{ "329001011_0": "輝ける想い出のために", "329001011_1": "「サンジェルマンさんッ!」", "329001011_2": "「終わったようだな」", "329001011_3": "「はいッ!\\n サンジェルマンさんたちも無事で良かったですッ!」", "329001011_4": "「お前たちもな」", "329001011_5": "「キャロルも一緒に戻ったワケダね」", "329001011_6": "「…………」", "329001011_7": "「話なら後できちんと聞かせてもらうワケダ」", "329001011_8": "「ああ……わかっている」", "329001011_9": "「それで、世界を壊す歌は、どうなったの?」", "329001011_10": "「大丈夫だ。キャロルがチフォージュ・シャトーのコントロールを\\n 奪い返して、世界を壊す歌を完全に停止させてくれた」", "329001011_11": "「……シャトー内に集積されていたエネルギーも、\\n レイラインへと還流させておいた」", "329001011_12": "「あとは、自然の流れに乗って霧散するだろう」", "329001011_13": "「そう……ならよかったわ。\\n あー疲れたあ……」", "329001011_14": "「それもこれもサンジェルマンさんたちが\\n 世界を壊す歌を抑えていてくれたおかげですッ!」", "329001011_15": "「……そうだな」", "329001011_16": "「なんだ、とたんに浮かない顔して?」", "329001011_17": "「疲れちゃいました? 大丈夫ですか?」", "329001011_18": "「まあ……そういう面も否めないのだが」", "329001011_19": "「なんだ、随分と煮え切らないな」", "329001011_20": "「その、実はね……」", "329001011_21": "「正直言えば、我々の力だけでは\\n あの歌の威力を抑えきれなかったワケダ」", "329001011_22": "「ええッ!?」", "329001011_23": "「本当だ」", "329001011_24": "「じゃあ、どうして無事なんだ?」", "329001011_25": "「いよいよ我々では抑えきれなくなり、\\n 一時は、我々も命を燃やす覚悟を決めたのだが……」", "329001011_26": "「その時、どこからともなく局長が現れて、\\n あのバカみたいな魔力を我々に注ぎ込んできたワケダッ!」", "329001011_27": "「おかげで、歌を留めることができたのだが……」", "329001011_28": "「手伝ってくれたことが、何故そんなに不満に感じる?」", "329001011_29": "「魔力を全開する度に余計なものを見せ付けられる\\n こちらの身にもなってほしいワケダッ!」", "329001011_30": "「あー……」", "329001011_31": "「なんとなく予想はつくが、\\n たぶん深く突っ込まない方が身のためだな」", "329001011_32": "「で、当の局長さんはどこに行ったんだよ?」", "329001011_33": "「あ、ああ」", "329001011_34": "「事態の終息を見届けて急いで帰っていった。\\n 協会の仕事を途中で放り出してきたらしいから」", "329001011_35": "「そっか……残念です。\\n お礼を言いたかったんですけど……」", "329001011_36": "「そうだな……。歌のことだけではない。\\n キャロルのファウストローブについてもな」", "329001011_37": "「あれがなかったら、危なかったですよね」", "329001011_38": "「確かにな……」", "329001011_39": "「ホント、随分と用意のいいこった」", "329001011_40": "「…………」", "329001011_41": "「そういうことなら、後ほど私から伝えておこう」", "329001011_42": "「はい、お願いしますッ!」", "329001011_43": "「今回もご苦労だったな。\\n 疲れは充分取れたか?」", "329001011_44": "「はいッ! ぐっすり寝たらこの通りですッ!」", "329001011_45": "「元気が余りすぎて\\n メーター振り切れてそうなのが約1名いるけどな」", "329001011_46": "「えッ!? それってわたしのこと?」", "329001011_47": "「元気なのは結構ッ!」", "329001011_48": "「とにかく皆、よく無事に帰ってきてくれた」", "329001011_49": "「けど、今回もギリギリの戦いだったみたいね」", "329001011_50": "「まあな」", "329001011_51": "「だが、無事解決できた」", "329001011_52": "「無事解決はいいけど、\\n チフォージュ・シャトーはどうするんだ?」", "329001011_53": "「あんなの、そこらに放っておくわけにはいかないだろ?」", "329001011_54": "「確かに……。我々の世界の廃墟状態の物ならともかく、\\n 何しろこの世界の物は、未だに稼働状態だしね」", "329001011_55": "「チフォージュ・シャトーなら、\\n ダインスレイフと共に錬金術師協会が回収済だ」", "329001011_56": "「ダインスレイフはともかくチフォージュ・シャトーもか?\\n いくらなんでも早すぎるだろッ!?」", "329001011_57": "「あんな大きな物、どうやってッ!?」", "329001011_58": "「それは、企業秘密だ」", "329001011_59": "「ええ……」", "329001011_60": "「やたら執着してるやつがいたから、\\n そいつが何かしたんだろう」", "329001011_61": "「そうかー……、\\n あ、ところで、キャロルちゃんは、今どこにいるんですか?」", "329001011_62": "「彼女の身柄も、既に錬金術師協会預かりになっている」", "329001011_63": "「ああ。元々、そういう約束だったからな」", "329001011_64": "「キャロルちゃん……どうなっちゃうんですか?」", "329001011_65": "「事件の首謀者こそノエルだったが、\\n 世界を壊す歌の準備を元々進めていたのはキャロルだからな」", "329001011_66": "「今回、直接加害者となったノエルに、オートスコアラー\\n それら全てを作ったという事情もあるのよね」", "329001011_67": "「ああ……。それらの事実と、最後に歌を阻止したことを加味して、\\n 責任を追及されることになるだろう」", "329001011_68": "「責任って?」", "329001011_69": "「協会に戻り次第、裁きを受けることになる」", "329001011_70": "「裁きって、もしかしてッ!?」", "329001011_71": "「心配しなくても、死刑などにはならないだろう」", "329001011_72": "「本当ですかッ?」", "329001011_73": "「ああ。キャロル本人が、世界を壊す歌の術式を\\n 再び行おうとする可能性は、極めて低いと思われる」", "329001011_74": "「その上、彼女が長年研鑽してきた錬金術の知識は、\\n 協会としても喉から手が出るほどほしい水準だ」", "329001011_75": "「だから、司法取引などを持ち掛けられる可能性が高いだろう」", "329001011_76": "「よかったあ……」", "329001011_77": "「だけど、ある意味この先、死ぬよりも\\n 辛くて重い償いが続くかもしれないんじゃないのか?」", "329001011_78": "「……ああ」", "329001011_79": "「罪が無くなるわけではないから、長い期間をかけて、\\n 協会で贖罪のために働いてもらうことになるのは間違いない」", "329001011_80": "「でも……死んじゃうより、全然いいですよッ!」", "329001011_81": "「だって生きてさえいれば、\\n 誰だって、いつだって、何度だって、やり直せますからッ!」", "329001011_82": "「ああ……そうだな。\\n そう思いたいものだ……」", "329001011_83": "「ともあれ、これで全て落ち着くところに落ち着いたか」", "329001011_84": "「ああ……やっと一安心だな」", "329001011_85": "「見送りなど、頼んだ覚えはないのだが?」", "329001011_86": "「わたしの方からお願いしたんだ」", "329001011_87": "「キャロルちゃんを協会に連れていく前に、\\n どうしても会わせてほしいって」", "329001011_88": "「なんのために?」", "329001011_89": "「事件の後、ちゃんとお別れが言えなかったから」", "329001011_90": "「くだらない。そんなことのために、わざわざ来たのか?」", "329001011_91": "「くだらなくなんかないよ。\\n 大事なことなんだから」", "329001011_92": "「お前の価値観をオレに押しつけるなッ!」", "329001011_93": "「全く、お前は馴れ馴れしすぎる……」", "329001011_94": "「……はい」", "329001011_95": "「……?」", "329001011_96": "「じゃあ、また会おうね、キャロルちゃん」", "329001011_97": "「なんだ、その手は?」", "329001011_98": "「サヨナラと、また会いましょうの約束の握手」", "329001011_99": "(お前は、こんなオレにも手を差し伸べるのだな)", "329001011_100": "(その太陽の様に眩い瞳で、\\n 真っ直ぐにこちらを見つめて……)", "329001011_101": "(人と人を繋ぐために差しのばす、その手……。\\n 泣いていた迷子を笑顔にさせた、その心……)", "329001011_102": "(お前という存在は、オレのパパの命題を、\\n とうに果たしているのかもしれないな)", "329001011_103": "(だが……オレにはまだ、その手を受ける資格などない)", "329001011_104": "「お前みたいなうるさいやつ、\\n オレは二度とごめんだ」", "329001011_105": "「ええッ? 友達になれたと思ったのに……」", "329001011_106": "「そう簡単に手など握れるか」", "329001011_107": "(そうだ。これまでの過ちを償わぬ内は……)", "329001011_108": "「じゃあ、次に会ったら友達ってことでッ!」", "329001011_109": "「ふんッ!」", "329001011_110": "「はあ……ダメかあ……」", "329001011_111": "「……だが、な」", "329001011_112": "「キャロルちゃん?」", "329001011_113": "「受けた借りは、決して忘れない」", "329001011_114": "「お前からの分も、オレに似たやつからの分もな」", "329001011_115": "「キャロルちゃんに似たって……。\\n もしかして、エルフナインちゃん?」", "329001011_116": "「借りって? え、いつの間に会ったの?」", "329001011_117": "「向こうの世界に帰ったら、あいつに聞け」", "329001011_118": "「じゃあな」", "329001011_119": "「うん……またね、元気でッ!」", "329001011_120": "(これから先、長く辛い道のりが待っているだろう)", "329001011_121": "(けれど、それを通り抜けた先には――)", "329001011_122": "(誰かと共に、輝ける想い出を紡いでいける、\\n そんな未来が待っている――)", "329001011_123": "(――人と人がわかり合える奇跡。\\n そのために、オレは今度こそ――)" }