{ "329000741_0": "「そんな話は到底聞けぬワケダッ!」", "329000741_1": "「裏切り者を信用しろってのは、流石にね……」", "329000741_2": "「どうか、お願いしますッ!」", "329000741_3": "「全く、お前らしいと言えばお前らしいけどな」", "329000741_4": "「予想通りの展開だな。\\n 説得できるのではなかったのか?」", "329000741_5": "「うん、ちゃんとわかってもらうからッ!」", "329000741_6": "「……私は、その条件で構わない」", "329000741_7": "「ね? ほら、ちゃんとわかってもらえて――」", "329000741_8": "「――って、えええええッ!?」", "329000741_9": "「サンジェルマンッ!?」", "329000741_10": "「正気なわけッ!?」", "329000741_11": "「ああ。無論だ」", "329000741_12": "「今度こそ局長も黙ってないワケダッ!」", "329000741_13": "「その局長から課せられた任務は、キャロルの拘束だけでなく、\\n チフォージュ・シャトーの奪還も含まれている」", "329000741_14": "「片方だけでは任務を達成したことにはならない」", "329000741_15": "「そんなの、別々に果たせばいいだけでしょ?」", "329000741_16": "「2つの任務の間では、より後者の方が、\\n 優先度も緊急度も高いものと、私は考える」", "329000741_17": "「その扶けとなるならば、逃亡者との一時的な休戦も共闘も、\\n 已むを得ぬと判断する」", "329000741_18": "「無茶が過ぎるでしょ、その理屈……」", "329000741_19": "「ただし。\\n 身柄を保証できるのは、この事態が収拾するまでの間」", "329000741_20": "「その条件でよければ、私は立花響の提案を、受け容れよう」", "329000741_21": "「もとより大赦など望んでいない。\\n それで十分だ」", "329000741_22": "「ならば、聞かせてもらおうか。\\n まずは、事ここに至るまでの経緯とやらを」", "329000741_23": "「ああ……」", "329000741_24": "「ノエルの正体とは、やはり?」", "329000741_25": "「……ヤツは、過去にオレの創ったホムンクルス躯体だ」", "329000741_26": "「元は、オレ自身の器として用意したものだったが――」", "329000741_27": "「計画遂行のための手が足りず、\\n 急遽、サポートをさせるために、駒として置いたのだ」", "329000741_28": "「その辺の経緯は、エルフナインと同じだな」", "329000741_29": "「エルフナイン? 誰だそれは?」", "329000741_30": "「あ……うん。\\n その辺は、長くなるから、後で話すね」", "329000741_31": "「……まあいい」", "329000741_32": "「初めはオレの命に従い、計画の遂行を補助していた」", "329000741_33": "「だが――アレに触れたことで、ヤツの裡に邪悪な意思が目覚め、\\n 反旗を翻したのだ」", "329000741_34": "「アレって……?」", "329000741_35": "「ひょっとして、呪いの魔剣、ダインスレイフ……?」", "329000741_36": "「ああ。その通りだ」", "329000741_37": "「計画の核心に関する知識までヤツにインストールしていたために、\\n 計画そのものを横から乗っ取られたのだ」", "329000741_38": "「ザマを見たワケダ」", "329000741_39": "「もう。あんまりイケズ言わないの」", "329000741_40": "「……いや、構わない。\\n これ以上ない不様さだ」", "329000741_41": "「でも、力そのものは創造主のあなたの方が強いのでは?」", "329000741_42": "「ああ……本来はな。\\n だが計画の準備に力を使い、疲弊したタイミングを狙われた」", "329000741_43": "「しかもヤツは、オレに対抗するために、\\n シャトー内に罠を張り巡らせてから、牙を剥いたのだ」", "329000741_44": "「エルフナインが夢で見たくだりのようだな」", "329000741_45": "「ああ、らしいな」", "329000741_46": "「罠に掛けられたオレは、ヤツに抗し得ず、\\n オートスコアラーに足止めを命じて撤退した」", "329000741_47": "「いや……言葉を繕っても仕方ない。\\n 不様に逃げ出したのだ」", "329000741_48": "「そんなこと……」", "329000741_49": "「お為ごかしはいい。これを不様でなくてなんと言う?\\n 配下のオートスコアラーも奪われ、逆にこの身を狙われる有様だ」", "329000741_50": "「ノエルには、オートスコアラーたちの知識も渡していたの?」", "329000741_51": "「ああ。万が一オレが命題を果たす前に倒れた時、\\n 計画を引き継ぎ、遂行させるためにな……」", "329000741_52": "「その知識を使って、制御権を奪われたワケダ」", "329000741_53": "「あちゃー。やっちゃったわねえ……」", "329000741_54": "「本来ならばホムンクルス躯体もオートスコアラーと同様、\\n 創造主に従順なはず。反逆は予想外」", "329000741_55": "「――これが、ここに至った経緯というわけだ」", "329000741_56": "「ここまでは、こちらで把握していた情報と合致するな」", "329000741_57": "「今の所、騙そうという意図はなさそうね」", "329000741_58": "「なるほど。その点については納得できた」", "329000741_59": "「では、他にまだ納得のいかぬ点があると?」", "329000741_60": "「ああ……もう1つ、聞かせてもらわねばならない」", "329000741_61": "「お前自身の本来の目的が、なんであるのかを」", "329000741_62": "「…………」", "329000741_63": "「答えられないのか?」", "329000741_64": "「やっぱり、万象黙示録じゃ――」", "329000741_65": "「ッ!? なぜその名を知っているッ!?」", "329000741_66": "「お前が使っていたと思しき拠点から、\\n こんな資料を見つけたのだ」", "329000741_67": "「こ、これは――」", "329000741_68": "「そうか。既に知られていたのか……」", "329000741_69": "「ならば、今更隠す必要もないな」", "329000741_70": "「やはりこれは、お前の計画書なのか?」", "329000741_71": "「ああ、その通りだ」", "329000741_72": "「そんなッ!」", "329000741_73": "「やっぱり、お前も世界を滅ぼそうとッ!?」", "329000741_74": "「そうだ。世界を壊す歌の成就、\\n 万象黙示録こそが、オレの果たすべき命題だ……」", "329000741_75": "「だが、まさか装者にまで知られているとはな……」", "329000741_76": "「その上、協会の幹部ともあろうものが、秘技にまつわる資料を\\n 協会外の人間に見せるなど、予想外だったぞ」", "329000741_77": "「それは違うよ」", "329000741_78": "「何が違うと言うのだ?」", "329000741_79": "「わたしたちは、前から知ってたんだ。\\n 万象黙示録のこと」", "329000741_80": "「どういうことだ?」", "329000741_81": "「わたしたちは、見たんだよ。\\n キャロルちゃんが世界を壊そうとするところを……」", "329000741_82": "「ああ。この目で直接な……」", "329000741_83": "「そういうこった」", "329000741_84": "「何を言っている? まだオレは何も――ッ!?」", "329000741_85": "「この世界じゃあな」", "329000741_86": "「我々は別の世界――いわゆる並行世界からやってきたのだ」", "329000741_87": "「そんなバカな……」", "329000741_88": "「最初に会った時に、この世界では初めて会ったけど、\\n あなたのことを知ってるって言ったでしょ?」", "329000741_89": "「そんな突拍子もない話を信じろと?」", "329000741_90": "「証明してやるといい」", "329000741_91": "「わかりました」", "329000741_92": "「もういい……十分だ」", "329000741_93": "(オレの計画に、ダウルダブラ……、\\n 知られるはずのない情報……疑う余地は無いか……)", "329000741_94": "(エルフナインという不整合も見られるが……、\\n それでも、納得のいく話だ)", "329000741_95": "(並行世界……存在する可能性は十分にあり得る。\\n しかし、実際に行き来が可能だとはな)", "329000741_96": "「で、どうする?\\n 世界を壊すのが目的のやつと手を組むか?」", "329000741_97": "「確かに、危険性は高い……」", "329000741_98": "「やはり、拘束して協会へ連れ帰るのがいいと思うワケダが」", "329000741_99": "「大丈夫だよ、みんな」", "329000741_100": "(だって、前よりもずっと近く、\\n 手の届くところにキャロルちゃんがいるんだからッ!)", "329000741_101": "(例え間違いそうになっても、\\n わたしがその手を掴んで離さないからッ!)", "329000741_102": "「お前なあ……何が大丈夫なんだ?」", "329000741_103": "「前はいなかった、サンジェルマンさんたちもいますし、\\n わたしたち以上に錬金術に詳しい、心強い味方がッ!」", "329000741_104": "「立花響……」", "329000741_105": "「わたしらまでその不確かな計算に入れるワケダ」", "329000741_106": "「相変わらず無茶苦茶ね、この子……」", "329000741_107": "「疑念を抱くのも無理はない。\\n が、今はひとまず胸に留めておけ」", "329000741_108": "「このまま座視すればノエルが計画を発動してしまう。\\n それを防ぐには、1人でも多くの専門家の協力が必要だ」", "329000741_109": "「目下は、ノエルの計画を防ぐことを第一に考えよう」", "329000741_110": "「はいッ!」", "329000741_111": "「やれやれ……こっちの二課も、\\n お人好しの楽天家ばっかなのは変わらないな」", "329000741_112": "「フ……そう言う雪音もその一員だろう」", "329000741_113": "「先輩もな?」", "329000741_114": "「ああ」", "329000741_115": "(こいつらは、揃いも揃ってバカなのか?\\n オレの計画を知ったうえで捕らえることもしないなどと)", "329000741_116": "(いや、こいつ立花響と言ったか……。\\n この自信、オレの計画を止める算段があるのか?)", "329000741_117": "(……まあいい、ノエルを討ち、全てもと通りにしてやる。\\n そう、もとの計画通りに)", "329000741_118": "(必ず、パパの命題を達成してみせるッ!)", "329000741_119": "「話を戻そう。呪いの旋律を完成させるには、ダインスレイフ――\\n 呪われた魔剣の力でオートスコアラーを倒す必要があったはず」", "329000741_120": "「錬金術師たちが見つけた資料にも似たようなことが載っているわ」", "329000741_121": "「大量のフォニックゲインを持つ者に呪いの力を纏わせ\\n オートスコアラーを倒させることで旋律が完成すると」", "329000741_122": "「なら、放っておいても問題ないんじゃないか?」", "329000741_123": "「あたしらのギアの中のイグナイトモジュールは、\\n 昇華しちまったわけだし」", "329000741_124": "「正しい手順を踏むならば、そうだ。\\n だから本来は二課の装者を追い詰め、利用する計画だった……」", "329000741_125": "「そりゃ、面白くない話だね」", "329000741_126": "「しかし、ノエルはそれとは違う方法――装者を必要としない\\n 方法で呪いの旋律を作ろうとしている」", "329000741_127": "「どうやって?」", "329000741_128": "「シャトーを改造し、ダインスレイフと共鳴させることで、\\n 呪いの旋律を奏でられるように準備を進めているはずだ」", "329000741_129": "「なぜわかる?」", "329000741_130": "「本来、オレが準備していた予備プランの1つだからだ」", "329000741_131": "「そして、ヤツに錬金術師の知識を与えたのも、オレだ」", "329000741_132": "「現状の条件下で計画を成し遂げるには、\\n この手しかないと、ヤツも理解しているはずだ」", "329000741_133": "「そのプランでの詳しい発動条件は?」", "329000741_134": "「装者に依らずとも、先ほど話したシャトーの共鳴で、\\n 呪いの旋律が奏でられるようになったダインスレイフ――」", "329000741_135": "「その剣で、4機のオートスコアラーを斬れば、\\n 譜面に必要な旋律が刻まれ、世界を壊す歌は完成する」", "329000741_136": "「なんだってッ!?」", "329000741_137": "「今、そのどちらも敵の手の内にある……」", "329000741_138": "「では、今すぐにでも計画が実行に?」", "329000741_139": "「いや……。2つ問題がある」", "329000741_140": "「それはなんだ?」", "329000741_141": "「1つめは、呪いの旋律の代替生成方法だ。\\n 正規の手順でない以上、相応のデメリットもある」", "329000741_142": "「デメリット?」", "329000741_143": "「装者のフォニックゲインから個々に抽出するよりも、\\n 一挙に大量のエネルギーが必要となる」", "329000741_144": "「これにより、シャトーの起動準備を整えた後、\\n 短時間で旋律全体を完成させる必要が出てくる」", "329000741_145": "「わたしたちの世界では、オートスコアラー1機1機を\\n 倒す間に多少スパンがあったが……」", "329000741_146": "「その時みたいに、呪いの旋律のエネルギーを\\n 長く備蓄しとくことはできないってことか」", "329000741_147": "「そういうことだ。それ程までに巨大な力の確保には、\\n まだ時間がかかるはず」", "329000741_148": "「2つめは?」", "329000741_149": "「こちらの方が決定的だろう」", "329000741_150": "「肝心の譜面が、未だに完成していないということだ」", "329000741_151": "「譜面……そうかッ!」", "329000741_152": "「譜面が無ければ、旋律が刻まれる先が無い。\\n したがって、世界を壊す歌は創れない」", "329000741_153": "「ああ。その譜面そのものは、オレ自身が\\n ダインスレイフにより攻撃されることで、初めて完成する」", "329000741_154": "「そういえば、あの時は、わたしが――」", "329000741_155": "「だから連中は未だに君の身柄を狙っているのかッ!」", "329000741_156": "「ああ、そういうことだ」", "329000741_157": "「だが、万が一それらの条件が満たされたら、世界は――」", "329000741_158": "「……正しい手順を踏めば、分解、解析、そして再構築が\\n 行われるはずだが、ノエルの旋律ではどうなるか予想がつかない」", "329000741_159": "「本来あるべき手順を飛ばし、完全なダインスレイフの呪いを共鳴、\\n 強引に世界を壊す歌として機能させようというものだからな」", "329000741_160": "「下手をすれば、制御不能に陥り、分解の力で\\n 惑星ごと消滅させてしまうかもしれない」", "329000741_161": "「そんな……ッ!?」" }