で考えるしかあるまい。\\n 生体反応の無い部屋は無視してギアの反応の方角へ誘導してくれ」", "332000621_72": "「はい。ではそのまま直進してください」", "332000621_73": "「了解しました」" }