{ "329001111_0": "友との約束", "329001111_1": "「だから勝手をするなといつも言ってるワケダッ!」", "329001111_2": "「オレはサンジェルマンの指揮に従ったまでだッ!」", "329001111_3": "「そもそも、お前の指揮下に入った覚えはないッ!\\n 故にお前に言われる筋合いもないッ!」", "329001111_4": "「だが位階でいえば全然わたしの方が上なワケダッ!」", "329001111_5": "「位階と指揮系統は別の問題だッ!」", "329001111_6": "「噛み合わないねえ、どうにも」", "329001111_7": "「はい。少しは相互理解が深まるかと、\\n 我々の任務に同行させたのですが……」", "329001111_8": "「どっちかって言うと、逆効果?」", "329001111_9": "「任務自体は非常に真面目にこなすのですが……」", "329001111_10": "「いかんせん、キャロルに命令以外での\\n 協調性が著しく欠けている有様でして……」", "329001111_11": "「まあプレラーティも、いちいちこの前の事件のことで\\n キャロルを煽ったりするからいけないのよねえ」", "329001111_12": "「馬鹿馬鹿しいッ!\\n これ以上付き合ってられるかッ!」", "329001111_13": "「ってッ! ちょっと待ちなさいってッ!」", "329001111_14": "「あんなやつほっとくワケダッ!」", "329001111_15": "「あーあ、本当に出ていっちゃったわ」", "329001111_16": "「困ったものだねえ、相変わらず。\\n 変わらないものだよ、何年経っても」", "329001111_17": "「何年? どういう意味ですか?」", "329001111_18": "「いやなに……。\\n こっちの話さ、あくまでも」", "329001111_19": "(苦労させられるよ、君の娘にはね……)", "329001111_20": "「どうぞ」", "329001111_21": "「おじゃまさせてもらうよ」", "329001111_22": "「悪かったね、突然押しかけて」", "329001111_23": "「なに、君の来訪が突然なのは、いつものことさ」", "329001111_24": "「その後どうなんだい、解析機の進捗は?」", "329001111_25": "「もう一歩、と言ったところかな」", "329001111_26": "「分解の構造については完全に理解できた」", "329001111_27": "「アルカ・ヘストを応用して、\\n 万象分解作用を持たせることにも成功したよ」", "329001111_28": "「素晴らしいね、それは」", "329001111_29": "「ああ。だけど、まだまだ作用の安定化と、\\n 可逆性の担保が難しくてね」", "329001111_30": "「なるほど、\\n 朗報だよ。そんな君に」", "329001111_31": "「朗報?」", "329001111_32": "「ああ、見つけたんだよ。僕たち協会もね。\\n 先史文明期の遺跡から、君の言う、設計図を」", "329001111_33": "「なッ!? 本当かい?」", "329001111_34": "「ああ、だけどまだ手元には届いていない。\\n 残念ながらね」", "329001111_35": "「持ってくるよ。次来るときに、必ず」", "329001111_36": "「それは楽しみだ。でも、いいのかい?\\n いくら協会のトップとはいえ、そんな勝手をして」", "329001111_37": "「信じているからね、協会の利益に繋がると。\\n 君の研究は」", "329001111_38": "「アダム……助かるよ」", "329001111_39": "「期待しているよ、大いに。\\n 錬金術師として、そして君の友としてもね」", "329001111_40": "「ああ、頑張るさ。\\n まだまだ、理想には程遠いからね」", "329001111_41": "「ところで。\\n 考え直してくれたかな、例の件は?」", "329001111_42": "「例の件?」", "329001111_43": "「住まいのことさ、君たちの」", "329001111_44": "「そろそろどうだい、僕のところへ来ては?」", "329001111_45": "「ああ、その話か……」", "329001111_46": "「誘いはありがたいが、遠慮するよ。\\n ここでの生活が気に入っているんでね」", "329001111_47": "「うちの可愛い娘も、\\n ここが大のお気に入りらしいから」", "329001111_48": "「ふむ……そうか。\\n 仕方ないね、残念だけど」", "329001111_49": "「ところでだ」", "329001111_50": "「会わせてくれないかな、そろそろ。\\n 君の宝、自慢の娘とやらにね」", "329001111_51": "「なら、娘が起きているときに来てくれないとね」", "329001111_52": "「構わないがね、寝顔でも。\\n こちらとしては」", "329001111_53": "「いやいやッ! とんでもないッ!」", "329001111_54": "「天使のような娘の寝顔は、どんな男にも見せられないよ。\\n たとえ友人である君相手でもね」", "329001111_55": "「やれやれ。\\n とんだ親馬鹿だね、これは」", "329001111_56": "「フ……まあいいさ。\\n 会えるだろう、いずれね」", "329001111_57": "「もう行くのか?」", "329001111_58": "「ああ。忙しくてね、色々と」", "329001111_59": "「また来るよ。近いうちにね」", "329001111_60": "「ああ、そうだった」", "329001111_61": "「伝えたいことがあったんだよ、もう1つ。前々からね」", "329001111_62": "「なんだい、改まって」", "329001111_63": "「気をつけるんだよ、身辺に」", "329001111_64": "「激化してるからね、異端審問が」", "329001111_65": "「ああ……確かに、近くでもあったみたいだな」", "329001111_66": "「あくまでも異端なんだよ、錬金術は。\\n 僕らの操る技というものは」", "329001111_67": "「迫害を受けることもある、表の者に見られれば」", "329001111_68": "「だから気を付けるんだ、くれぐれもね」", "329001111_69": "「ああ……わかっている」", "329001111_70": "「だが、まだやっているのだろう? 錬金術の施療を」", "329001111_71": "「危ない橋を渡っていることは、重々承知しているさ」", "329001111_72": "「だけど、近くの村には、病気で苦しんでいる人や\\n 戦いに巻き込まれて怪我をした人たちがまだ大勢いるんだ」", "329001111_73": "「この術で、その人たちを少しでも癒せるのなら、\\n 例え、異端と言われようとも続けるつもりさ」", "329001111_74": "「天秤に掛けてもかね、君と、その愛娘の安全と?」", "329001111_75": "「アダム……世の中には秤にかけてはいけないものがある」", "329001111_76": "「良心というやつかな、さしずめ」", "329001111_77": "「さあ……なんと呼ぶのが相応しいのかな」", "329001111_78": "「それを呼ぶべき本当の言葉は、\\n もしかすると、失われているのかもしれないね」", "329001111_79": "「原罪によってかね、それは?」", "329001111_80": "「そこまでは、僕にはわからない」", "329001111_81": "「けれど、人間1人1人が、\\n 心の奥底に残ったその欠片を失わなければ……」", "329001111_82": "「いつか、真実のそれを、\\n 取り戻すことができるかもしれない」", "329001111_83": "「理想家だね、相変わらず、君は」", "329001111_84": "「理想の1つも持たずに\\n 研究なんて雲を掴むような仕事はできないよ」", "329001111_85": "「否定はしないがね、その点は」", "329001111_86": "「……アダム」", "329001111_87": "「なんだい?」", "329001111_88": "「もし、もしもだ。\\n 僕に万が一のことがあったら……キャロルのことを頼む」", "329001111_89": "「不吉な仮定だね、随分と」", "329001111_90": "「あくまで、もしもの話さ」", "329001111_91": "「だがいいのかい、僕なんかで?」", "329001111_92": "「君にしか頼めないよ、こんなことは」", "329001111_93": "「わかった。任せてくれ」", "329001111_94": "(その後――)", "329001111_95": "(それほど日も経たず、処刑された、君は。\\n 異端審問によって)", "329001111_96": "(そして、君が造ろうとした解析機、アルカ・ノイズは――)", "329001111_97": "(娘のキャロルが完成させた、君の遺志を継ぎ。\\n 君の研究資料と、協会が入手した設計図をもとにね)", "329001111_98": "(僕は守るよ、君との約束を)", "329001111_99": "(探して見つけた、君の忘れ形見を)", "329001111_100": "(護ると決めた、君との誓いの下に……)", "329001111_101": "「だが、なかなか骨が折れるね、\\n 友との約束を守り続けるのは」", "329001111_102": "「しかし、必ず護るよ、約束した通りにね」" }