{ "320000611_0": "夕暮れに舞う巫女", "320000611_1": "「ごはんですよー。どうぞ」", "320000611_2": "「…………♪」", "320000611_3": "「食べてるデスね」", "320000611_4": "「そうだね。このウサギさんたち、\\n やっぱり宮司さんのキッシュだけは食べるみたい」", "320000611_5": "「キッシュがおいしいのは確かデスけど、\\n 飽きたりしないんデスかね?」", "320000611_6": "「癖になっているのかもしれませんね」", "320000611_7": "「すごく助けられてるし、もっとたくさんあげよう」", "320000611_8": "「このウサギさんは、できるウサギさんデース」", "320000611_9": "「それに可愛いですし、フワフワが……」", "320000611_10": "「ずっと撫でていたい……」", "320000611_11": "「1日に1回は触らないと、我慢できなくなりそうデース……」", "320000611_12": "「この子たちって、この神社の守り神か何かなんでしょうか?\\n 前に宮司さんが言ってましたけど……」", "320000611_13": "「どうなんデスかね?\\n すごい力があるのは確かデスけど」", "320000611_14": "「この神社はウサギが神使だから、そうかも……」", "320000611_15": "「えッ!?\\n ウサギが紳士なんデスかッ!?」", "320000611_16": "「うん、そうだよ。\\n だからあちこちにウサギの像とかあるんだし」", "320000611_17": "「紳士だとあちこちに像が建てられるんデスね……」", "320000611_18": "「……?」", "320000611_19": "「……あれ? でもこのウサギさんたち、片方はメスデスよ。\\n なのに紳士なんデスか?」", "320000611_20": "「神使にオスメスは関係ないよ?」", "320000611_21": "「ええええッ!? そうなんデスかッ!?\\n 紳士は性別の枠まで超えるんデスね……」", "320000611_22": "「なんだか、噛み合ってるようで噛み合ってない気がします……」", "320000611_23": "「あ、像といえば入り口の狛兎って、どうなったんだろう?」", "320000611_24": "「そういえばそうデスね。……このウサギさんたちが元は\\n 狛兎だったりして。なんたってジェントルマンデスし」", "320000611_25": "「なんでジェントルマン……?\\n でも、いなくなってた狛兎も2羽だったよね……?」", "320000611_26": "「数も合うデスね」", "320000611_27": "「……狛兎が本物のウサギになって、神社を守ってる?」", "320000611_28": "「まさかとは思うデスけど……」", "320000611_29": "「もしかして、哲学兵装なのかも……」", "320000611_30": "「なるほどデスッ!\\n 今回の異常も哲学兵装の呪いって言ってたデスし」", "320000611_31": "「うん……」", "320000611_32": "「でも、そうしたら、\\n なんでこのウサギさんたちだけ、敵にならないんデスかね?」", "320000611_33": "「きっと、良い想いが沢山込められた哲学兵装なんですよッ!」", "320000611_34": "「良い想い……、そういえば、このウサギさんたちからは、\\n なんだかとても懐かしい感じがする……」", "320000611_35": "「そうデスか? アタシは何も感じないデスけど」", "320000611_36": "「わたしも特には……、\\n でも、可愛いから、なんでもいいですッ!」", "320000611_37": "「そうデスね。可愛いは正義デース」", "320000611_38": "「……そうだね」", "320000611_39": "「あ、宮司さん。少しいいですか?」", "320000611_40": "「おや、どうなされましたかな?」", "320000611_41": "「あの、盗難にあった狛兎って、\\n 何か謂れのあるものだったんですか?」", "320000611_42": "「いえ、特別謂れがある、といったわけではありません。\\n ただ、この調神社ではウサギは神の使いとされてましてな」", "320000611_43": "「神社建立から、多くの像が作られましたが、あの狛兎は\\n 一番古くから伝わっていたものなのですよ」", "320000611_44": "「……娘夫婦が暮らしていた頃は、毎日のように磨いてくれて\\n おりましてね。この神社の守り神だから、大事にしたいと」", "320000611_45": "「守り神……」", "320000611_46": "(もしかして、本当に狛兎があのウサギさんたちに?\\n 守り神、という認識が哲学として定義されたんじゃ――)", "320000611_47": "「しかし、やはり言い伝えは正しかったですな。まさかこの神社の\\n ピンチに、本当に神の使いのウサギが現れるとは」", "320000611_48": "「おお、そうだ。今日も供物としてキッシュを焼かなければ」", "320000611_49": "「それにしても、神の使いまで虜にするとは、\\n 私のキッシュも罪作りですな」", "320000611_50": "「はあ……」", "320000611_51": "「時に、よかったら今度、\\n 私の特訓を受けてみるつもりはありませんか?」", "320000611_52": "「特訓って……巫女修行とかですか?」", "320000611_53": "「違いますよ。私のフレンチの技術です。\\n 特にキッシュの焼き方を重点的に」", "320000611_54": "「聞けば、あなたはなかなかの料理の腕をお持ちだとか。\\n ならば、是非ともそちらも伝授したいと思いましてな」", "320000611_55": "「私のキッシュを会得すれば、あのウサギたちもきっと\\n 食べてくれますぞ?」", "320000611_56": "「……うん、それなら教えてほしい」", "320000611_57": "「それはよかった。\\n では後ほど。楽しみにしていますよ」" }