{ "316000311_0": "コミュニケーション", "316000311_1": "「融合症例……まさか響くん以外にもそんなことがあるとはな」", "316000311_2": "「珍しく塞ぎ込んでるから何かと思ったけど……なるほどね」", "316000311_3": "「それで、その子はどうしたんデスか?」", "316000311_4": "「向こうの二課で、詳しく検査しながら、\\n 今はわたしたちと一緒に過ごしてるんだ」", "316000311_5": "「検査か……、嫌なことされなきゃいいけどな……」", "316000311_6": "「並行世界とはいえ、お父様のやることだ。\\n そんなことはないだろう」", "316000311_7": "「そうだな。ならまあ、いいんだけどさ……」", "316000311_8": "「でも……あの子のこと。\\n どうすればいいんだろう」", "316000311_9": "「どう、とは?」", "316000311_10": "「融合症例のことです」", "316000311_11": "「わたしの時は、未来の神獣鏡のおかげで助かりました」", "316000311_12": "「ああ、そうだったな」", "316000311_13": "「あの時のわたしと同じように、\\n 助けてあげたりはできないのかなって……」", "316000311_14": "「以前の響さんの時とは、大きく事情が異なるので、\\n 難しいかもしれません」", "316000311_15": "「事情が異なる? 同じ融合症例だろ?」", "316000311_16": "「同じであっても、経緯や要因が異なるので、\\n 一概に、対処方法も同じ、とはならないかと思います」", "316000311_17": "「そう、なんだ……」", "316000311_18": "「だけど、試す価値はあるんじゃないのか?」", "316000311_19": "「あいつにとって、\\n 身体に聖遺物が埋まってて、いいことなんてないだろ」", "316000311_20": "「もし聖遺物自体が、既に身体機能を維持する\\n 必須要素の一部となってしまっていたら――」", "316000311_21": "「……下手に取り除けば命にかかわるかもしれない、\\n そういうことね」", "316000311_22": "「それじゃ、治してあげることはできないのかな……」", "316000311_23": "「くそ……」", "316000311_24": "「あ、すみませんッ!\\n あくまで可能性の1つです」", "316000311_25": "「ただ、今は、侵食の進行速度に注意を払いながら、\\n 治療方法を探すしかないかと思います」", "316000311_26": "「…………」", "316000311_27": "「そう落ち込むな、響くん」", "316000311_28": "「師匠……」", "316000311_29": "「今、その少女にとっての一番の理解者は、\\n おそらく響くんだ」", "316000311_30": "「少女を救いたいと思うのならば、そんな顔をせず、\\n 必ず治ると信じて、笑って少女に接してあげるのが大切だろう」", "316000311_31": "「治ると信じて……」", "316000311_32": "「確かに、立花がそんな顔をしていたら、\\n 余計にあの子を不安にさせてしまうな」", "316000311_33": "「…………」", "316000311_34": "「わかりました。\\n わたし、絶対に治るって信じますッ!」", "316000311_35": "「だから今は、あの子に笑顔になってもらうために、\\n わたしに出来ることをしようと思います」", "316000311_36": "「それでこそ、響くんだ」", "316000311_37": "「それじゃ、お前たち、\\n また、近い内に向こうの世界に渡ってもらうことになるからな」", "316000311_38": "「それまで各自、英気を養っておいてくれ」", "316000311_39": "「了解しました」", "316000311_40": "「はいッ、師匠ッ!」", "316000311_41": "「――っていうわけでさ」", "316000311_42": "「その子、何を聞いても、じっと俯いたままで」", "316000311_43": "「わたし、何をしてあげたらいいのかもわからなくて……」", "316000311_44": "「そうなんだ……」", "316000311_45": "「せめて、あの子が何を考えてるのかが\\n わかるといいんだけどね……」", "316000311_46": "「はあ……ホント、どうすればいいんだろう……」", "316000311_47": "「それなら、筆談とかしてみたらどうかな?」", "316000311_48": "「筆談って……あの、文字でお話するやつ?」", "316000311_49": "「うん、そう。\\n 声が出せなくても、文字ならいけるかもしれないよ」", "316000311_50": "「なるほど。そっかー」", "316000311_51": "「あ……でも。あの子、外国の子みたいだけど、\\n 日本語、書けるかな?」", "316000311_52": "「まだ小さいし。なんかずっと施設に閉じ込められてた\\n みたいなんだよね。そもそも文字が書けないかも……?」", "316000311_53": "「もう、響ってば。\\n 普段は大胆なのに、変なところで臆病なんだから」", "316000311_54": "「未来……?」", "316000311_55": "「もし文字が書けなかったとしても、それを教えることで\\n コミュニケーションをとることが出来るんじゃないの?」", "316000311_56": "「そう、かな……」", "316000311_57": "「駄目で元々でしょ?」", "316000311_58": "「始める前から手を伸ばすのを諦めるなんて、響らしくない」", "316000311_59": "「うん……そうだね。やってみるよ」", "316000311_60": "「それでこそ響だよ」", "316000311_61": "「ありがとうね、未来」", "316000311_62": "「いやー、やっぱり未来は頼りになるなー」", "316000311_63": "「フフ……響の役に立てたなら、わたしも嬉しいな」", "316000311_64": "「でも……そうか。あの時の響と同じ症状なんだね」", "316000311_65": "「うん……」", "316000311_66": "「それは、心配だね……」", "316000311_67": "「そうなんだよね」", "316000311_68": "「それに、今も寂しがってないかな。\\n あの子、他の人にはあまり懐いてないから」", "316000311_69": "「フフ……なんだか響、\\n お姉さんっていうか、お母さんみたい」", "316000311_70": "「え? 本当に?」", "316000311_71": "「うん。特に今のは初めてのお泊まり保育に子供を出して\\n オロオロしてる子離れできないお母さん、って感じかな」", "316000311_72": "「え、なにその例え。すごい具体的」", "316000311_73": "「とにかく。\\n 心配するのはいいけど、ここで心配しすぎても意味ないよ?」", "316000311_74": "「弦十郎さんにも、ちゃんと休むように言われたんでしょ?」", "316000311_75": "「あ……うん」", "316000311_76": "「また向こうに行くまでの間に、\\n 身体も心もちゃんと休めておかないと駄目なんだからね?」", "316000311_77": "「そうだね……。\\n ありがとう、未来」" }